〜旅出〜
「はぁはぁ…!!……な…んだよ…これ…!?」
急いで走って来たハッシュは絶望してその場で座り込んだ。
それはそうだろう。
さっきまで家があり、畑で仕事をしている人もいて、自分の家もあったのに…今の村は無惨にも一面焼け野原になっていた。
家は灰になり、畑はぐちゃぐちゃ。
もはやさっきまで村だったと言っても誰も信じないくらいだった。
ハッシュは座ったまま地面の砂を握り涙を流した。
「…ぐ……うぁ…」
ハッシュが絶望し、涙を流していると…村の奥からうめき声が聞こえた。
「…!?おじさん!!」
ハッシュは泣きながらも声のした方を見て、駆け寄った。
「……ハ…ッシュか……ライ…ラ…は……?」
声の主はジェーダだった。全身にひどい火傷をおって、確実に助からないだろう。
ハッシュの声を聞いて、ジェーダは必死の思いで声を絞りだした。
「ライラなら無事だよ!!お…おじさん!!一体何が…何があったんだよ!?」
ハッシュは泣きながら、ジェーダの方を掴み叫んだ。
「…そう…か…ライラは無事か……。よか…た…。ハッ…シュ…お前に…頼みたい事が……ある…」
ジェーダは痛みに耐えながら小さく微笑み、力を抜きながら言った。
「……何…?何だよ…?」
ハッシュは前が見えないくらい涙を流し、ジェーダの顔に落ちた。
「…泣く…な…男だ…。…ハッシュ…ライラを頼んだ……。あいつは…お前の…事…が好きだ……。いつも…あん…な…グフ!?………ハァハァ…。ぃぃ奴…だ…。…お前には…もったいない…かも…しれないくら…い…だ」
ジェーダは苦しみに耐え、ハッシュを安心させるように微笑みながら言った。
ハッシュは唇を噛み締めながら何度も頷いた。
「………は…はは…。これも…運命…か…。…そうだ…あそこに…指輪があるだろ…ぅ…」
ジェーダはシェイの落とした指輪を震える手で指差した。
「こ…これ……?」
ハッシュは手の届く距離に落ちていた指輪を拾いジェーダに見せた。
「…ぁぁ…やっぱり…だ…。ハッシュ…その指輪はお前の……母の指輪…だ……」
ジェーダは指輪を見つめ懐かしそうに微笑んだ。
「俺の……母ちゃん…!?」
ハッシュは指輪を見ながら言った。
「お前は…この村で産まれて…ない…。15年前…一人の女が…こ…の町に…お前を持ってきた…。」
ジェーダはもう痛みを感じなかったのか…空を見ながら静かに語りだした。
ハッシュは黙って聞いていた。
いや…驚きで喋れないのかもしれない。
「…女は…こう言った…。この子を…育ててやってください……とな…。…俺は…すぐに受け取ったよ…。…そして村のみんなでお前を育てた……。」
ジェーダは小さく微笑みながら喋り続けた。
「……ハッシュ…その指輪を持って旅に出ろ……」
ジェーダは視線をハッシュに向け、真面目な顔をして言った。
「た…び…?」
ハッシュは驚いた様子でジェーダを見た。
「…ライラを頼んだ……。…そういや綺麗な女だったなぁ…お前の母は……。…あ…こんな事言ったらあっちで待ってる奴に何されるかわかんねぇな……」
ジェーダは目を瞑り微笑み笑った。
「…え…おじさん……?お…い…」
ハッシュはジェーダの体を揺さぶった。
「…随分一人だったから…寂しかっただろ……今…行くよ…」
ジェーダは誰かに語るように息を引き取った。
「おじさん…!?…そんな…どうすりゃいいんだよ…ライラは…おい…おじさん…返事してよ……。おじさぁぁぁん!!!!」
ハッシュはもう動かなくなったジェーダの胸に顔を押し付け泣いた。片手に指輪を握り締め…
「おっそいなぁ…」
ライラは木の根のあたりで隠れるように、座っていた。
と…その時…ライラの後ろで何かが動く音がした。
「………!?」
ライラは体を硬直させた。
そしてその音がだんだん近付いてきて、ライラの肩を何かが触った。
「キャァァァァ!?!?」
ライラは肩に触れた何かを振り払い、その場を飛び離れた。
「うゎ!?何だよ!?!?」
ライラに触れた何かは叫び声に驚き後退りした。
「いやぁ!!キャァ!!ハッシュ!!たすけ……て………?」
ライラは顔を手で覆いながら叫んで隙間から、何かを見てぽかんと口を開けた。
「…呼んだか?」
何かはいたずらっぽい口調でそう言った。
「ハ…ハッシュ……」
ライラは顔を真っ赤にしながら、目をパチクリさせた。
「…ハッシュ助けて…か…」
指にはめた指輪を見ながら呟いた。
「あ…あれは…ちがうの!!ほら…冗談よ!!」
ライラは真っ赤になった顔を隠しながら言う。
「……行くぞ…」
ハッシュは荷物を持って一声かけた。
「え……?まだ帰らないの…?」
ライラは手の隙間からハッシュを見て言った。
それもそうだろう。
もう辺りは暗くなっていて、森は真っ暗だ。
普通は帰る時間なのだ。
「…あぁ…」
ハッシュはライラの手を掴み無理矢理、森の奥へと進んだ。
「ちょ…どうしたのよ!?おかしいよ…?」
ライラはハッシュの手を振り払い、顔を見た。今にも目が赤く、唇を噛み締めながら何かを耐えているようなハッシュの顔を…
「……いいんだよ…来い…」
ライラを抱えハッシュはそのまま奥へと進んだ。
ライラは、固まっていた。今まで見たことないあんな顔を見てから…
森はさらに暗くなり、風が木の枝を揺らし奇妙な音を出している。
ハッシュ達は懐中電灯を照らし、奥へ奥へと進んでいた。
ライラも何かを悟ったようにハッシュの後を何も聞かず追う。
そして、二人の前に光が現れた。
月の光だ。誰かが休憩場所を作ったのか、そこ一体の木は切られていて、月の光がさしこんでいた。
二人はそこで足を止めた。
「ねぇ…休んでこうよ…」
ライラはくたくたしながらその場で座り込んだ。
ハッシュは何も言わずにライラの前に座った。
そのまま、二人は黙ったままだった。
何分黙っているだろうか…。森から聞こえるあらゆる音が虚しく響く。
「…あたしもう…寝るね」
ライラは軽く微笑みその場で寝転んだ。
「…ライラ」
「ん…?」
ハッシュの呟きにライラが聞き返す。
「……や…何でもない…」
ハッシュは寝転びながら言った。
「そ…じゃ…おやすみ」
ライラはハッシュに笑顔を見せてから背を向けた。
ハッシュは黙ったまま月を見た。
手から指輪をはずし、月の光にあてた。
「な…なんだ…!?」
指輪に月の光を当てた瞬間、指輪が光を放った。まるで森全体が明くる輝いた。
ハッシュは指輪を握り締めた。月の光が当たらない指輪はだんだん光を消えていった。
ハッシュは指輪を握った手を見つめながら、涙が溢れていた。
ハッシュ…泣くな男だろ……
この子を育ててください…
ライラを頼んだ…
お前の母の指輪だ…
「ハッシュ…ハッシュ…!?」
ハッシュは涙を流したまま声のする方を見た。
「…!?…どう…したの…!?」
ライラはその涙を見て驚いた。
ハッシュが泣くのを初めて見たからだ。
「…ライ…ラァ……。どうすりゃ…いいんだよ…なぁ…俺は…」
ハッシュはライラの肩に顔を埋め泣いた。
子どもが泣くように、ずっと泣いた。
「ハ…ッシュ…」
ライラはそれをただただ受け止めることしかできなかった。
やがて朝がきて、二人は出発しようとしていた。
一睡もできなかったのか二人とも目が赤い。まぁ…ハッシュは泣いたからだろうが。
「おし…行くぜぇ!!」
ハッシュは思いっきり泣いて気持ちが晴れたのか、元気よく叫んだ。
「もぉ…うるさいなぁ…」
ライラは言葉とは裏腹に嬉しそうな顔をして言った。
「…そういや…どこ行けばいいんだ…?」
ハッシュは立ち止まり、頭を掻いた。
「もぉぉ…何してんのよぉ…。…森を抜けたら南に行けば町があるわよ……お父さんが言ってた。」
ライラは呆れ顔になりつつも説明した。
「町…かぁ…どんな町かなぁ?」
ハッシュは歩きながら、考えた。
「マサリアと関係があるんだから…変わらないでしょ」
ライラは笑いながら言った。
そして森の出口が見えた。
「…よし…行くか…」
「うん!!」
二人同時に森を出た。
そして二人の旅は始まった。