五話
ヤケクソというよりも諦めに近い気分で口から降参の言葉を吐き出す。
「わかった。泊めてやる」
「ありがとう」
上からの物言いはせめてものプライドだ。
「じゃあ、どこに何があるのか案内してくれないかしら?」
「ああ、いいだろう」
俺にとっての一般的な一軒家をお嬢様に案内することにした。
「ここがトイレだ」
「狭いわね」
「ここが台所だ」
「シェフはどこかしら」
「ここが風呂だ」
「ジャグジーは無いのね」
「ここがリビングだ」
「玄関かと思ったわ」
「ここが寝室だ」
「物置じゃないの、ここ」
なんで自分の家を案内するのに心を折られなきゃならんのだ。
そんな世の中の不条理を知った瞬間だった。
「私は何処で寝ればいいのかしら」
「さっきの寝室使え」
「え?」
驚くなよ、他に何処で寝るんだ。
「そうね、他に寝るところらしき物があるとも思えなかったものね」
らしき。その一言にこいつ追い出してやろうか。と思ったがこいつの家が脳裏に浮かび、その事実が分かれば自分の身が危なそうで諦めた。
それになんだかんだで結局は泊めることになりそうな気がした。
「はぁ、俺はそこ(リビング)のソファで寝るからなんかあったら言え」
「そう、ですか」
「言っとくがこれ以上のグレードをウチにもとめるなよ?」
奥歯に何か挟まったような様子に環境の不満かと思ったが違うようだ。
「そう言ったわけではなく、あの、その、」
「なんだ?トイレはそこだ」
「最低です」
「すまん」
「いえ、それよりも、何か食べるものは、有りませんか」
「は?」
「ですから、お腹が減ったと言っているのですっ」