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【完結保証】のけものの幸せな結婚  作者: 絶対完結させるマン


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36/54

彼の実家へ

 「宿短子。巷で評判の絵師。宿家を勘当された不良息子か……」


 統一郎の部屋で、佐助は彼と二人で顔を突き合わせていた。


 小春からは、先ほど話を聞かせてもらった。今は自室で休んでもらっている。


 何があったのかという問いに、小春は「短子さんはあんこを送ってきてくれたんです」と言った。


 「本当に突然のことでした。気づいたら短子さんの顔が目の前にあって、唇が重なっていて……舌を噛まれて」

 「噛まれた? 貴女があいつの舌を噛んだわけではなく?」

 「はい。私は知らなかったのですが、ああいう接吻のやり方もあるのですね」


 小春の指先がそっと唇に触れた。頬にさした赤みを見て、佐助の口内に苦い味が広がる。


 一方統一郎は、懐から常備している布切れを取り出すと、それを小春の唇に擦り付ける。


 「唇。よく洗っておいた方が良いですよ。それと口の中も」

 「は、はい……?」


 笑顔ながら圧を感じさせる表情に小春は戸惑った。


 男たちの嫉妬と苛立ちに、彼女はとんと気づかない。


 佐助の胸中では、怒涛の嵐が猛威を奮っていた。


 あいつが女にだらしない奴だということは知っていたが、まさか乱暴しようとするほど見下げ果てた人間だったとは……。


 以前短子がやって来た際に、あっさり小春と二人きりにしてしまったことを思い出して苦い気分になる。


 気が緩んでいた自身に気づき、際限なく自己嫌悪の念が湧いてきた。


 短子は敷地に入ると、まず七男を呼んでくるように言った。二人は挨拶と世間話を交わし、微笑ましいその様子に、周りの隊員たちも何も不思議に思うことはなかった。


 「七男の兄が訪ねてきたのかと思ったんです」


 隊員の一人はそう述懐した。


 七男は短子に言われるまま、屯所から少し離れた場所にある統一郎の屋敷に案内した。


 七男(あいつ)が疑い深い性格でないとわかっていて、近いうちによく教育しておかなければならないと思っていたのに——佐助は自分があまりにぼんやりしすぎていたことを猛省した。


 「門の前の魔除けも、あの狸と共に入れば怪しまれることもないしな」


 統一郎が眉間に皺を寄せる。


 あんこの存在はすでに全隊員に知れ渡っている。佐助があんこを肩に乗せて見回りから帰ってくると、必ずあの風鈴のような魔道具があやかしの侵入を告げるので、今ではあの魔道具が鳴る音に誰もさして注意を払わなくなった。


 「あれは御奉行様に返還することにした。役に立たない道具など持っていても仕方ない」

 「……申し訳ございません」

 「お前が謝ることではない。無駄な謝罪は逆に不愉快だ」


 統一郎が立ち上がると、佐助は指示を待ち侘びる犬のように彼を見上げる。


 「宿家に行くぞ。当主にこの話をしに。お前もついてこい、佐助」

 「かしこまりました」


 ***


 屋敷の方には一番隊隊長である強端樹を護衛につけて、統一郎と佐助は宿家の本家を尋ねた。


 すっかり夜も更けていた。昼間見た屋敷は夜になると余計大きく物々しく思えた。


 宿家がどれほど大きな家であるか、改めて思い知らされるようであった。


 宿家当主の反応を今から想像して、佐助は気が重くなる。


 人の道から外れた行いをするようなろくでなしが家から出たと知ったら、誰しも愉快な気分はしないだろう。


 なんなら、こちらが嘘つき呼ばわりされる可能性もある。急に来て何を失礼なことを、と拳が飛んでくる可能性だってなきにしもあらず。


 何が起こっても統一郎のために素早く動けるようにと、佐助は神経を張り巡らせた。


 「魔性討伐軍の方……ですか? こんな時間になんの用でしょう」


 門前にやって来た宿家の当主を見て、佐助は思わずその顔を食い入るように見つめてしまった。


 短子の双子の弟である宿家当主——宿菊男は、短子に瓜二つだった。


 鏡の中から這い出してきたかのようにそっくりで、そんなわけはないとわかっているのに、佐助は一瞬短子が出て来たのかと思った。それくらい兄弟は見分けがつかなかった。


 背丈や肌の色。外側にはねた癖っ毛まで、兄弟仲良くおんなじである。


 「こんな場所で立ち話もなんですから、どうぞお上がりください」

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