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だから私はやる気が出ない。  作者: 灯火
二章 そうだ、王都に行こう編
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16話 強制労働イベント

銀貨数枚→10枚に変更しました。諭吉さん入れられてた感覚ですね。



ディアこと、私は憤慨していた。

何やかんやと私に突っ掛かる関西人だけでも面倒この上ないことであるのに、先程届いた手紙には、何やら流暢な文字で、今日明日は帰れないから働け。と銀貨10枚ほどが同封されていた。つまりはこの金でギルドに登録して働け、と言うことだ。なんたる強制労働イベント。

帰ってきたら腹にグーパンの一発でもいれてやろう。うん、そうしよう。イライラしても余計にイライラする結果になるだけだし、クールに、ダウンに行こう。

大きく一つ、息を吐いて、気持ちを(完全ではないにしろ)切り替える。


「ギルドに行く前に、一つ確認しておくことがある。この世界に来て何か違和感があったら、教えろ。この世界に飛ばしてきた主が私と同じなら、この世界で生きていく能力を一つ、貰っているかもしれない。それが使えれば、非常に便利なはずだから。」


やっぱ無理だ。少々八つ当たり気味に言ったかもしれないけれど、そんなのは知ったことじゃない。


「違和感…確か、奴隷狩りのおっさんと戦っとる時に、何やおっさんの動きがスローモーションに見えたんやけどーーー…」

「何だそれ。よくある命の危機に瀕した時にスローモーションに見えるとは聞くけど…。」

「でもな、利人。妙に思考がはっきりしてたっちゅーか、それとは違う気がしたんや。」

「…何だそれ。」


スローモーション、ねぇ…。もしそれが<特技(ユニークスキル)>なら、戦闘において使えるかもしれない。一度試す必要があるけど…なんか無いかな。お、あった。


「じゃあ、試そうか。」


そう言って私が関西人妹に指示して取り出させたのは、消しゴムと名前ペン。


「この消しゴムに数字を書いて飛ばすから、それ当ててね。」

「…見れたら、そう言う魔法を持っとるってことになるんか。」

「勘で当てたらぶん殴るから。」

「せえへんてそんなの!」

「じゃあ行くぞー。」


下らないやり取りをしている内に消しゴムの六面全てに6と書いて、関西人の顔めがけて全力投球した。そうだ、悠仁だからジンと呼ぼう。酒屋の息子だから酒繋がりで中々良いんじゃないか。ジンとウオッカ。

消しゴムを投げながらそんな風に考えると同時に、投げた消しゴムが見事関西人の鼻先にクリーンヒット…するかと思ったが、関西人は顔をそらして避けた。かなりの至近距離で、さらに不意打ちであるにも関わらず、そして当てる気満々で投げたのに避けられたことに思わず私は目を丸くした。


「ちょ、何でいきなり投げんねん!危ないやろ!」

「で?数字は。」

「…6や。」

「ワオ。」


どうやらスローモーションに見えたのは、魔法によるものだったらしい。


「で、実感はどう?」

「周りの時間だけ遅うなった気分や。」

「ほぼ確定。思考回路を一時的に速くする魔法だと思う。違うかもしれないし、他に能力があるかもしれないけど。」

「凄いな、悠仁。」

「今んところ使い道少ないけどな?」


リヒトの素直な称賛に、ジンは少し照れながらも謙遜した。

事実、使えるかどうかは私にはよく分からない。物語の主人公のように運が良かったり頭が回ったりはしないから、私の意見は間違っているかもしれないし、まだ使っていない能力があるかもしれない。現状、私たちはあまりにも無知だ。一週間先に此方に居て、かつディートリヒさんの庇護下にあった私でも一人になるとどうしようもなく不安になる。

ーーー些か依存、と言うか甘えてしまっていたようだ。私は働きたくない動きたくない。その上に他人の力を借りたり頼るのは躊躇う傾向にある。ベースには他人を信じられない、とか失敗を他人のせいにしたくないだとか、諸々あったりする。


「他に何か気付いたことあったら伝えなさい。仲間同士の情報伝達は命よ。」

「…仲間?」

「は?…あっ。」


言ってから気付いた。これじゃあ私含め仲間よ!って宣言したも同義じゃないか。


「失言だった。知り合いに訂正する。」

「いきなりランク下がったっつーか、一気に情報伝達する価値が減ったよな。」

「五月蝿い。チャラ男は何かあるの?」

「チャラ男って…」


ちょりーっすとか言わないのかな、流石に…古いか?


「そう言えば、一瞬すごい聴覚が発達したような…」

「そうじゃ!妾は大きな声を出しておらぬのに、兄者共は妾を見つけた。妾は不思議でならぬのじゃ…。」

「もしかしたら、感覚強化って感じか。…耳だけよくなるとかどう足掻いても使えない。五感全部強化されると仮定したら、集中するととんでもなく遠くが見えたりするんじゃない?」

「よし、いっちょやってみるか。」


何を考えたのか物は試し、とリヒトは窓から顔を出した。

不思議そうに続々とリヒトの背後から窓を出そうとするジンにマントを被らせた後、私もリヒトの背から窓の外を覗く。

視線の先には、この国の王族が暮らす巨大な城があった。


「リヒト、何か見えたりするもんあるか?」

「まあ待て、…むっ!」

「何じゃ、何が見えるのじゃ?!」

「…おい悠仁。…すげぇ可愛い女の子、いるぞ。」

「自分は何見とるんや、この阿呆がッ!」

「で?どんな風に可愛いの。」

「生川さん食い付くんかそこ?!」


失敬な。むさい男よりかは、この国の王族の女の方が良いに決まってる。何か聖なるにおいとか纏ってそうだね。


「おぉ…あれがまさに姫って奴だな。

髪とかプラチナブロンドだぞ。初めて見た。すげぇ…人形みてぇ…。」

「関西人。見えるか、姫とやらが。」

「だから何なんやその呼び名は…。いや、城があるぐらいしか分からへんが。」

「じゃあチャラ男の女好きと能力が露見したところで区切りを付けるか。」


チャラ男は感覚強化…っと。まだ検証は出来ていないけれど、嗅覚や味覚も強化できるだろう。味覚を強化して何か良いことがあるのかはまだ分からない。しかし、こっそり香辛料ぶちこんだ料理を何やかんや理由を付けて味覚強化状態で食わせたらどんなことになるだろうか。いや、嗅覚と味覚同時に強化出来るようならバレる可能性も…いやいや、もしそうなっても、感覚強化の実験だと称せば問題はあるまい…。


と、そこで沈黙した私を訝しげに見る三人の視線に気付いて、慌てて咳払いして誤魔化す。危ない、チャラ男を辛子漬けにしよう計画を悟られるところだった。


「…それじゃあ後は、」

「妾じゃ!」


元気良く挙手した関西人妹。


「何かある?」

「そうじゃのう。天命を受けし妾に神が授けたもうたモノは強大すぎて妾でさえも制御するのが難しい、おぞましき力であるが…」

「おい兄。分からんから要約しろ。」

「特に無いって言うてます。」


へーえ、随分と遠回りな説明だなあ。

私が静かに商人のおっちゃんから貰った魔導具の杖を振りかぶると、即座に関西人に腕を捕まれて止められた。離せ関西人。この小娘に年上への敬意と言うものを教えてやるんだ。


「ちょちょ何する気や自分!てか目据わっとるで!怖いで!!」

「おい小娘ェ…次まどろっこしいこと言ったら奴隷商に売り飛ばすぞ。私は面倒くさいことが大嫌いなんだ。良いな。」

「いや小娘って…自分も女の子やのに…。」

「男の癖に細かいこと気にすんなよ。だから何時までたってもカノジョできないんだよ。」

「今関係あらへんやろ、それ!ちゅーか自分、人のこと言えへんやろ!!言葉遣いなんか全然女の子やあらへんし!」

「あ゛?なぁんで私が乙女ゲームの主人公だとか安いラノベのチョロインみてーな性格しなきゃなんねーんだよ海に捨てっぞ!」

「せっかく綺麗な顔しとるのに勿体無いって言うとんのや!」

「…はぁ?」


予想外の関西人の一言に私は、素っ頓狂な声をあげてしまった。

脳が言葉の意味を理解するのを拒否して、数秒固まって、


「バぁッカじゃないの?!」


そう、吐き捨てた。

可愛いとか言われて顔を赤らめて照れるとでも思ったか?甘いんだよ!!そんなチョロ甘ヒロインな訳ねぇだろ!むしろ逆効果だ。

可愛いだとか綺麗だなんて言葉の9割方が社交辞令だと、私は信じているぞ。


ただそれよりも、


「や、その、違うんや今のは!いや不細工言うとるんや無いんやで?!やから怒らんでくれ!堪忍してくれぇぇぇ…!」


自らの発言に顔を真っ赤にして悶えている、むしろ私よりもずっと乙女らしいこいつをどうしたものか。


「…はぁ。なんかもう、どーでも良いや。」


さっきから関西人とぎゃーぎゃー言い合っているような気がする。成る程、こいつとは余程気が合わないらしい。


「そろそろ、ここの街のギルドに行こうか。今日は登録をして一通りどんなクエストがあるかを見るくらいはするつもりだから。」


もう宿に居ても仕方がないと判断して未だにセーラー服な私は着替えようかと立ち上がった。


「あいつ、照れたな。照れ隠ししたな。」

「照れ隠しじゃな。ツンデレじゃな。」


「良ーし死にたい奴から表出ろー。」


照れてねぇっつの。

前途多難な未来を確信しつつ、私は買ったばかりの服を掴んだ。


…ディートリヒさん、何で帰ってこないかなぁ。


いつも読んでいただきありがとうございます。次回、初めてのクエストです。

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