18話 二つ目のクエスト開始
※冒頭のマーシュさんの口調が変だったので修正。
依頼主である爺さんの家までは、馬で実に片道一時間と言う距離。
色々考えた挙げ句、馬を借りて乗るのが良いと言う結論に至り、馬を三頭、借りることとなった。
交渉人は、勿論私。え、誰と交渉するかって?あはは、何を当然のことを。勿論…
「で、人参2本だっけ。」
『…いや3本だ。』
「チッ。分かったよ3本で手を打とう。」
ーーー馬だよ。はいはい馬と会話なうですよ。
「お、生川さん…何も適当に鳴けば話が通じる訳や無いんやで?」
「それ以前に向こうの言葉が理解できないだろ。」
「…妾にも訳が分からぬ。」
止めろ。まるで私が可哀想な奴みたいに言うんじゃねぇ。
何なの?役立つ魔法だけどさぁ、見てる人には引かれるんだよ。今なんか自分じゃわからないけど絶対ヒヒンヒヒン鳴いてるって。…想像したら凹んできた。
「おら、さっさとしろよてめぇらぁぁぁあ!ちんたらしてる暇なんかねぇぞぉぉ馬に乗れよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
べっ、別に傷付いてなんかないんだからねッ!目から溢れてるのは塩水なんだからねッ!!
別に顔を手で覆って大空を仰いでジーザスなんかしてないんだからねッ!(意味不明)
「じゃあ、しゅっぱぁぁぁぁぁつ!!」
『心得た!』
私が(馬語で)号令をかけると、各々が返事をして走り出してくれた。ちなみに私、チャラ男、関西人・妹と別れて乗っている。
馬術の経験など微塵も無い私たちがどうやって馬を乗りこなすかだって?ハハッ、愚問だね。…直接私が指示すれば良いだけの話じゃないか!!意思疏通出来ればあとはどうとでもなるし、馬車に比べれば節約出来るし!万々歳じゃないかぁ!!!(ヤケクソ)
「…もうやだ。萎えた…。」
「おい、現場に着く前からかよ。」
「いーよどーせ私は訳の分からない動物語を喋る女ですよぉ。」
「その、す、すまぬ…!まさか魔法だとは思わなかったのじゃ…!」
「やから気ぃ落とさんでや?な?」
「うっせーよ、もう呼べよ。ヒヒン子って呼べよ…。」
「重傷だな。」
「メンタル弱ッ!」
「もう私の話を聞いてくれるのはお前だけだよ…名前なんだっけ。」
『フォッカツォエラだ。』
「長い。分かりにくい。フォカッチャで。」
『お嬢ちゃん…その可愛らしい足で俺の…ハァ…腹を蹴ってはくれんか…ハァハァ。』
「そっちの馬。てめぇの馬語は通じてねぇし通訳もしねぇからな。」
何で借りた馬にドMが混じりこんでるんだよ…ふざけんなよあの馬商人。まあ関西人兄妹に押し付けたからどうでもいいけれど。
…その代わりに、武士くさい馬に乗ることになったのは微妙な気分だ。さっきから小言がうるさい。
『主はもっと女子らしく慎ましやかにした方が良いぞ。そのようでは好いた男に振り向いてはもらえんぞ。男の1歩後ろを常に歩き、声を荒げず、まるで一輪の百合のように佇み…』
「ケツ穴に人参突っ込まれたくなかったら今すぐ黙ることね。アンタと喋る度にアイツら(関西人共)に微妙に憐れんだ顔されて堪んないのよ。」
おい、だから私がヒヒンヒヒン言ってても聞かなかったことにしろと言っただろう、あれほど。地味に何怖がってんだ関西人共!
『いやなに、我らの話を聞いてもらうと言うのが新鮮でな。わざわざこんな家畜の我らの話にわざわざ反応を返してくれて、主は優しいな。』
「!…アンタ、自分のこと家畜だと理解してんの?」
『我は生まれる前より家畜だ。そんなこと、教えられずとも分かっている。
それとも何だ。我のことを同等の存在として見ていたとでも言うか?』
「…、そんな訳、あるかよ。今のあんたは人間に飼われている。家畜以外の、なんでもないわ。どこかのマンガの主人公みたいに可哀想だなんて微塵も思ってやらないから。」
『…………………………やはり主は、優しいな。』
優しい?
「バカにしてるのかしら。」
『…。』
馬は、私の言葉には答えなかった。
一度、小さな村を経由して、しばらく。周りには民家の一つも見当たらない辺鄙な山の側に、依頼者の家があった。とにかく建物のサイズが大きく、私が通っていた全校生徒1000人ほどの中学校の校舎にも迫るレベルである。
「家がでぇぇぇぇっかいのぉぉぉぉぉぉぉ!!…うぇっぷ。」
馬から降りて一番に、場の全員の感想を代弁して叫んだのは関西人妹だった。酔いながらも叫ぶあたり、やはりこいつはバカらしい。
「そりゃ馬の上で本読んでたらこんなになるよな。」
「魚佳、吐くなら今のうちに吐いとき?」
呆れたように、チャラ男と関西人。
本、と言うのは古本屋で購入した、魔法の書である。魔法は、魔法陣の刻まれた道具を介して発動させるのが今主流であるが、古代は空間に直接魔法陣を描いて発動させるのが主流であった。今では魔具に比べあまり見られない魔法の発動方法だが、複雑な魔法や巨大な規模の魔法は、今の技術では直接空間に描く他ない。
この本には数多くの初心者~上級者程度の魔法が書かれていて、文字が読める関西人妹ならばもしかしたら魔法が使えるかもしれないと思い、私が購入した。己の微かな知識を総動員させて読んでみても私にはさっぱり分からなかったのがやや寂しい気もしたが、作業分担と割りきっておいた。
「…。」
改めて、依頼者の家を見上げる。…でかい。
「何だ、緊張してるのか?」
「…んな訳ないでしょ。」
正直心臓が五月蝿いけれど、無理矢理それを抑えて、目の前の巨大でアンティークな雰囲気漂う扉の向こうに呼び掛ける。
「すみません、依頼を受けたギルドの<自由人>です。マーシュ・オリヴィアさんは居ませんでしょうか。」
マーシュ・オリヴィア。今回の依頼主で、人気のない辺鄙な豪邸に住む一人の老人。年齢を重ねて、庭の手入れが難しくなったため、ギルドに依頼したとのことである。
少しして、白髪の老人が扉を開けて現れた。線も色も薄くなってしまった短い髪はきっちりと整えられて、こんな豪邸に住んでいるとは思えないほど凡庸な服をきっちりと着こなしている。緩やかに垂れた目許には年齢を感じさせる皺が刻まれていて、パット見、優しい近所のお菓子をくれるおじいちゃん、という感じだった。
「遠いところからよくお出でくださいました。さぁさ、中へどうぞ。」
発した声も、穏やかで優しげで、こんな世界に来て緊張ばかりだった関西人たちの緊張の糸が少しだけ緩むのを感じた。
「すみません。失礼を承知で言いますが、此方の事情により顔を見せることは出来ませんので、どうかご理解お願いします。」
「いやいや、構いませんよ。こんな老いぼれの頼みを受けてくださるだけで、有難いことです。」
…しかし緊張、というか警戒、と言うべきか。私だけはこのお爺さんに距離を置いていた。元々こう言う優しい老人と言うのは私の苦手とする類いの人間だ。嫌いな訳ではない。信用してない訳ではない。ただ此方が何もしていないのに色々と尽くしてくれる、というのが少し怖くて罪悪感のようなものを感じるから、苦手なんだ。
私の祖母、祖父は、初めての孫の私を幼い頃から可愛がってくれていた。しかしいつからか、私はそんな風に可愛がられるような価値の無い人間だと確信してしまったとき、私は彼らに大きな罪悪感を抱えるようになってしまったのだった。何もしていないのにお小遣いをくれたり、お菓子をくれたり。優しく笑顔を向けてくれる度に、私の心は沼に沈むように、ずぶずぶと、どろどろと、汚くなっていった。こんな汚い本性を知られたら一体どんな反応をされるのだろうか。私はそれが堪らなくーーー…
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。」
「ッ…え?あ、すみません…ちょっとぼーっとしてしまって…。」
マーシュさんの言葉に我に帰って、慌てて謝罪する。ダメだ、依頼人の前で他の事を考えたら。
「早速で申し訳ないのですが、問題の庭の方に案内してもよろしいですかね。」
「あっ、はい。よろしくお願いします。」
「いやはや、歳ですから庭の管理がどうにも手に終えず、すっかり荒れ放題になってしまったのです。本当は庭で栽培していた薬草は妻が全て管理していたんですよね。」
からからと笑うマーシュさんだけれど、反対に私は気まずくなってしまった。言葉が理解できない関西人たちには気付かれていないが、マーシュさんの説明からして、奥さんは少なくとも今ここにはいない。おそらくは、死んでしまったの…
「お恥ずかしい話ですが、妻に逃げられましてね。」
余計に空気が重くなった瞬間だった。このじいさん、何したんだよ…。
げんなりとする私を怪訝に思って、関西人が私に耳打ちしてきた。
「一体何話されたんや?」
「奥さんが蒸発したって話。」
「…すまんの。」
私の言葉を聞いて、話を理解していなかった関西人たちも私と似たような微妙な表情をした。
「はは、お気になさるような話ではないですよ。蒸発したのは、もう何十年も前の話ですから。
…あぁ、着きましたよ。本当に荒れ放題ですからね、まあ一度見てくださった方が早いです。」
こんな話気にするなとか、難易度高すぎると思うんですが、じいさん。
と思ったけれど、今はつっこんでる場合じゃない。玄関とは別の、裏手の扉を言われた通り開けて庭の様子を見てーーー…
「いぎゃぁぁぁぁぁぁ?!?!」
瞬間で、叫んで、私は何も見なかったように扉を閉じた。え?ちょっと待っておかしいと思うんだけどあんなの?!
「はっはっは。確かに荒れ放題でしょう?」
何呑気に笑ってるんだよジジイ!!!てめえぇぇぇぇぇぇ!!!
密かに殺気を放っていると、状況を微塵も理解できない関西人たちが何があったのかと問いかけてきたので、扉を開けて庭の現状を見せてやる。
「なッ…?!」
「なんなのじゃ…これは…!?」
「おいおい、ちょっと待てよ…。」
ーーーそこは庭、と言うには些かおかしい場所だった。
人の身長を超える草が、それぞれ意志らしきものをもち、声らしきものを叫び、鋭い牙を剥き出しにし、互いを食らう、阿鼻叫喚の地獄絵図だったのだった。
「いやはや、薬の生成に使う魔草がこのように魔力を蓄積して、それぞれが意志を持って動き出してしまいまして。このように荒れたのですよ。」
かんらかんらと、愉快そうにマーシュさんは笑った。
それに私たちはまるで示しあわせたかのように、
「「「「想像してた荒れ放題と違うんだけど?!?!?!」」」」
頭を抱えて叫んだ。
庭と私たちの戦いが、今始まる。
読んでくださってありがとうございます。
次回、庭掃除ではなく雑草と掃討バトル、開始です。
補足ですが、前述しましたが魔力を蓄積した生物や無機物、有機物などは意志を持って動いたり言葉を喋ったりします。




