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だから私はやる気が出ない。  作者: 灯火
二章 そうだ、王都に行こう編
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15話 Yes知り合いNo友人



酒々井(しすい) 悠仁(ゆうじん)は関西圏の普通の男子高校生(実家は酒屋)だった。頭のできも偏差値50より少し上ぐらいのレベルの高校の、顔のレベルもまあ普通。彼女いない歴=年齢の、彼女持ちと言うステータスに憧れるものの恋らしい恋をしてこなかった、女子に免疫の無い、結局は童貞野郎なのであった。


そして悠仁は呆然としていた。確か自分は家に帰る途中で、妹の魚佳と友達の利人と歩いていたはずで。

なのに今いる場所は確実に日本ではなかった。遠くから聞こえる人々の言葉は、まったく理解できない。道路も建物も石造りで、若干ヨーロッパの街を彷彿とさせた。


(まさかとは思うんやけど、ここヨーロッパのどっかかいな?)


悠仁は空を仰ぐ。ビルに囲まれた都市よりも、ずっと空が、近くに見えた。


「悠仁…?」


不意に話しかけられて振り返ると、数年来の友人、利人がいた。彼の姿を見て、思わずほっとして小さく息を吐く。


利人と悠仁は、高校に入学して出会った、今のところ一番仲の良い友人であった。出会いは普通で単純な、ただクラスメイトでふとしたことで話し始めて、馬があって、気付けば一緒に行動するようになった、そんな友人関係だった。

茶髪という見た目のせいであまり他人から好印象は受けなかったが、実際利人の性格は、悪くはないと、悠仁は知っていた。それどころか、下ネタ大好きの健全な男子高校生だった。


「利人!」

「おい、ここ…何処だ?俺達、家に帰る途中だったよな…?」


明らかな動揺を声に滲ませる利人の問いに、悠仁は俯いて黙りこむしかできなかった。利人も悠仁が答えられるとは分かっているはずだが、どうしても言わずにはいられなかったらしい。


「…突っ立てても仕方ない。とにかく変な世界に飛ばされたと仮定して、ここがどこなのか聞いてみよう。」

「いやいや、そんなんありえへんて!大体言葉も伝わらんとどないするつもりなんや!」


聞く限り、英語ではないのは分かりきったことだ。英語が通じるならある程度なら何とかなるが、全く未知の言語ならば、コミュニケーションを取るのは容易でないと言うレベルではない。ほぼ不可能だ。


「仕方ないだろ。結局はいつ動くかの問題だ。…じゃあいつ動くか?」

「今でしょやない!!しかも古い!!」

「俺の中では最先端だ。」

「遅すぎるやろ!」


と、一頻りコントのような言い合いの後、ぷっと利人が吹き出した。


「やっぱこんな状況でもお前とバカするのは楽しいな。」


その言葉で、悠仁は軽く目を見開いて、次に発しようと思っていた言葉を飲んだ。利人に釣られるように、口許に小さく笑みを浮かべる。

こんな下らないやり取りで、悠仁も動揺が収まったらしかった。


「ホンマやな。」


まずは、誰かに話しかけよう。この結論に至った二人は大通りに向けて、幸運にも、とでも言えばいいのか、自分達と同じ境遇の日本人、永和と出会うこととなった。






それから紆余曲折の後、妹の魚佳と合流してようやく安息できる宿に辿り着いた悠仁は、改めて自分の置かれた状況を整理する。

悠仁たちと同じ状況で、かつ悠仁達よりずっとこの世界のことを知っている生川 永和と出会い、姿を隠すマントを買って貰ったり、誘拐されそうになっていた魚佳を永和を筆頭に三人で救出、そして今に至る。


「私はディア、…あー、ディアはこっちでの名前で、本名は生川 永和です。アンタらと同じく高3。一週間くらい前にここに飛ばされて来ました。」


悠仁は永和と名乗る少女を見て、


(やっぱり、べっぴんさんやなぁ。)


と、初対面した時の感想をもう一度心の中で呟いた。

胸あたりまでの癖の無い長い黒髪に、顔立ちは可愛い、と言うよりも美人だとか綺麗と称されるもので、やや切れ長の瞳は氷のようなを感じさせた。見た目はそこそこあるのだが、表情は無愛想で、放つ言葉も刃物のようで、悠仁のクラスメイトの女子とは共通点が一つも見当たらなかった。加えて男三人と対峙しても物怖じしない胆力、鉄パイプで相手を殴り付ける容赦の無さ、さらに躊躇なく男の急所を攻撃する無慈悲さ。…同い年で同じ日本に住んでいる女性とは、悠仁は信じがたかった。

しかし、通行人から悠仁の姿を隠すために永和から壁ドン(とでも言えるものなのか)された時に顔面で感じた胸の膨らみは、しかしどうしようもなく成熟した女性のそれだった。

思い出すとどうしても顔に熱が集まるのだが、悠仁は健全な男子高校生であるため、仕方の無いことである。


「何だ、胸を当てられたときのこと思い出して興奮したのか?」

「なっ…!いきなり何言い出すねん!」

「図星だな。」


にやにやと笑ってからかってくる利人に悠仁は咄嗟に反論しようとしたが、実際的を得ているため、はっきりと違うとは言えなかった。そして直後にはっとして永和を見ると、さっきよりも表情が冷たくなっているような気がした。さらにまた何かやらかしたら今度は汚物を見るような目になりそうだと悠仁は悟った。

氷点下にも近い永和の視線に耐えきれず視線をそらして飛び込んできたのは、真っ白な彼女の太股。魚佳と交換したセーラー服はスカートの丈がかなり短く、見えるとマズイものが見えそうで見えない際どいラインは、悠仁が持つエロ本並みに色気を感じさせてしまう。移した視線の先にすらも赤面するのを堪えきれないものがあり、


「今度は脚を見て興奮したのか、悠仁。」

「何で利人はそーゆーこと言うんや!!」


あっさりと内心を利人に見破られ、永和の悠仁を見る目が汚物にランクダウンした。ついでに妹、魚佳の視線もやや冷たくなった気がした。


「童貞野郎の健全なる思考は正直どうでも良いし、とにかくこれからアンタらがどうするのか決めておく必要がある。」

「スルーなん?!今のスルーなん!!??」

「いちいち突っ込むとか、面倒なことするかよ。私はさっさとこの面倒事を解決したいんだ。アンタらを助けたのも放っておくと此方に害が降りかかるからであって、同郷のよしみで助けたつもりは無い。」


頬肘を自らの太股につき、憮然として永和は言い放った。内容はあまりにも冷酷無慈悲なように感じるが、この世界で生きていくための最低限のことは手助けしてくれるようだし、何より、妹を助けてもらった等の恩があるため、今更悠仁たちがどうこう言うような権利は無い。それを瞬時に理解していた利人は、冷静に、不快や不安を顔に表すことなく永和に言葉を返す。


「なら、何か稼ぐような職でも教えてくれるのか?」

「…<自由人>。」


何か思案するように一呼吸置いて永和が発した単語に、悠仁たち三人は頭に疑問符を浮かべる他無かった。


「<自由人>?何やそれ。」

「今説明するから黙って。」

「…はい。」

「簡単に言えば依頼をこなして報酬として金貨や銀貨などを貰う人のこと。ギルドに簡単な登録をすれば、どんな依頼も受けれる。そして誰でもなれる、そして生き方に縛られない、故に<自由人>と、この世界では呼ばれてる。

この世界の言葉が理解できないアンタらには現時点で最良にして唯一の金を稼ぐ手段よ。」

「成る程、よくあるRPGのクエストだな。」


腕組みして利人が頷くと、まあね、と永和は返した。


「反面、命の保証は一切無いけれど。」


彼女が続けて放ったその言葉は、何よりも現実感を持って悠仁たちの心に重くのし掛かった。そう、ここはほとんど安全であった日本とは別の地。人間に害を成すような動物が蔓延っている場所が大多数を占めていのである。

冷静沈着な利人も、不安はあるらしく、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。


「生きるために金を稼ぎ、かつアンタら“は”向こうに帰る方法も同時に探す必要があるから、腹は括っておいた方が良い。」

「?ちょい待ち。アンタら“は”って、自分はどないするんや?」

「私は此方に残ると決めた。…向こうに帰る気は、無い。」

「なっ…!」


あっさりと割りきった永和の発言に、悠仁達三人全員に衝撃が走る。

そんな三人を見ても、あくまで冷たく、表情を変えることなく永和は悠仁たちを見据える。意志を孕んだ、覚悟を決めた目をしていた。


「何、私も向こうに帰りたいから一緒に協力しようって言ってくると思った?言ったでしょ?同郷のよしみで助けたつもりは無いって。」

「いや、でも…家族とか、友達とかいるやんか。それら全部捨てて諦めるつもりなんか?!」

「私たちは他人よ。仲良しこよしするような友人でも家族でもないくせに、ずけずけと人の事情に入り込まないでくれる?まあ、正直いずれにせよ、本音を話す気なんてないけれどね。」

「自分…何とも思わないんか。親だって友達だって、心配しとるはずやろ。血眼になって自分探してくれてるやもしれへんやろ?!」


悠仁は普通の男子高校生だ。ただ、家族と友達を人一倍大切にする、女子には慣れていない、心優しい、一人の正義感溢れる人間だ。

だからこそ、根本からひねくれた(と思われる)普通の女子高生とは。真っ直ぐとひねくれたとでは、そりが合わないのは当然のことであった。

部屋に充満する一触即発の空気。永和と悠仁がにらみ合い、そんな悠仁を魚佳と利人は心配そうに見ている中、ドアが二回、ノックされた。

その音に反応して外套を被って永和が部屋への来訪者に対応した。

そして、一通の手紙を受け取り中を一通り読み終えた彼女は、目に見えて苛立ちながらベッドに腰かけた。


「とにかく、今から働くために色々と教えてあげる。この世界で最低限生きられるくらいにはしてあげるから、互いに最低限しか干渉はしない。そう言うことだから。」


やはり悠仁達に選択権は与えず、永和はそう、言い切った。





読んでいただき、ありがとうございます。

次回、強制労働イベント発生。

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