触れ合う手
「佐助さんのおかげで早く終わりました。ありがとうございます」
掃除を終えた小春が礼を言ってくる。
「少し休みましょう、佐助さん」
小春は縁側に座ると晴れた空を見上げて、気持ちよさそうに息を吐いた。
無碍にすることもできないので、佐助は少し離れた場所に腰を下ろす。頭の中では距離感を間違えるな、という言葉が呪文のように渦巻いていた。
「昨日の夜、布団の中で色々考えていたんです」
小春がしんみりした口調で語り出すのを、佐助は黙って聞く。
「京士郎さんが殺人鬼とわかった時、頭の中を今までの人生が一気に駆け巡りました。家族が生きていた頃の幸せな毎日も、その後起こったたくさんの悲しいことも。死にたくない! って強く思いました」
まだ生きていたい。まだ何も叶えていないのにまだ何も掴めていないのに、ここで終わるなんてあんまりだ。
「その時、あなたが来てくれた。あなたのおかげで、私は今こうして生きている——あなたと話せている。本当にありがとうございます」
わずかに潤んだ瞳で、万感の思いを込めて感謝を伝える小春。佐助の胸がまたズキズキと痛んだ。
「それが仕事ですから」
突き放すような物言いになり、まずかったかと思ったが訂正はしなかった。
これが統一郎の求める正しい答えだと思ったから。
「佐助さんは歳はいくつなんですか?」
「18です」
「えっ! 私と二つしか違わないんですか? もっと上かと思っていました」
「老けて見えますか」
「ちっ、違いますよ! そういうわけじゃなくて……貫禄があるっていうか、私と比べるとすっごく大人びてるというか……威厳! そうです、威厳があるという意味です!」
「ふっ」
小春があまりに慌てるので、佐助は思わず意識して作っていた仏頂面を崩してしまった。
「佐助さん、今笑いました?」
「すみません、不愉快でしたか」
「そんなわけありません! ただ佐助さんも笑ったりするんだな、って」
「俺だって人間ですから、そりゃ笑いますよ」
「もう一度笑ってみてくれませんか」
「俺の笑顔なんて欠片も面白くないですよ」
小春がまじまじと自分の顔を見るので、佐助は何がそんなに彼女の琴線に触れたのだろうと訝しむ。
「何か懐かしいような感じがしたんです。佐助さんの笑った顔を見て、前にも同じことがあったような感じがして——ごめんなさい。何言ってるかさっぱりですよね」
雷に打たれたような衝撃だった。
彼女は覚えているのか。自分のことを。
いや、だとしても朧げに記憶の片隅に残っているだけだ。
「変なこと言ってすみません。私、水を捨ててきますね」
小春が雑巾を濡らすために用意した水の入った桶を持ち上げて、外に出ようとする。
「そんなの俺がやりますよ」
佐助が桶を奪おうとした時——。
「あっ——」
互いの指先が触れ合う。
小春のあたたかい体温が指先に伝わり、佐助の心臓がドクンと音を立てる。
それは一瞬のことですぐに指同士は離れたが、小春はかすかにうめき声をもらして、今の接触に確かな反応を示した。
気まずそうに逸らした視線に、佐助は彼女が女性として成長したことを感じ取った。
あの頃とは違うのだ。俺も彼女も。
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