屋敷に連れていかれて
「手荒な真似をしてすみません」
屋敷に着くなり京士郎にそう言われたが、彼に後悔している気配は微塵もない。
「いつもあんな扱いを受けているんですか?」
「いえ……いや。……はい、そうです。あっ、でも珠生ちゃんを責めないでください! 珠生ちゃんにも色々事情があるんです」
咄嗟にそう取り繕うと、小春の思いが伝わったのか京士郎が安心させるように笑んだ。
「小春さんがそこまで言うなら不問にします」
「あの……それで私、帰らないとまずいと思うんです、けれど……」
「それはできません」
京士郎はきっぱり言った。
「あんな家に大切なあなたを一秒だって置いておけませんから」
ではここで暮らせということなのだろうか。
肯定するように京士郎が微笑んだ。
「今まで辛かったでしょう。しかし、もう不安を感じることはありません。私のところに来たのですから」
「けれど……」
「大丈夫です。すぐに婚礼の日がやって来ます。そうすればあなたは私の妻。誰にも傷つけさせません」
そこまで自分の身を案じてくれる気持ちはありがたいが、このままでは本当に結婚するしかなくなる。
それだけは避けたかった。
心から好きになった人と添い遂げるという小春のたった一つの願いが、閉ざされてしまうことだけは。
「私は結婚するつもりはありません!」
……面と向かってそう言えたら、どれほどよかったか。
小春はこの世で一番幸せそうに蕩け切った顔の京士郎に何も言えずに、案内された座敷に鎮座した。
私の人生はどうなるのか。
小春は一人きりの空間で、想像を巡らせてみる。
この屋敷に居続けることはできない。京士郎さんの気持ちに応えるつもりがないのに、それでも住まわせてくださいなんて虫の良い話あり得ない。
でも、珠生ちゃんたちがいる分家の屋敷に戻ることもできない。もし破談にした末に戻ったら、珠生ちゃんのお父さんは酷いお仕置きを私にするはず。前よりも扱いが悪化することは確実だ。
何よりあの家に居続けて幸せになる未来が、欠片も見えてこない。
となるとあの家族からも離れて、一人で生きていくしかないわけだけど……。
「……無理に決まってる」
金もない。特別な才能もない。生活力も怪しいところだ。
何もない無力な女が一人で世を渡っていくなんて夢物語だと、深く考えずともわかる。
どんなに嫌でも、誰かに寄りかかって生きていくしかないのか。
自分自身のあまりの情けなさと小ささに、小春は声を上げずに泣いた。
その日の夜、京士郎が部屋を訪ねてきた。




