天狗大戦2
「応戦しながら愛宕神社を目指すぞ! 決して深入りせず、あくまでも防戦に徹しろ!」
統一郎の命令に、息の合った「はい!」の声。
佐助は統一郎のそばでやって来る天狗たちをいなしながら、彼と共に山を登っていく。
愛宕神社にどれだけの戦力がいるかわからないが、統一郎一人だけを行かせるのは避けたい。
いくら統一郎が強いからと言って、愛宕山太郎坊——江戸の天狗たちの長とも呼ぶべき者が相手となれば流石に手強いだろう。
40名の魔性討伐軍に対して、天狗集団は今いるだけでも50名はいそうだ。有名なあやかしなだけあって、天狗たちは一人一人が苦戦を強いられる強者である。
しかし、魔性討伐軍だって負けていない。
「おらあああ!」
一際威勢の良い声と共に、大きく振り回した槍で天狗をぶっ飛ばしたのは、早川陣呉という18歳の青年である。
ぶっ飛ばされた天狗は、木の枝にグッタリと体を預けて気絶している。
「殺人鬼の仲間なんかに負けてたまるか!」
この陣呉、訳あって刀は使えないのだが素晴らしい槍の名手で、その上純粋の人間にしてはなかなかの怪力の持ち主。
隊員たちの間で開催された腕相撲大会では、二位の成績を誇るほどだ。
ちなみに一位は佐助である。
陣呉は、片目を眼帯に覆われているとは思えないほどの華麗な動きで敵を捌いていく。その向こうみずの気勢に天狗集団に怯えが広がっていく。そうして少し怯んだ隙に、容赦なく吹っ飛ばされていく。
陣呉は左目を売っていた。眼帯の下の本来目玉が入っているべき場所は空洞で、見た目が悪いので寝る時以外は眼帯をつけていた。
「ああもう邪魔くせえ!」
槍を振るっているうちに袖が邪魔になり、陣呉は二の腕が悲鳴を上げるほど、ギチギチに袖を捲り上げる。
晒された素肌は古傷まみれ。体中のあらゆるところに切り傷や火傷の痕が刻まれている。
痛々しい傷跡は、彼の散々な目に遭ってもなかなか死ねない頑丈さを語っているようだ。
「俺たちは殺人鬼なんかに負けねえ! あんなクソどもに負けるわけにはいかねえんだよ!」
そうだろ!? と言わんばかりに隊員たちを振り返れば、ハッとしたように頷いたのは二番隊の隊員たち。
陣呉は二番隊隊長である。隊長に鼓舞された隊員たちが、負けじと迫り来る天狗たちを返り討ちにしていく。
隊員たちが作り上げてくれた少しの時間で、統一郎たちは一気に先に進むことができる。
ありがたい、と佐助が部下たちに感謝していた時——。
「くっ……! クソクソクソクソ!! 討伐軍どもが!」
一人の天狗が懐から羽団扇を取り出すのが見えて、佐助はまずい、と大きく息を吸い込む。
「全員死ぬ気で踏ん張れーっ!」
佐助が叫び終わるのと、かつてない強風がその場に発生したのはほとんど同時だった。
佐助は、一年前の次郎坊との戦いのことを思い出す。
天狗は、羽団扇と呼ばれる扇を使って飛行、縮地、分身、変身、暴風雨を操るなどの力を持つと伝えられている。
一年前、追い詰められた次郎坊が振るった羽団扇によって竜巻のような突風が巻き起こり、手にした武器や隊員ごと吹き飛ばされる事態が発生した。
その時の記憶がまだ新しい佐助は、二の舞いになってはならぬと手近な隊員の肩を掴み、互いに体が地面から離れぬようにと努めた。
突風は思いの外すぐに止み、隊員たちはホッと息をつく。
「はあ……はあ……」
羽団扇を使った天狗は、顔を青くしてげっそりと天空に浮いている。ゆっくりと地上に下がっていることに、本人は気づいていない。
羽団扇の使用は相当なエネルギーを使うのだ。よって天狗の中でもある程度の膂力を持ったエリートでないと羽団扇は使えない。
一年前の次郎坊も、使用すればするほど生命力が削られていくようだった。
あの天狗の力では、暴風を一時巻き起こすのがせいぜいだったようだ。
佐助は不幸中の幸いだったと思い、少し離れた場所で戦っている卵井に叫ぶ。
「頭上に注意していろ! 羽団扇を取り出したら瞬時に撃ち落とせるように!」
「了解でーす」
言ったそばから天狗の一人が持っていた羽団扇を撃ち落とすと、地面に落ちたそれを拾われないように懐にしまいこむ。
空中に意識を向ける卵井を護衛するように、数名の隊員が彼のまわりを囲んだのを見て、佐助はあちらは大丈夫そうだな、と前方に視線を戻した。
その視界に映り込んだものに、佐助は叫び出しそうになった。
30メートルほど離れた木の枝——そこに短子が腰掛けていた。




