19話 日本人一行vs庭
今、私たちの目の前には叫んで動く様々な大きさの魔草が生えていて、扉から半径3mほどの半円の外(結界みたいなものが張られているらしい)は踏む場所すらなく、奥にいけば行くほど私たちの身長を裕に超える草も増えるため、庭の果てすら認識出来ないほどの酷い状態だ。見えるのはせいぜい10m先まで。
「依頼書通り、道具はきちんと此方で用意してますからね。」
予想の斜め上どころか地面と垂直方向な現状に唖然としている私たちを特に気にする素振りも見せず、地獄絵図を背にマーシュさんはどこからか鉈やらマチェットやら鎌やら、様々な雑草狩りのための道具を持ってきた。中には斧まである。物騒極まりないが、この地獄絵図の庭の中に入るのには、非常に頼もしく見える。
「じゃあ私は鍬にしよ。」
道具の中で一番慣れた武器(?)である先端が三つに分かれた鍬を手にすると、関西人は斧、チャラ男はマチェット二つを手にした。
「魚佳はどれか選ばへんのか?」
「妾は魔法を使うので問題ないのじゃ!」
「じゃあ私と関西人とチャラ男で前衛をして、魔法を発動する関西人妹を守るって陣営ってことで。」
「了解。」
「ほな、行くでぇ!!」
とりあえず簡単に陣だけ決めておいて、作戦などは正直情報がないので立てようもないと判断して、その場その場で頑張ろう。という結論に至った。
関西人が斧を振りかぶって、チャラ男がマチェットを構え、そして私は鍬を強く握り、蠢く雑草の中へと突撃していった。
ーーー庭との戦いが、始まった。
言葉にしてみると、やはり意味が分からないとは思うが、この世界に来て以来、意味が分からないことだらけなので、もう慣れてしまった部分があった。
「でやぁぁぁぁぁっ!!」
薄ぼんやりと黄緑色の光を纏う斧を振り回して、大きく見開かれて血走った目と裂けた口を持つ小豆色と深緑色の縞模様の、関西人の等身大もある雑草の茎をいくつも同時に横に切る関西人を見て、私は驚いて思わず声をあげた。
「あれ、魔具なの?!」
魔力を流すことにより、刻まれていた魔法陣を起動させ、魔法を起こすことのできる魔具(もしくは魔導具か魔道具)は、魔法を発動させるときに、その発動させる魔法によって様々なエフェクトを発生させる。
ーーーとディートリヒさんは言っていた。
今、関西人が持つ斧が放つ黄緑色の光は、魔具の大半に付与されている肉体強化魔法系統の魔法を発動していることを示している。
一見すれば只の農作業用の道具が魔具など、一体誰が予想できようか、いやできない(反語)。まったく…漢文で出てくる反語の文の訳には随分と苦しめられたものだけれど、突拍子もない状況になると、気持ち的にどうしても使わざるを得ないね。
「魔具って確か…魔力を流すと魔法を発動するって言うやつか。」
げぎゃぎゃぎゃ、と気味悪く笑う、腰丈の赤と緑のクリスマスカラーの魔草を、マチェットを使ってざくざくと切り刻みながら私に確認するチャラ男に、私は足に絡み付いてくる数々の魔草を根っこごと鍬で掘り起こしながら、そうね、と返す。
千里の道も一歩から。火中の栗は拾わない。人間以上のサイズの雑草は置いといてまずは雑魚そうな雑草から地味に抜いていこう。草は地面に埋まって動かないはずだし、これで地面から抜け出して走り出そうものなら、それは最早草でも何でもない。
「ただ、元から持ってる<特技>としての肉体強化魔法と重複して発動出来るかって聞かれたら分からない。…てか、多分出来ないと思う。」
「そうなのか。…言われてみれば、そうかもな。」
抜いた魔草を麻の袋に突っ込みながらの私の言葉に、チャラ男は納得する。
「正直言って今回は<特技>の出番は無さそうね。良い練習になるかと思ったけど、…せいぜい関西人妹の魔術の練習くらいかしら。」
そう言って関西人妹を一瞥すると、未だ魔術の本を選んでどの魔法を発動するか選んでいる最中だった。手際悪ッ!と思ったら、ようやく決まったらしく、空中に人差し指で円を描き始めた。人差し指が虚空を撫でると光の線が現れ、様々な模様や文字を組み合わせた魔方陣が描かれていく。そして似たようで少し違う円が5つ組み合わせるように描かれ、完成する。
「兄者!そこをどくのじゃ!」
「分かった!」
「行くぞ…我が秘術!無限の業火に焼かれよ不浄!我は火司女!我求めしは焼原なり!此の者達に救いの浄火を…紅焔!!!」
…。
魔方陣は、沈黙したままだった。
ゲギャギャギャギャ…!
「うおっ、巻き付くなッ!痛い!噛まれたんやけど!」
「ちょっと仰々しい前振りしたのになにも起きないじゃない!いぎゃあっ?!舐めるなッ雑草ぉぉぉぉぉぉ!!! 」
「おかしいのぅ…これで合っとるはずじゃが…。」
頭を捻って本と魔方陣を見比べていると、光は空気中に霧散して魔方陣は消えてしまった。
「もう一度やってみたらどうだ?魚佳。」
「わ、分かったのじゃ、利人殿。」
チャラ男が草を刈る手を止めてそう促し、関西人妹はもう一度魔方陣を描いて詠唱する。しかし、変わらず魔法は発動する様子は微塵も無い。
魔方陣を描くのにはどうしても時間がかかる。つまり、この間チャラ男と関西人妹を守る前衛は私と関西人だけで、地味に大変なことになっていた。
蔓が腕や脚に絡みつく。血圧計よりかは締め付けは緩いけれど、問題はそれが付け根に向かって伸びてくることだ。関西人は学ラン、つまり長ズボンだから良い。私はワンピースゆえ、直接感触を味わう上にそれがスカートの中に入っていく。完全に薄い本展開だ。
「ひっ、い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
半泣き、かつ半狂乱で鍬を振り回すけれど、ここで鍬を選択したことを後悔した。切るのではなく掘り起こすことに特化したそれでは伸びてくる蔓を叩いて千切るしかできないが、魔力により強化された蔦を叩き千切るのはひどく効率が悪く、次々と蔓が私に襲いかかる。
ちょっと私の方が割合多くありませんかそうですかロックオンですか。
「上等だぁ…全部叩っ切ってやるよ!!」
嘲笑しながら、にやりと悪人面して笑う私の沸点は多分低い方だ。多分、と言うのは、今私自身、自分が怒っているかどうかの判別が難しいからである。
今の私はどちらかと言えばーーー楽しんでいるのかもしれない。手にある武器を振るって、何かを倒す。モン○ン好きな私だから、存外戦闘狂の気があってもおかしくないと思う。
さて、現実に戻ろう。自問自答していても軽い薄い本展開から免れることはない。
とにかく鍬の先端を使って蔓を切ろうと試みるけれど、流石に無理があった。針の穴に糸を通すように、うまくいかない。
そうしてもたもたしている間にも蔓は私の腕や脚を拘束し、段々と身動きがとれなくなっていく。マズイ、非常にマズイ。
焦りはつのるばかりで、冷や汗が止まらない。
「生川。」
ふと、チャラ男の声が聞こえたと思うと、私を拘束していた蔓はマチェットによって切り裂かれた。肉体強化の魔法のお陰で強化されたスピードは、その動きを捉えることすら、難しかった。
突然拘束していたそれらが全て無くなり唖然としていると、チャラ男が落ち着き払った様子で此方を見た。…こいつ茶髪の割りには全然チャラくないなと今更ながらに思ったのは秘密だ。
「あ、…ありがと。」
「礼は要らない。こっちの方がむしろ礼を言うべきな方だ。
とにかく前衛は任せて、生川は魚佳の魔法のサポートに回ってくれ。」
「ちょ、魔法は発動しないんじゃ…」
「恐らくだが…呪文が日本語じゃないから、発動しないんじゃないか?」
「!…一理ある、か。分かった!」
全てを説明されずとも理解した。私に、呪文をこちらの言葉に訳せ、と言うことらしい。前衛は男共にまかせて、私は関西人妹のもとへと戻った。彼女はすでに魔方陣を完成しかけていて、早急の呪文詠唱が求められる。空に描いた魔方陣は空気中に存在する光素と言うもので構成されていて、魔法が発動せずに時間が経過すると空気中に霧散して消えてしまう特徴がある。故に、急がなければならないのだ。
手順としては、関西人妹が本の文字を翻訳→私が口頭でこちらの言葉に再翻訳→関西人妹が再翻訳した呪文を復唱→魔法発動。という流れだ。
め ん ど く さ い に も 程 が あ る 。
しかし方法が今はこれしかないのもまた事実。やるしかない。
「お願い!」
「了解じゃ!よく聞いておれよ!
無限の業火に焼かれよ不浄!我は火遣使!我求めしは焼原なり!此の者達に救いの浄火を…紅焔!!!」
長い上に厨二溢れる呪文。出来ることなら唱えたくない。何せこっちの世界に来てから動物と喋り動物と喋り…言葉を発することで微妙な反応をされまくっていた。これ以上哀れんだ目で見られたくはない、が、そろそろ慣れてきてしまっているのが、悔しいというか悲しい。
「そっちこそ一度で覚えなさいよ!
ーーー『無限の業火に焼かれよ不浄。我は火遣使。我求めしは焼原なり。此の者達に救いの浄火を…<紅焔>』!!!」
私の翻訳を言い切らないうちに関西人妹は復唱を始めて、何とか魔方陣が消えてしまう前に詠唱を終えることができた。
「男二人、どいて!」
私の掛け声に二人は大きく跳躍して、私たちの後ろに着地する。
直後、その隙を狙って数々の蔓が私たちめがけて、その体を縛らんと伸びてくる。
同時に、魔方陣が赤く光輝き、ぱちぱちと何かが爆ぜる音がする。
「ーーー…<紅焔>!!!!」
関西人妹が叫んだ。刹那、魔方陣のまえに巨大な、直径3mほどの巨大な火球が現れ、傍にいる私たちまで熱する。例えるなら、高温の炉を覗いている感じだ。
顔面を焼く熱さに耐えきれず腕で顔を覆い、熱が過ぎ去るのを待つ。ごう、と凄まじい音の後、熱が引いたのを感じて恐る恐る腕をおろして庭を見るとーーー庭はほぼ焼け野原と化していた。数多くの奇声をあげていた魔草は炭化し、壁の煉瓦は表面が黒ずんでいる。じいさん、ごめん。煉瓦は犠牲になったんだ。
庭の様子に目を剥く一同。予想外の魔法の威力に驚いた、と言うのもあったが、しかしそれ以上に…まだ残っている植物があることが、衝撃的だった。庭の最奥に位置する、高さ5mはあろうかと言う表面は焦げているが、もぞもぞと蠢く巨大な蕾。
「まさかとは思うけど…ラスボスやあらへんのか?」
「妾の秘奥義でも焼ききれぬと申すか…。」
「その、まさかだろうな。」
「あー、めんどくせぇぇぇ…。」
関西人はまさかと言って苦笑し、関西人妹は驚愕に目を見開き、チャラ男は眉間に皺を刻み、私は半眼で欠伸すると、外側の焦げた部分を突き破って、空気を震わせる咆哮と共にまさに人間のような五指と二本の腕を持つ巨大な木が現れた。高さはおそらく8mほど。
猫目よりもさらに細い赤い目を見開き、青々とした葉を茂らせ、人間のような両腕を持った、この木何の木的な化け物は、再度咆哮した。皮膚がぴりっと痛む。恐怖か興奮か、心臓が早鐘のように脈打つ。それでも私たちは各々の武器を構え、眼前の化け物を見据えた。
「さぁ、…一刈り行こうぜ!!!」
歓喜に満ちた声で、私は叫んだ。
応援ありがとうございました!灯火先生の次回作にご期待下さい!
嘘です。打ちきり作品みたいな終わりかたですが続きます。
作品を読んでくださってありがとうございます。拙いものですが、よろしくお願いします。これから何の気配も無い恋愛要素やシリアスとかを増やしていけたらと思います。
次回、一刈り行こうぜ!
※火司女→火遣使
変更しました。
追記:変更していない箇所があったので修正




