13話 …なんでやねん!!
王都に到着した頃にはすっかり陽も暮れ、街のあちこちで橙色のランプが灯っていた。薄暗くて王都の町並みはまだよく分からないが、中心には王族が居る巨大な城が国を象徴するかのごとくそびえ立っている。
「これがーーー王都かぁ。」
移動時間は半日超、その内、大量のゴブリンの襲撃も含めて、長い旅路を経てようやくたどり着いたそこは、確かに王都と呼ぶに相応しいほどの規模であった。また、港にも面しているため、海は見えなくとも風が潮の薫りを運んでくる。
「思ったより到着が遅れたな…宿が空いているかどうか…。」
ディートリヒさんが困ったと顎に手を添え眉をひそめた。
「何それ。そんなに宿に人が集中すんですか。」
「それは王都だからな。外国からの来訪者も同国からの来訪者も、ここに集中する。宿屋も多いが、空きを見つけるのは骨が折れるだろうな。」
現代のように数日前からのあらかじめの予約は出来ないと言う訳らしい。ううむ、こりゃ不便だなぁ。
「宿を、お探しですか。」
ふと背後から話しかけられ振り向くと、商人のおっさんだった。名前はもう忘れた。
「何か知っている所があるのか。」
「い、いえ。ですが、そちらの嬢ちゃんにどうしてもお礼がしたくて…どうでしょう。今夜は私の家に泊まっていただくと言うのは…。」
私とディートリヒさんは互いの顔を見合わせて、それから、
「はい。」
とディートリヒさんは笑顔で返した。
結局その日は商人のおっさんの好意に甘えることにした。しかし最後までおっさんの名前を私が覚えることは無かった。これでおっさんとの繋がりが終わると思っていたからだけれど、後に意外な形で関わることになろうとはこの時の私はまだ知らない。
翌日、商人のおっさんの家をあとにした私とディートリヒさんは、主に私の服や靴、日用品を買って回った。やっとぶかぶかの靴から卒業できて、歩くのが疲れにくくなった。
「そう言えばもう昼だな。何か食べるか?」
「えぇ、食べたいです。お腹減りました。」
太陽も高く昇った頃、私のお腹の虫は空腹を訴えて叫んでいた。くそう、こう言うときだけ体は正直なんだよなあ。
ディートリヒさんのお気に入りらしいお店に行くことになって、とにかく人で賑わう通りを歩いた。かなりの人の多さに、軽く酔いそうになった。
「幾らなんでも人が多すぎないですかディートリヒさん。気持ち悪くて吐きそうです。」
人に流されないようにディートリヒさんの外套を掴んで私は文句を呟くように言った。
「王都だからな、我慢しろ。」
「うえぇ…。」
「ありえへんてこんなの!大体言葉も伝わらんとどないするつもりなんや!」
「仕方ないだろ。結局はいつ動くかの問題だ。…じゃあいつ動くか?」
「今でしょやない!!しかも古い!!」
「俺の中では最先端だ。」
「遅すぎるやろ!」
「…?!」
ふと耳に入ってきた言葉に衝撃を受け、私は思わずディートリヒさんのマントを掴んでいた手を放してしまった。言葉の口調、内容からして、どうしてもここの世界の人とは思えないーーー…
「わ、うわ。」
数秒、そんな風に考えていただけで、どんどん人混みに流されてしまい、ディートリヒさんの姿は全く見当たらなくなった。つまりは、はぐれた。
や、やらかした。これはとんでもなくやらかした。
さあっと体温が低下するのを感じて、慌てて店の間の路地に逃げ込む。
落ち着いてから、さあどうしようと考える。
大体こう言うときは動かない方が良い、はず。うん、移動するのも面倒だし待ってよう。と思っていた直後だった。
「へ、ヘイユー!」
なんて背後から話しかけられて思わず反射的に振り向いてしまった。振り向いて、衝撃のあまり目を見開いたまま言葉を失う。いや、下手な英語に驚いたとかそう言う訳ではない。
「うおっ、反応した!」
「こ、こっからどーすんねん!」
「バッカ、そこはジェスチャーで何とかしろよ!」
「ここはどこですか、ってどうやってジェスチャーするんや!」
「…、」
私に話しかけてきた人物は二人。両方、ベージュのブレザーと紺色のズボンの、どこかの高校の制服を着ていた。
必死に何かを訴えようとする関西弁の男は、日本人特有の黒髪黒目、目元の泣きぼくろが印象的で、全体的におとなしめの印象を受けた。
もう一方は、染めたのか茶色の髪で、ヘアピンでこめかみあたりを留めている。目は黒色であり、関西弁男よりは幾分細めに感じた。こちらは一見してチャラいと言う印象を受けた。
そんな二人を見据えて私は面倒事に巻き込まれたことを確信しながらフードを取る。
「ーーー…貴方達も、私と同じですか。」
黒い髪と黒い目、アジア人特有の薄い顔ーーー…向こうの世界で見慣れたはずの私の容姿を見て、二人は揃って顎が外れるかと思うほど、口をあんぐりと開けた。
…あぁ、面倒くさそうだ。




