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独占インタビュー

作者: あおぶた
掲載日:2012/07/12

   独占インタビュー

                                  

 ――本日は本誌の取材に応じていただき、真にありがとうございます。


 「いやあ、僕の方も国民の皆さんに『革新の会』の高い志を伝える良いチャンスになりますからね。お互いさまですよ」


 ――下村さんは現在、国会で与党を担う『革新の会』に所属していらっしゃいます。下村さんが会に入党しようと思ったきっかけは何ですか?


 「ずばり、会の三大方針に惹かれましたね。勤勉・情熱・名誉。今日の我が国にもっとも欠如している三つだと思いませんか?特に、子供において欠如が著しい。なんとなく生きていてはダメなんだと教えてあげるべきです」


 ――その三大方針はとても有名ですよね。私もよく存じております。


 今日下村さんにお聞きしたいのは、実はその教育のことなのです。先日『革新の会』が成立させた法案、『じゅけん法』。この『じゅけん法』の解説をお願いしたいのです。

 まず第一項の、小学校入試の歌のテスト。課題曲を我が国の国歌である『君が路』に統一するそうですね。


 「これはごく当たり前のことじゃないですか。国民ならば自国の国歌を歌えて当然。且つ、子供の頃から慣れ親しむことでもっとこの国を愛してほしい」


 ――なるほど。子供の頃に聴いた曲はいつまでも耳に残っているものですからね。

 次に第四項です。高校の入試科目に『道徳』を追加するそうですね。主要五科目に比べかなり異彩を放っているように思われますが、どのような背景があるのでしょう?


 「悲しいことに、近年青少年の犯罪は凶悪化しています。少年犯罪のニュースがある毎に、僕も心を痛めるばかりです。そこで、高校生になる前に道徳心を養わせるべきという決議に至りました。試験科目なら必死に取り組むでしょう?」


 ――中学生は悩ましき年頃ですからね。しかし道徳を『採点する』というのは難しいことでは?


 「試験は文科省の発行する『真心のノート』を基準に行います。このノートに即して点数をつけていけば、間違いはないでしょう」


 ――あ、そのノートなら私も子供の時やりましたよ。


 「文科省はよくやりましたよ。これぞ正義、と言っても過言ではないほどの非常に優れた内容です」


 ――まだまだ画期的なトピックが目白押しです。『じゅけん法』第十二項、『東亭大優待措置』。これは、両親のどちらかが東亭大学出身者の場合、大学入試においてその子供がセンター試験を免除されるという規定です。これに関して、えこひいきだという反論も出ていますがどうお考えですか?


 「えこひいきとはまったく異なるものです。反発はきっと説明不足が原因だと思われます。僕らの配慮が不十分だったことをお詫び申し上げたい」


 ――では、この項の真意とは?


 「東亭大は誰もが認める国内トップの大学です。ならば、そんな知の極み出身者の遺伝子を受け継ぐ子供もまた何か素晴らしい学才があるに違いない、と誰もが期待してしまいますよね? しかし人間ですから苦手な分野もあるでしょう。そのニガテでつまずいたせいで、有望な子の未来を奪ってしまわないようにしたい。だからセンター試験という負担を減らして、自分のトクイに磨きをかけてほしい。そんな思いで、この条項が制定されました。えこひいきではなく、良き未来への手助けなのです」


 ――良き未来への手助け。なるほど、この条項は長いスパンで国を改善しようと考えている訳ですね。


 「『革新の会』という急進的な名前だけど、ちゃんと将来性もあるのですよ、我が会は」



 ――では、最終項にして最大の目玉、『不良救済措置』についてお聞きしましょう。

 その前に、この条項を知らない読者の皆様のために恐縮ながら私が説明いたします。世の中には、いくら教えても、いくら表社会へ復帰する道を示してやっても、まったく勉強せず非行を続ける若者が少なからずいます。そのような不良者を立派な大人に育てる特別教室を全国に設置する。これが『不良救済措置』、でしたよね?

 

 「その通りです。さすが記者さん、よく勉強しておられる」


 ――いえいえ、これぐらい知っておかないとクビになっちゃいますから(笑)。


 「特別教室こそが、『革新の会』が最も期待している部分なのです。まず、補導された経験のある若者について委員会が定期的に調査します。それで問題あり、と認められた場合は速やかに特別教室への転校手続きがとられます。早くしないと、一般生徒が何らかの事件に巻き込まれる虞がありますからね」


 ――教室では、具体的にどのような教育が行われるのでしょうか?


 「生徒は校舎脇の寮で生活します。こうすることで門限を設けることができます。門限を破ればペナルティを与えます。

 授業には、最先端の心理学が応用されます。研究者達が長い年月をかけて創造した成果が実を結ぶかもしれません。特別教室は、非常に建設的でもあるわけです。

 卒業年次は設けていません。委員会が『改善された』と判断した時が卒業となります。勤勉になることで輝かしい未来への扉が開かれる。その意味で、教室の入り口には『学べば自由になれる』というスローガンを掲示しています」

 

 ――建設的な教室、いやあ深いですね。

 

 「国民の皆さんが『じゅけん法』に賛同してくれることを願うばかりです」

 

 ――詳細な説明、本当にありがとうございました。

 あ、カップが空ですね。今新しいコーヒーをお持ちします。

 

 「ありがとう、じゃあお願いします」

 

 ――砂糖とミルクは?

 

 「どちらもたっぷり入れてください」

 

 ――わかりました。たっぷりと。

 そういえば下村さん、この前私、『革新の会』に関するファンタジー小説を一作思いついたんですよ。ティーブレイクの余興として、ひとつ聞いてやってくれませんか?


 「とても興味深いですなあ。ぜひお願いします」


 ―……『革新の会』には、神がいる。


 「神……ですか」


 ――あくまで小説ですよ。会員はある人物を神として崇めているのです。そしてその神の意志に従って、会は行動している。


 「僕の首に十字架のペンダントは、ついていないようですけどね」


 ――今回の『じゅけん法』が、神の意志を叶えるための第一歩なのです。

 まず気になるのが、なぜ『じゅけん法』は平仮名なのか。入試改革がメインなのだから、『受験法』でいいはず。国民も『受験法』と解釈しています。平仮名のほうが、愛嬌があるから?……私の小説によると、この『じゅけん法』は『授権法』と変換されます。


 「授権法、ですか」


 ――授権法。じつは欧州に実在した法律なのですよ。正式名称は全権委任法。一九三三年に制定されたもので、政府が憲法を無視して行政を行えるという危険な帝国主義法です。この法律、誰が作ったと思います?


 「うーん、誰ですかねえ」


 ――ナチスですよ。ヒトラーが独裁のため作ったんです。

 ヒトラーに沿って『じゅけん法』を眺めると、条項が恐ろしいものに見えるんです。


 「恐ろしい?」


 ――はい。『君が路』や道徳の導入は、思想統制。東亭大優遇措置は、優れた種族で人間を作ろうというナチスの優生思想にも見える。そして特別教室。『学べば自由になれる』。かの有名なアウシュビッツ強制収容所の入り口に何と書いてあるかご存知ですよね? そう、『働けば自由になる』です。


 「……」


 ――『革新の会』の三原則、もう一度教えていただけますか?


 「勤勉・情熱・名誉です」


 ――そうでしたね。ありがとうございます。

 実は、この三原則を掲げている民族が他にもあるんですよ。しかもインパクトを強くするために、色で表現しているんです。


 「色?」


 ――例えば、アメリカ国旗にある星と紅白のストライプは州の数を示しています。フランス国旗の青は自由の象徴、白は平等の象徴、赤は博愛の象徴です。

 この民族は象徴として、勤勉を黒、情熱を赤、名誉を黄としました。


 「黒赤黄……」 


 ――という小説です。ちなみにこの小説ではこの後、自衛隊が隣国の脅威を排除するために核兵器を開発します。


 「……。いやあ、記者さんは非常におもしろい方だ。思わず聞き入っちゃいましたよ。いや、おもしろかった」


 ――恐縮です。


 「記者さんともっとお話ししたくなりました。……そうだ、今度事務所のほうで会長を交えて懇話しませんか?『革新の会』の独占インタビューを企画します」


 ――本当ですか!?本誌史上最大のスクープにさせていただきます!

 本日は本当にありがとうございました。下村さんでした。         (山田 直)

 

 《追記》山田記者は先日、交通事故で帰らぬ人となりなした。この対談が故人の最期の取材です。ご冥福をお祈りしております。(編集部一同)

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            


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