表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

後伝・桃太郎

掲載日:2013/05/07

今は昔。

妖とヒトの区別がまだ判然とせず、ともに生きていた時代。


奥深い山中で武装した一団が一人の若者を取り囲んでいた。

若者の名は国守太郎桃士(くにもりたろうとうし)

貴人のように美しい顔立ちと日本人にしては均整のとれた体つきをしている。

都を荒らした鬼が島の鬼を打ち滅ぼし、都に数多の財宝を持ちかえった勇士である。

彼はつい2日前まで熱に浮かされ、生死の境を彷徨っていた。

原因は右腕にある。

海内無双(かいだいむそう)の栄華を及ぼし、数多の人と鬼を斬った腕は、今は無い。

鬼退治の際に鬼の頭目が死に際に放った一撃により、斬り落とされてしまっていた。


左手一本で刀を構える桃士を取り囲むのは三人の将に率いられた帝の近衛だ。

総大将は大賀狩房(おおがかりふさ)

帝の近衛の中で最も腕が立つ剣士だ。帝に忠誠を誓っており、先の鬼が島討伐においては桃士と共に剣を握った。

右翼を率いるのは田衛門(でんえもん)

農民であると同時に素破(すっぱ)である。

彼も鬼が島討伐に参加し、忍びの技で数多の鬼を屠った。

そして左翼を率いるのはお蘭。

異人であり本名はミランダであるが、誰も発音できない為にお蘭と呼ばれている。

彼らは帝より勅命を受けていた。

【国守太郎桃士を討て】

桃士は強すぎた。そして彼は誰にも靡かなかった。

その強さを恐怖した帝は思った。

野放しにしてはいずれ自分が殺されるのではないか、と。

常に憎悪渦巻く宮中で命の危険を感じて育った時の帝は極度の人間恐怖症であり、誇大妄想の気が強かった。


「ひ、ふ、み……四十か。俺を殺すには少ないな」

「ふん。近衛の精鋭だ。いかに貴様が強かろうと、生きては山を出られんぞ。」

睨みつける桃士の視線に怯みながら、狩房はそう脅した。

「貴様ら程度が俺を殺す?はっ!ふざけろ!」

見下すように言うが、そのひと言がただの強がり出ないことはその場にいる40人近くは理解していた。

「なら、試してみるかい?」

派手な着物を着たお蘭が、鎖鎌を振り回す。

一般にイメージされるものとは違い、鎌の先端から鎖が伸びている。

鎖は短めだが、片手で扱える利点を活かし、お蘭は両手に構えている。

「蘭か。女風情が生意気な口を。来い。」

桃士が言い終わるより先に、お蘭は動いていた。

2本の鎖が桃士目掛けて伸びていく。

もちろんそれを受けるような事はせず、桃士は前に飛んだ。

逃げはせず、真っ直ぐに。

片手で大上段に振り上げられた刃をお蘭は受け止めようと鎌を頭上に掲げた。

「かっ!所詮は女、この程度も受けられんか」

鎖鎌ごとお蘭の頭を割り、桃士は薄く笑った。その姿に全員が戦慄する。

返り血を浴びて薄く笑うさまの恐ろしさもさることながら、片手で人一人を斬った事実。

女性とはいえお蘭も鬼が島討伐に参加した勇士。並みの男に負けず劣らぬ腕力を誇っていた。

「次は?来ぬなら向かって行くが?」

正眼に構え、桃士は近衛の一団に飛び込んだ。それだけで一団は蜂の巣をつついたような騒ぎに包まれた。

「うわぁあああ!」「たすけっ!」

断末魔が、戦意を削ぐ。

果敢に立ち向かった者の蛮勇は報われずにただ屍を増やすだけであった。

片手の一振りで幾人も殺す様は、まさしく悪鬼であった。


このままではまずいと、狩房は配下の者を下がらせた。

「ほう。御大将自ら相手になるか?」

「これ以上、貴様の剣を血で汚す訳にはいかん。国守の姓のまま、大人しく死んでくれ。」

「国守だ?俺はそんな名前は知らん。太郎桃士で十分だ。」

「百の妖魔の血を浴びた人間は、妖魔と化すという。今の貴様がまさにそうだ!都を守った英雄の名を、これ以上貶めるな!」

斬りかかる狩房に対し、桃士は僅かな動きでその斬撃を逸らした。

「くくくくく……例え俺が鬼に堕ちようとも、俺の命だ。生き様は俺が決める。」

狩房が体勢を整えるを待つと、桃士はわざと大仰な動きで斬り付けた。

もちろん、狩房はその一撃を受ける。

両者の刃が火花すら散らして、鍔迫り合う。

(恐ろしい力だ。片腕で俺の全力と拮抗するとは……両手のこいつが相手でなくで、本当に良かった)

心の中でそう安堵するも、気を抜くことなどできない。

「どうした?楽に圧し切ってしまうぞ?」

ただの一歩で。そうただの一歩で。

狩房は自らが圧し負ける恐怖を感じた。

桃士の目に、懸命に踏ん張る自分の姿が見える。しかし、こいつは、顔色どころか、眉一つ動かさずにいるのだ。

鈴の鳴るような音がする。

刃が、砕ける寸前なのだ。

「ふぅ。そういえば、お前もいたな。薄汚い」

桃士の腹から、短刀の刃が生えている?

「けけ。さしもの旦那もこいつは致命傷だ」

サルのような声で笑い田衛門は短刀を捻じった。

肉が千切れる音がした。

狩房は腹部に強い衝撃を感じ、気がつけば藪の中にいた。

蹴られた。そう理解した。

同時に、勝つのを諦めた。

渾身の力で押していた。しかし桃士は片足を上げ、さらには大の男を吹き飛ばす力で蹴ったのだ。


「けぇけけけけ!」

薄気味悪い声は田衛門の断末魔であった。

見れば、短刀が刺さったままの状態で桃士が田衛門を切り捨てたところだ。

好機!

全身の発条(ばね)を使って立ちあがると同時に走る。

振り返る。だがこちらの剣が僅かに早い!

頸筋に一撃。胴に一撃。

狩房は自分の脚が走って行くのを見たのを最後に、視界から光が失われる。

死ぬのは理解できた。

「はは、勝ったぞ。」

「ふん。貴様程度が勝ち誇るな。」

狩房は薄れていく意識の向こうで、湿った何かが落ちる音を聞いた。


意味

海内無双:天下に並ぶものが無いほど優れていること。天下無双

素破:忍者。農民に紛れて暮らし、主人に世間で得た情報を伝えたり、時には暗殺などを請け負う。すっぱ抜くの「すっぱ」とは彼らの事

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ