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【完結保証】のけものの幸せな結婚  作者: 絶対完結させるマン


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勘当された息子

 ***


 「副長おかえりなさいっす!」


 「こっちは何も異常ありませんでした!」と見回りの結果を報告する七男を「ご苦労様」と労う。


 「急に抜けて悪かったな」

 「いえ……それで宿先生の方はどうでしたか?」

 「どうと言われても……まあ、少なくとも泥棒ではなさそうだった」

 「宿先生、実家に何の用事があったんでしょう」

 「お前知ってるのか。あの屋敷があいつの実家ということを」

 「はい。俺、この辺にはちょっとだけ詳しいんです。おばちゃんたちの噂話によく付き合わされるので!」


 七男の実家もこの辺りにあるという。


 近所のおばちゃんたちに可愛がられている七男の姿が目に浮かぶ。


 「宿家って言ったら有名ですよ。この辺で一番デカい屋敷ですし。家の裏の道場にはいつもたくさんの門下生がいるんです。ちなみにもう一つ有名な話があって……」

 「なんだそれは?」

 「六年前に跡を継いだ息子とその奥さんの話です。近所でも評判のおしどり夫婦でとっても仲が良いらしいっす!」


 七男曰く、現在の道場主である短子の双子の弟は、14歳の時に一目惚れした女性と激しい恋に落ちて、その結果子ができてしまったのだという。


 厳格な父親はカンカンに怒ったが、息子は父親にある提案をして、最終的にその女性との結婚を認めさせてしまった。


 その提案というのが——。


 「なんでも息子さんが父親に勝負を申し込んだようで。それで門下生の皆が見てる前で圧勝してしまい、それなら譲らないわけにはいかない……と決断したんっすよ。長年技を磨き抜いた親父さんが、まったく歯が立たなかったらしいっす」

 「それで結婚も認めざるを得ない、という流れに……」

 「そういうことっす。親父さん、すっかり大人しくなっちまって。最近は家に篭りがちみたいっす」


 名だたる武闘家も、すっかり隠居老人になってしまったというわけか。


 まあ出来の良い息子がいるのだから、道場運営の方は安泰だろう。


 「菊男(きくお)さんは——あ、今の道場主の名前なんすけど。菊男さんは隙あらば門下生たちに奥さんの自慢話をするらしいんすよ。もう新婚でもないのによく惚気話のネタが尽きないな、って門下生の一人が苦笑いしてました」


 なるほど庭で見かけた子どもは、菊男の娘たちだろうと佐助は思った。


 そして、縁側で微笑んでいた婦人が菊男の妻だと。


 「最近四人目が生まれたらしくて、あそこの夫婦はいつまでも仲睦まじい、と近所の人たちはみんな微笑ましく思ってますよ」


 七男も祝福を表情に滲ませて言う。


 「宿先生は実家を勘当されてましたよね。さっき確かに入っていくのを見ましたけど……」


 七男は不可解そうに首を傾げて腕を組む。


 「あっ! 仲直りしたいと思って何年かぶりに訪ねたとか!?」


 七男が顔を明るくしてそう言うのを、佐助は違うな、とすぐさま思う。


 菊男の娘たちはやけに短子に懐いていた。一回の訪問でああはなるまい。


 「まあ、次に会った時にでも聞けばいいか」


 佐助はそう結論を出して、仕事に戻った。


 ***


 短子は忍び足で、父の部屋に向かっていた。


 家を出ていってから、父とはずっと顔を合わせていない。遠巻きに顔を盗み見たことはあれど、最近はとんと家の中から出てこない。


 父の住まいは、本宅の裏手にある道場のすぐ脇だった。そこに建てられた小さな家を隠居老人はねぐらにしていた。


 この屋敷は、正門を抜けて10歩ほど歩いた先に本宅、裏手に道場、別宅であるこぢんまりした家、年季の入った蔵——というような構造になっていた。


 本宅の前にある庭で、短子はよく香澄(かすみ)の娘たちと遊んでいた。


 香澄というのは、菊男の妻の名である。18の時に宿家に来て以来、菊男の強い愛情を一身に受けている。


 菊男は昼は基本的に道場にいるが、稀に本宅に帰ってきていることもある。なので短子が屋敷の様子を窺いながらコソコソと出向くのは常だった。


 普段短子は本宅にしか行かない。


 なのに今日はなぜ父の住まいに向かっているのか?


 短子は別宅の玄関をそうっと開けてみる。


 なんの戸締りもしないなんて不用心だな、と短子は思う。


 玄関口で立ち止まり、耳を澄ましてみる。


 こちらに気づいた気配はなし、と。


 よし、と満足げに頷くと、短子は細心の注意を払って家の中に入っていく。


 父は寝ているのだろうか。


 だったら最高だ。さっさと用事を済ませて出ていこう。


 この別宅の寝室は確か奥だったはず——短子は昔の記憶を手繰り寄せながら進んでいく。見つかってしまった時のために、いつでも逃げる準備をしながら。


 そして、とうとう父のいる寝室の前に来た。


 襖を開いて、短子は心臓が止まるかと思った。


 恐ろしい形相をした父親が目の前にいた。


 確かに気配はしなかったはずなのに、と短子は自分が失敗したことを悟る。


 そうして、ここに6年ぶりの親子の対面がなされた。

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