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【完結保証】のけものの幸せな結婚  作者: 絶対完結させるマン


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腐れ縁

 ***


 二年前。佐助が一人で市中見回りをしていた時だった。


 「助けて討伐軍の人!」


 短子が後ろから肩を掴んできて、その様子があまりに切羽詰まったものだったので、佐助の第六感がこれは只事ではないと告げていた。自分が出張らなければいけない場面が来たのだと。


 自分の第六感は、まったく当てにならないと知った。


 「あやかしだよ、あいつ。鎮圧して! あ、でも殺すのは絶対ダメだよ。人殺してないから! まあこれから俺が殺されれば、人殺しになっちゃうけど! そうならないように何とかしてください!」

 「わかりました。気絶させて捕らえます」


 佐助は鬼女のような女を取り押さえると、手刀で気絶させた。


 「ありがと〜。もーマジで肝冷えた〜!」

 「このあやかしとは、どこで遭遇しましたか」

 「ん? 俺の家」

 「は? ……ああ、自宅に侵入してきたということですか」

 「いや、俺が家に招いたの。しばらくは和やかな時間が流れてマジいい感じだったんだけどさ、なんか『私と絵、どっちが大事なのよ!』って言い出してさ」

 「はあ」

 「当然絵って答えたわけよ。俺まだまだ駆け出しだけど、一応絵師なんだよ。嘘でも絵より君の方が大事だよ……なんて宣いたくないのよ。んで、正直に伝えたら大激怒。いやー包丁持ち出した時は焦ったね」


 佐助は、だんだんとわかりたくもない事情が飲み込めてきた。


 「嘘を言ったんですか。自分の恋人をあやかしなどと——」

 「あながち嘘じゃないって。俺を刺そうと突進してきた顔なんて、人間離れしてたでしょ? 絵になりそうだよね」


 ただの痴情のもつれじゃないか。


 殺人鬼案件ではなくて少しホッとしたが、巻き込まれた佐助は人騒がせな……と呆れる。


 「帰ったらちゃんと話し合ってください。恋人同士なのだから——」

 「あ、恋人ではないよ」

 「は?」

 「同居人って言うの? この女の人の家に居候させてもらってるんだよね。俺、着の身着のまま実家を追い出されたからさ。でももう引っ越すようかなあ……」

 「それってヒ——」

 「ヒモじゃないよ。食費くらいは払ってるよ。まあ、限りなくヒモに近いけど。でもいずれ絵が売れたらドカンと返すつもりだから!」


 その後、実際に短子の絵は売れに売れて一躍人気絵師の仲間入りをし、生活には困らなくなった。


 いい加減なことを嫌う性分の佐助は、短子のだらしない生活に嫌悪感を覚えた。


 佐助の感情には気づかずに、短子は「助かったよー」と言いながら佐助の肩に手を置く。


 「お礼させてよ」

 「いや、そういうのは結構です」

 「そんなこと言わずにさ〜。俺の気がすまないんだって」


 短子がしつこいので、佐助は「少しだけならば」と承諾した。女性を自宅に送り届けてから、短子についていく。


 すぐについていったことを後悔した。


 連れていかれた先は、食べ物屋の二階だった。


 やけに艶かしい女性が二人やってきた時点で、佐助はここがどういう店か察して帰りたくなった。


 失礼します、と退散しようとした佐助を短子が「ちょ、待てよ」と引き留める。


 「奢ってやるから遠慮すんなって」

 「その金はあなたの物じゃないでしょう」

 「それはそうだけど」

 「だったらお断りします。それにこういう場所は好きじゃない」

 「え〜!? マジで言ってる?」

 「みんながみんな、あんたみたいじゃないんです。では」

 「そんなー。たまにはいいじゃん、息抜きすれば。なんか苦しそうな顔してたから、気晴らしになればいいなーって思って誘ったのに」


 心当たりのある佐助は思わず足を止めてしまう。


 彼は半月前に、この上なく辛い仕事を終えたばかりだった。


 まだその精神的な傷が癒えていない佐助は、ここのところずっと怖い顔をしていた。


 この男は、俺の心境を察して——?


 「それに一人で遊ぶのも侘しいじゃん。付き合ってよ〜」


 いや、絶対こっちの方が本音だ。


 佐助は今度こそ店を出ていった。


 「待て! 童貞! 玉なし!」


 二階からヤジを飛ばしてくる短子に、人に聞かれたら気まずいから黙れ、というようにひと睨みくれてやる。


 今後二度と会うことはないだろうと思っていたのに、短子とはそれからも何度となく出会った。


 ちなみに短子の誘いを断った佐助だが、そういう店に入ったことは噂によって隊員たちに知られてしまい(短子が大声でヤジを飛ばしたからだ)、あの実直そうな副長が、と屯所はしばらくその話題で持ちきりだった。


 「おい副長が遊郭行ったって本当か!?」

 「いや、副長だってそういう遊びは多少するだろ。年齢的に一番漲ってる頃だろうし」

 「でもあの堅物の副長だぞ? 勝手にそういう欲求はないと思ってたよ。あの年で枯れてるとは可哀想に……と裏でこっそり泣いてたのに」

 「お前そんなこと思ってたの?」


 そんな会話が聞こえてきた時の佐助の居た堪れなさといったらない。


 弁解したら逆に怪しまれた。挙句の果てには隊員たちから、


 「別に全然気にしないですよ! 副長だってそんな時もありますよね……」


 と生温かい目で見られた。


 佐助は激怒した。必ず、かの放蕩淫乱の駆け出し絵師に灸を据えねばならぬと決意した。


 ……とまで言うのは大袈裟で、佐助は自分から積極的に他人と関わっていく性格ではない。


 こちらを見かければ絡んでくる短子に、軽蔑と嫌悪をあらわにするくらいだった。


 ***


 「……と、まあこんな感じだ」


 短子との初対面から今までの流れを語った佐助は、渋面をさらに深くした。


 「お前は一切変化が見られないな」

 「え!? それって、いつまでも若々しさを失わない……ってコト!?」

 「馬鹿は死なないと治らないんだなってことだ」

 「馬鹿って言う方が馬鹿だし」


 このまま話していても生産性などないので、佐助は仕事に戻ることにする。見回りの仕事の嫌なことは、こんな奴に出くわすことだ。


 「行くぞ、七男」

 「は、はい! 宿先生、失礼するっす!」


 佐助たちが見回りを再開しようとした時——。


 「副長! 今すぐ拠点の方に戻ってください!」


 背後から隊員の一人がそう叫びながら、駆け寄ってきた。


 わざわざ副長である自分を頼ってくるとは、ただごとではなさそうだ。


 「何が起きた」

 「襲撃です! あやかしが襲撃してきました! 現在屋外で隊員たちと交戦中です!」


 敷地内に入られたということか。


 佐助の脳裏に、真っ先に小春の顔が浮かんだ。


 ——おかえりなさいも言わせてくださいね。


 そう言った時の彼女の花開くような笑顔が、心の中に日の名残りのようにじんわり暖かく残っている。


 彼女が危ない。


 佐助は肩に乗ったあんこが振り落とされたのもわからないほど、夢中で小春の元へ駆けていった。

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