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リング  作者: 桜坂 虎
3/3

〜旅出〜



「はぁはぁ…!!……な…んだよ…これ…!?」


急いで走って来たハッシュは絶望してその場で座り込んだ。

それはそうだろう。

さっきまで家があり、畑で仕事をしている人もいて、自分の家もあったのに…今の村は無惨にも一面焼け野原になっていた。

家は灰になり、畑はぐちゃぐちゃ。

もはやさっきまで村だったと言っても誰も信じないくらいだった。

ハッシュは座ったまま地面の砂を握り涙を流した。



「…ぐ……うぁ…」


ハッシュが絶望し、涙を流していると…村の奥からうめき声が聞こえた。


「…!?おじさん!!」


ハッシュは泣きながらも声のした方を見て、駆け寄った。


「……ハ…ッシュか……ライ…ラ…は……?」


声の主はジェーダだった。全身にひどい火傷をおって、確実に助からないだろう。


ハッシュの声を聞いて、ジェーダは必死の思いで声を絞りだした。


「ライラなら無事だよ!!お…おじさん!!一体何が…何があったんだよ!?」


ハッシュは泣きながら、ジェーダの方を掴み叫んだ。


「…そう…か…ライラは無事か……。よか…た…。ハッ…シュ…お前に…頼みたい事が……ある…」


ジェーダは痛みに耐えながら小さく微笑み、力を抜きながら言った。


「……何…?何だよ…?」



ハッシュは前が見えないくらい涙を流し、ジェーダの顔に落ちた。


「…泣く…な…男だ…。…ハッシュ…ライラを頼んだ……。あいつは…お前の…事…が好きだ……。いつも…あん…な…グフ!?………ハァハァ…。ぃぃ奴…だ…。…お前には…もったいない…かも…しれないくら…い…だ」


ジェーダは苦しみに耐え、ハッシュを安心させるように微笑みながら言った。


ハッシュは唇を噛み締めながら何度も頷いた。


「………は…はは…。これも…運命…か…。…そうだ…あそこに…指輪があるだろ…ぅ…」


ジェーダはシェイの落とした指輪を震える手で指差した。


「こ…これ……?」


ハッシュは手の届く距離に落ちていた指輪を拾いジェーダに見せた。


「…ぁぁ…やっぱり…だ…。ハッシュ…その指輪はお前の……母の指輪…だ……」


ジェーダは指輪を見つめ懐かしそうに微笑んだ。


「俺の……母ちゃん…!?」


ハッシュは指輪を見ながら言った。


「お前は…この村で産まれて…ない…。15年前…一人の女が…こ…の町に…お前を持ってきた…。」


ジェーダはもう痛みを感じなかったのか…空を見ながら静かに語りだした。

ハッシュは黙って聞いていた。

いや…驚きで喋れないのかもしれない。


「…女は…こう言った…。この子を…育ててやってください……とな…。…俺は…すぐに受け取ったよ…。…そして村のみんなでお前を育てた……。」


ジェーダは小さく微笑みながら喋り続けた。



「……ハッシュ…その指輪を持って旅に出ろ……」


ジェーダは視線をハッシュに向け、真面目な顔をして言った。


「た…び…?」


ハッシュは驚いた様子でジェーダを見た。


「…ライラを頼んだ……。…そういや綺麗な女だったなぁ…お前の母は……。…あ…こんな事言ったらあっちで待ってる奴に何されるかわかんねぇな……」


ジェーダは目を瞑り微笑み笑った。


「…え…おじさん……?お…い…」


ハッシュはジェーダの体を揺さぶった。


「…随分一人だったから…寂しかっただろ……今…行くよ…」


ジェーダは誰かに語るように息を引き取った。


「おじさん…!?…そんな…どうすりゃいいんだよ…ライラは…おい…おじさん…返事してよ……。おじさぁぁぁん!!!!」


ハッシュはもう動かなくなったジェーダの胸に顔を押し付け泣いた。片手に指輪を握り締め…







「おっそいなぁ…」


ライラは木の根のあたりで隠れるように、座っていた。


と…その時…ライラの後ろで何かが動く音がした。


「………!?」


ライラは体を硬直させた。

そしてその音がだんだん近付いてきて、ライラの肩を何かが触った。


「キャァァァァ!?!?」

ライラは肩に触れた何かを振り払い、その場を飛び離れた。


「うゎ!?何だよ!?!?」


ライラに触れた何かは叫び声に驚き後退りした。


「いやぁ!!キャァ!!ハッシュ!!たすけ……て………?」


ライラは顔を手で覆いながら叫んで隙間から、何かを見てぽかんと口を開けた。


「…呼んだか?」


何かはいたずらっぽい口調でそう言った。


「ハ…ハッシュ……」


ライラは顔を真っ赤にしながら、目をパチクリさせた。


「…ハッシュ助けて…か…」


指にはめた指輪を見ながら呟いた。



「あ…あれは…ちがうの!!ほら…冗談よ!!」



ライラは真っ赤になった顔を隠しながら言う。


「……行くぞ…」


ハッシュは荷物を持って一声かけた。


「え……?まだ帰らないの…?」


ライラは手の隙間からハッシュを見て言った。

それもそうだろう。

もう辺りは暗くなっていて、森は真っ暗だ。

普通は帰る時間なのだ。


「…あぁ…」


ハッシュはライラの手を掴み無理矢理、森の奥へと進んだ。


「ちょ…どうしたのよ!?おかしいよ…?」


ライラはハッシュの手を振り払い、顔を見た。今にも目が赤く、唇を噛み締めながら何かを耐えているようなハッシュの顔を…


「……いいんだよ…来い…」


ライラを抱えハッシュはそのまま奥へと進んだ。

ライラは、固まっていた。今まで見たことないあんな顔を見てから…




森はさらに暗くなり、風が木の枝を揺らし奇妙な音を出している。

ハッシュ達は懐中電灯を照らし、奥へ奥へと進んでいた。

ライラも何かを悟ったようにハッシュの後を何も聞かず追う。


そして、二人の前に光が現れた。


月の光だ。誰かが休憩場所を作ったのか、そこ一体の木は切られていて、月の光がさしこんでいた。

二人はそこで足を止めた。


「ねぇ…休んでこうよ…」


ライラはくたくたしながらその場で座り込んだ。


ハッシュは何も言わずにライラの前に座った。

そのまま、二人は黙ったままだった。


何分黙っているだろうか…。森から聞こえるあらゆる音が虚しく響く。


「…あたしもう…寝るね」


ライラは軽く微笑みその場で寝転んだ。


「…ライラ」


「ん…?」


ハッシュの呟きにライラが聞き返す。


「……や…何でもない…」


ハッシュは寝転びながら言った。


「そ…じゃ…おやすみ」


ライラはハッシュに笑顔を見せてから背を向けた。


ハッシュは黙ったまま月を見た。

手から指輪をはずし、月の光にあてた。


「な…なんだ…!?」


指輪に月の光を当てた瞬間、指輪が光を放った。まるで森全体が明くる輝いた。

ハッシュは指輪を握り締めた。月の光が当たらない指輪はだんだん光を消えていった。


ハッシュは指輪を握った手を見つめながら、涙が溢れていた。


ハッシュ…泣くな男だろ……

この子を育ててください…

ライラを頼んだ…

お前の母の指輪だ…


「ハッシュ…ハッシュ…!?」


ハッシュは涙を流したまま声のする方を見た。


「…!?…どう…したの…!?」


ライラはその涙を見て驚いた。

ハッシュが泣くのを初めて見たからだ。


「…ライ…ラァ……。どうすりゃ…いいんだよ…なぁ…俺は…」


ハッシュはライラの肩に顔を埋め泣いた。

子どもが泣くように、ずっと泣いた。


「ハ…ッシュ…」


ライラはそれをただただ受け止めることしかできなかった。







やがて朝がきて、二人は出発しようとしていた。

一睡もできなかったのか二人とも目が赤い。まぁ…ハッシュは泣いたからだろうが。


「おし…行くぜぇ!!」


ハッシュは思いっきり泣いて気持ちが晴れたのか、元気よく叫んだ。


「もぉ…うるさいなぁ…」


ライラは言葉とは裏腹に嬉しそうな顔をして言った。


「…そういや…どこ行けばいいんだ…?」


ハッシュは立ち止まり、頭を掻いた。


「もぉぉ…何してんのよぉ…。…森を抜けたら南に行けば町があるわよ……お父さんが言ってた。」


ライラは呆れ顔になりつつも説明した。


「町…かぁ…どんな町かなぁ?」


ハッシュは歩きながら、考えた。



「マサリアと関係があるんだから…変わらないでしょ」


ライラは笑いながら言った。


そして森の出口が見えた。


「…よし…行くか…」

「うん!!」


二人同時に森を出た。

そして二人の旅は始まった。

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