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だから私はやる気が出ない。  作者: 灯火
二章 そうだ、王都に行こう編
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14話 溜め息、そして溜め息。



「な、…ま、まさか自分…俺らと同じ…!」

「日本人、なのか…?!」

「良いから煩い黙って私の言う通りにしろわめくなクソ共。」


まずは端的に相手に指示してついでに罵倒して、私は大きく息を吐いた。

あの自称魔女、やりやがった。100%あいつの仕業だ。もう一度会ったら絶対にぶん殴る。

…もう吐き気すらしてきた。ストレスで頭痛がするタイプじゃないし、お腹も痛くはならないけど。


ちらりと人で賑わう大通りを一瞥して、それから再度憂鬱な溜め息を吐いた。

いくら裏路地と言えど人がいないということはない。だからこのまま放置な訳にもいかない。

何でディートリヒさんみたいな人に拾われなかなったのかなぁこいつら。


…まずは状況整理とこれからどうするかを練ろう。

その1、何者の仕業かは不確定だがとにかく私と同じ経緯でやって来た異世界人。

その2、私がこいつらを助けるのは不可避である。放置すると厄介事になりかねん。本当ふざけんなゴブリンに犯されろ。


次にこれからどうするか。

行動するにもまずは(この世界では)変な服と見た目を隠すのが絶対条件。運の良いことにチャラ男は茶髪なので最悪隠す必要は絶対的には無い。

しかし関西弁男は私と同じで頭からまるごと隠さなければならない。

一応もしものことを考えてディートリヒさんに銀貨3枚(銀貨一枚千円程度なので計三千円)を持たされているから、一応はこの金でフードつきマントを買えなくもないはずだけれど…


「あーーもう、めんどくさっ…!」


会話の様子からして、この二人は私のように<千枚舌>を貰っていないらしいから、意思疏通がこの世界の人たちと出来ない。つまり、今動けるのは私しかいない。ディートリヒさんと合流できるなんて期待はしてないし、まずは一度ここに二人を置いてマントを買いに行こう。しかも急いで。


「ーーー…とにかく、ここで待ってて。誰とも目を合わさないで、話さないで、姿を見せないで。拒否権は無い。口答えもするな。あともうちょっと奥の路地に隠れて。以上。」


相手の顔を見ずに一方的に釘を刺しておいて、フードを被って私は人で溢れかえる通りに飛び出した。







「はい、これ。被って頭隠して。」


外套二つを買って急いで戻ってきた私は二人に投げつけて渡した。

…非常に焦った。微妙にお金が足りなくて、結局おっちゃんにまけてもらってなんとかなったけど…。

外套を前で留める金具に四苦八苦している関西弁男はどうやら不器用らしい。

その様子を見てまったくどうなることやら、と私が溜め息を吐くと、何人もの騒々しい足音と声が聞こえてきた。

二人を見ると、チャラ男はマントを着れていたが、関西弁男はまだ金具に苦戦していて、挙げ句のはてにマントが肩から落ちて、体の一部も隠せていなかった。


「あの黒いガキ…どこ行った!」

「お前らはそっち探せ!!」

「絶対に逃がすんじゃねぇぞ!売れば大金になるんだぞ!!」


さらにマズイことに、複数人が此方に向かってくる。


「バッカ…しゃがんで!!」


切羽詰まった私の言葉にチャラ男と関西弁男、共々膝を折ってかがんだ。チャラ男、てめぇには言ってねぇよ!


ダンッ!


間髪入れずに問答無用で体を使って関西弁男をかばって姿を隠す。ちょうど男の顔に胸が当たる体勢になったけれど、メリーさんのようにボインではないから大した事故になることは無いと思う。多分。

その直後に男三人ほどが走り去り、遠くまで行ったことを確認して関西弁男から離れる。


「行ったか…?」


立ち上がったチャラ男が、柄の悪いおっさんが走っていった方向を見て呟いた。


「次にいつ誰が来るか分かんないから、さっさと移動するわよ。」


関西弁男の外套の金具を使って前を留めてやって、ついでにフードも被せて、安堵の息を吐いた。今日はよく溜め息をする日らしい。

改めて関西弁男を見ると何やら呆然として尻餅をついていた。


「…なに、胸を当てられて嬉しかったの?童貞野郎。」

「なっ…、そ、そんな訳あるか!」

「悠仁、図星だろ。」

「利人も何言うてんのや!」


関西弁男が童貞かどうかは置いといて、それよりも気になることがあった。さっきの男の言っていたーーー…黒いガキ。いや、皮膚が黒いとかそう言う可能性も無い訳ではないけれど、嫌な感じがする。


「…ねぇ、あんたら以外にこっちに来た人に心当たりとか無い?」


そう言うと、二人揃って見事に心当たりがあるような反応をした。


「ワォ。」


一難去って、また一難。私は自分の運の悪さに嘲笑するしかなかった。

そして、次会ったら3発はあの魔女を殴ろうと決心した。


「俺の…妹、魚佳がおらん!」

「こっちに来る直前まで、一緒だった?」

「こいつ、利人と魚佳と、一緒やった。」


十中八九、男たちが追いかけていたのは関西弁男の妹だろう。


「あんの魔女…」


私の中で、魔女を殴る回数が増えた。

そこら辺に落ちていた鉄パイプを拾って、ついでに関西弁男の腕を掴んだ。


「チャラ男、関西弁男、走れ!!」


私は、さっき此方に来た男とは別の、もう一方の男たちが走っていった方向へと駆け出した。


「何や何や、何なんや!」

「白昼堂々の奴隷狩りよ!アンタの妹はそれに追われてる!」

「何やて!」


工藤が足りてないぞ関西人。というボケはさておき。


「マジか…こっちは随分と治安が悪いんだな。」


チャラ男は関西弁男とは違って、さらに見た目とは違って、随分と冷静な様子だった。もっとチャラく『(や)っべーマジ(や)っべーよこの(シチュ)エーション!』とか言うかと思ってた。


「幸い少人数の不良グループみたいだったし二手に分かれてたから、捕まってても何とかなる!」


半ば自分に言い聞かせるように叫んで駆ける。昨日はゴブリンを追っかけて今日は柄の悪いおっさんを追いかける。自称引きニートには辛い仕打ちだ。


「おい悠仁、こっちから魚佳の声が!」

「何やて利人?!」


利人、と呼ばれたチャラ男が指差して向かった道を走る。

やがて、遠くに明らかに怪しい男に両腕を掴まれて捕らえられているセーラー服の少女の姿が見えた。


「魚佳ぁぁぁぁぁぁあ!!!」


瞬間、怒りを咆哮して関西人が飛び出した。


「ちょっ…!」

「悠仁!!」


「魚佳から、離れんかいクソ野郎!」


私とチャラ男の制止を意にも介さず関西人が奴隷狩りの男達の一人を殴り飛ばした。

しかし向こうの見た目は30~40前後で体格はプロレスラーみたいにでかい。一介の男子高校生のパンチでは、食らえども意識を奪うには至らない。


「何だこのガキッ…!」


関西人の胸ぐらを掴んでは拳を振り上げるプロレスラー(もどき)。

このままではマズイと反射的に飛びだした私はプロレスラーに鉄パイプを降り下ろした。記憶に新しい、ゴブリンを殴ったときの感覚がフラッシュバックする。

プロレスラーは脳震盪で立っていられなくなり、倒れた。しばらく立っていられないほどの頭痛、めまい、吐き気に悩まされることになろう。


「ボサッとすんな!」


危うく強烈な拳の一撃を貰いそうになった関西人に吐き捨て、改めて男たちを見据えて鉄パイプを中段で構えた。

残りは二人。両方30才程度で一人が関西人妹を捕らえている。もう片方は、私と同じ鉄パイプだ。


「てめぇ…やりやがったな!」


私よりもずっと体格の大きな男が鉄パイプを振りかぶった。


…不思議な感覚だった。あの数のゴブリンに比べたら全然怖くない。戦いに、集中している。


「ーーーそっちこそ、舐めんな。」


ざり、と靴と地面が擦れる。

男が振りかぶった瞬間、左足を使って大きく右足を踏み出して男の脇腹に向かって鉄パイプを降り下ろす。が、男は攻撃に反応し、鉄パイプで攻撃が弾かれたため一度距離を取る。そして今度は私から攻撃、鉄パイプを振りかぶって、相手がそれに釣られて、私みたいな女の弱い攻撃ぐらい受け止められると鉄パイプを掲げた刹那、手首を回して鉄パイプの軌道を変え、三日月を描くように男の脇腹に降り下ろした。吸い込まれるように男の脇腹に見事鉄パイプが直撃し、男が怯んで呻いた。その隙を私は見逃さない。すぐさま男の頭の側部に鉄パイプを当てて、男を戦闘不能にした。


「これでも中学は剣道部だったんだから。」


面抜き胴からの面と見せかけての抜き胴。力の無い私の唯一の必殺技だ。ここで、ちょっとだけ得意気になって油断したのは、後から思えば愚行の極みだった。


「調子に乗るなよ女ぁ!!」


捕らえていた関西人妹を突き飛ばして、最後の一人がダガーを突き出して突進してきた。油断していたため、突然のことに私は反応できない。

が、ぐい、と不意に強く腕を引かれ何とか腕を軽く切られる程度で済んだ。


「関西人!」

「何やその呼び名!」


私を引っ張った関西人は、守るように私と男の間に立った。守るように、とは言ったものの本当に守ってくれてるのかは知らないけれど。

同時にチャラ男が男の顔を殴って攻撃、直後に関西人もナイフを持つ腕を押さえ付け、チャラ男も反対の腕を押さえて男の身動きをとれなくした。…後はやることは一つだろう。


「やれぇっ!」


チャラ男が叫んだ。私はニヒルな笑みを浮かべ、鉄パイプを構えた。


「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


突きだした鉄パイプが男の股間を直撃した。











「お兄ちゃぁぁん怖がっだよぉぉぉぉぉ。」


恐怖で顔をぐしゃぐしゃにして関西人に抱きつく関西人妹(推定15才)を見て、ようやく安堵の息を吐いた私は三人をぐるりと見回して思案する。ついでに視界に股間を押さえて失神している見苦しい男の姿も映った。


とりあえずは状況整理のために一度宿に戻る必要がある。

商人のおっさんの家を出た後、すぐにディートリヒさんが宿を取ってくれて良かった。そして部屋の鍵が二つあって良かった。


「はいはいさっさと移動するからね。こんなところに長居なんてできない。で、関西人妹は何か頭隠す物ある?」

「あだま?」


どうやら関西人妹は鼻水が詰まって、“た”行が発音できないらしい。


「魚佳、アレ持ってたやろ?ほら、カツラ。」

「カツラじゃないよ、ウィッグ!」


半ばキレ気味に鞄から関西人妹が取り出したのは、紫色のウィッグだった。それに思わず、ナイスと呟く。もう金がないので正直どうやってこの子の姿を隠すか悩んでいたところだ。


「じゃあそれ被って、服はーーー…じゃあ、私と交換するか。目は兄の後ろに隠れて俯いとけば何とかなるでしょ。」


関西人妹の着ているセーラー服は目立つ。故、私のワンピースと一時的に交換するしかなかった。

この世界に来て身長が縮んだ私と関西人妹の身長差は大して無いため、服のサイズは気にすることはなかった。






宿にたどり着いた私プラス三人は、ようやくと言うか何と言うか、奴隷狩りの男たちを倒した後より安堵した。

ディートリヒさんと私が泊まる予定の部屋は当然二人部屋で、ベッドは二つ。イスは無いので仕方なく向かい合って同性同士で隣り合って座って互いに向かい合った。


「まずは、自己紹介やな。俺は酒々井(しすい) 悠仁(ゆうと)です。学年は高3。この節は、ホンマにありがとうございます。」


話を切り出したのは関西人、基、酒々井兄だった。言葉に関西弁なイントネーションを織り混ぜてぺこりと頭を下げる。

改めて姿を見ても、特にこれと言って特徴をあげるのも難しい、普通な男子高校生だった。顔立ちもイケメンではないがブサイクでもない、…うん、普通だ。頑張って特徴を挙げてみるなら、知り合った三人のなかで一番体つきがしっかりしている、ぐらいだ。それでも普通の範疇である。


「妾を助けたこと、誉めて遣わすぞ。妾は天命を授かりし巫女…」

「俺の妹、魚佳(うおか)です。色んな意味で中二です。」


オーケー理解した。

まだ紫色のウィッグを取らない少女は厨二な中二らしい。しかし、くりりと丸い瞳に雪のように白い肌、すらっと通った鼻筋…全体的に顔のパーツのバランスも取れていて、所謂クラスで一番可愛い子ポジションにつける顔の整った子だ。何故兄にはこの遺伝子が受け継がれない。


「次は俺か。物集(もずめ) 利人(りひと)。悠仁と同じく高3だ。」


茶髪のチャラ男はやや切れ長の目が、若干冷静な雰囲気を感じさせるくらいで、ジャニーズのように顔は整っていると言い切るには微妙なところだ。しかしジャニーズも顔が整っているか、と問われると私はどうにも肯定しがたいので、そこのあたりははっきりと断言できない。


三人の自己紹介が終わり、最後は私だ。

タイミングを図り損なってまだセーラー服姿なのが、少し妙な感じである。しかも酒々井妹のスカートが、短い。膝上丈な上に、酒々井妹より背が大きいので、酒々井妹が履くよりも、ずっと際どい。ずっとスカートの端を握っていないとどうにも落ち着かない。


「私はディア、…あー、ディアはこっちでの名前で、本名は生川 永和です。アンタらと同じく高3。一週間くらい前にここに飛ばされて来ました。」


新たに異世界人が三人。これから面倒なことにしかならないことを感じて、心の中で私は大きく息を吐いた。






次回、視点が悠仁に変わるような変わらないような。そして三人が受け取った能力も判明…!多分。

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