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【完結保証】のけものの幸せな結婚  作者: 絶対完結させるマン


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25/33

騒々しいあいつ

 団子屋を離れた一行は、街中を闊歩していく。


 この世界の江戸の人口はかなり多く、全国的に見ても人口密度は圧倒的に江戸が高かった。


 その理由の一つとして、あやかしたちが江戸に集中しているから、というのがある。


 今から100年と少し前、職を求めてほとんどのあやかしが江戸にやってきた。


 その時やってきたあやかしたちがそのまま住み着いて子孫を作り、江戸は人とあやかしが混ざり合って暮らす都市となったのだ。


 そんな背景もあって、あやかしの大半は江戸にいる。


 あやかし関連のトラブルや、殺人鬼騒動・目撃証言が集中するのも、必然江戸ということになる。


 地方にもいないことはないんだろうが——。


 佐助は雑然とした町を見渡す。


 今日も特に世の中に変わりはない。いつも通りの風景が広がっていた。


 豆腐屋との立ち話に快活に笑う奥さん。


 「金魚〜。綺麗な金魚だよ〜」と呼びかける金魚売りに群がる子どもたち。


 赤ん坊を前に抱っこしつつ、油断すればどこかに駆け出そうとする幼い我が子の手をむんずと掴みながら、せかせか歩くお母さん。


 初々しさが隠せていない新婚ホヤホヤの若夫婦。


 賑やかで活気に満ちた都会の空気の中を、佐助たちは進んでいく。


 「あっ、花嫁さんですよ!」


 七男の視線の先を見れば、白無垢を着た女性が両手に荷物を持った家族と共に歩いてくる。


 佐助たちを含めた江戸の人たちが、さっと脇によけて祝福の眼差しを送ると、花嫁は嬉しげにはにかんで去っていった。


 「花嫁行列か」


 佐助が呟く。縁起がいいな、と少し気分を良くする。


 漂う祝福ムードに離れたところにいる人々も、振り向いたり目を凝らしてこちらを見る。


 露地で家の外壁に背中を預けて項垂れていた物乞いのあやかしも、表通りの花めいた雰囲気に思わず土色の顔を上げた。


 再び見回りに戻る佐助たち。


 よし。江戸は今日も平和で大した問題は起きていない。


 知り合いらしき男が死にそうな顔をしてこっちに向かってきているが、そんなのは気のせいに決まっている。


 「佐助! 佐助ってば! おい無視すんなお前! みなさーん! ここに善良な民が困っているのに見捨てようとする魔性討伐軍副長がいまーす!」

 「やめろバカ!」


 佐助は、宿短子の頭を引っ叩く。


 七男が問いかける。


 「宿先生! そんなに血相変えて、何から逃げてるんですか!?」

 「あやかしから!」

 「なら任せてください! あやかしなら俺たちの領分で——」

 「いや、あやかしみたいな女から!」

 「え!?」

 「あーもう来ちゃった!」


 後ろを振り返れば、鬼女のような形相で短子を追いかける女がいた。


 ちなみに右手には出刃包丁を握っている。


 「アレはもう、殺人鬼より殺人鬼でしょ! 討伐しちゃってよ、魔性討伐軍さん!」

 「そんなことだろうと思ったよ」


 佐助が苦虫を百匹噛み殺したような顔になる。


 「落ち着いてください! 何があったか知らないっすけど、話せば分かり合えます!」

 「うるさい! 何も知らないくせに! 絶対殺す! 殺してやる、宿短子!」

 「悪化したー!? なんでっすか!?」


 事情を全く察していない七男が火に油を注ぐ発言をしたせいで、女の顔はもはや形容できない有り様になる。


 「なんであんな怒ってるんすか!?」

 「俺が浮気したから……」

 「ええ!? なんでそんなことしたんすか!」

 「なんでって言われても……ねえ」


 短子の女癖の悪さをよーく知っている佐助は、再度短子の頭を引っ叩く。


 「あだっ。ちょっと佐助。そんなに頭叩いて、馬鹿になったらどうすんの」

 「元から大馬鹿者だろ」


 こいつの浮気性は死んでも治らないな……。


 そんなことを考えているうちに、短子の被害者であり今から加害者になろうとしている女は、着々と距離を縮めてきている。


 いよいよ焦る短子。


 「うわー! ヤバいよヤバいよ!」

 「お前が蒔いた種だろ。お前が何とかしろ」


 佐助は短子の背中を蹴飛ばすと、女の前に差し出す。


 「よくも……よくも私を10番目の女にしてくれたな!」


 女が叫びながら、出刃包丁を振り上げる。


 「宿せんせーい!」


 七男の悲痛な叫びが響いた時。


 10番目の女が、うめき声をもらして地面に倒れ込んだ。


 「酷いな、佐助。俺に女の子殴らせるなんて」


 襲い掛かられていた短子は自身の手を見下ろすと、ふーやれやれとため息をつく。


 「ここまで来たら話し合いとか無理だし。気絶させるしかないじゃんね。佐助が守ってくれないせいで、女に暴力振るうクズになっちゃったじゃん」

 「安心しろ、クズ。お前は元からクズだ。というか自分が招いた問題くらい、クズでも自分でなんとかしろ。他人に尻拭いさせるな、クズ」

 「いやクズって言い過ぎだろ。傷つくわあ〜……」

 「へ? え?」


 七男はポカンとしている。


 「今のなんすか?」

 「別にただの手刀だよ。あっ、やるにはコツがいるから良い子はマネしないでね」

 「宿先生ってただの絵師ですよね?」

 「あ、知らないんだ」

 「確かに宿短子といえば、絵師って印象が強いと思うがな」


 佐助が短子を顎でさす。


 「武道家の跡取り息子だったらしいぞ、元は」

 「そう。だから手刀くらいは履修済み。俺の実家、そこそこ有名な流派の道場なんだ。石化流って言うんだけど——」

 「え!? もしかしてあの石化流っすか!?」


 江戸で有名な『石化流』は、主に拳を使った体術で200年以上の歴史を持つ流派だ。


 その流派を極めた達人の拳を打ちこまれた者は、全身の筋肉が固まったように身動きできなくなるとの噂である。その噂から"石化"の名がつけられた。


 「一応長男だったんだけど、鍛錬サボって絵ばっか描いてたら勘当されちゃった。ま、昔取った何とかってやつで、今でもその辺のゴロツキよりは強いよ」

 「そうだったんすね。だったらあんなに必死に逃げなくても良かったんじゃ……」

 「だって追いつかれたら殺されそうになるじゃん? 俺も殺されたくないから止めるしかなくなるじゃん? 殴るしかないじゃん? 一瞬で済む手刀とはいえ女の子殴るとか嫌じゃん」


 七男は何か言いたそうな表情になるが、すんでのところで飲み込んだ。


 「そんな状況になるまで放っておいたお前が悪い」


 言っちゃった!


 七男は自分の気持ちを代弁してくれた佐助を見る。


 「へーへー悪うござんした〜。まあ、堅物朴念仁の佐助くんには、男女のことはわかんないよねー」


 こんなやり取りを幾度も重ねてきたのだろうな、と七男はほとんど直感的に思った。


 「やっぱり仲良し……?」

 「おいやめろよ。沽券に関わるから」

 「へーそういうこと言っちゃうんだ」


 七男のかすかな呟きに、嫌悪感を示す佐助。


 「お前が俺の行く先々に現れるのが悪い」

 「お前が見回りなんかしてるのが悪いんだろー。そりゃしょっちゅう町をうろちょろしてたら、バッタリ会うこともあらあ。俺のせいじゃねーし」


 「見回りなんか下っ端に任せればいいのにさー」と短子。


 「てか、今さらだけどなんだその白いの」


 短子が、ようやく佐助の肩に乗っているあんこに言及する。


 「かっわいー。なんかアレだな。怖い顔の隣に可愛い生き物がついてると、めちゃくちゃウケるな。何お前。顔怖いから可愛いもので中和した方がいいですよ、って部下に言われたの? そんで犬飼い出したとか?」

 「そんなふざけた理由じゃない」


 佐助は、あんこの面倒を見ることになった経緯を語った。


 「へえ、じゃあこいつ化け狸なんだ」

 「こいつって呼ぶな!」

 「うお、マジじゃん。喋った」

 「ウチにはあんこというちゃーんとした名前があるんだ。小春がつけてくれた名前がな」

 「あんこ? なんでそんな名前なの?」

 「あんこが好きだかららしい。白米の代わりにあんこを食うんだと」

 「そんなに好きなの? なら俺、いいの持ってるけど」


 短子は懐から大福を取り出す。

 あんこのつぶらな瞳が、キラキラと輝き出す。

 

 「食べる?」

 「食べるう!」


 あんこは食べるのに夢中になる。大福の皮を剥がしてあんこだけを食べようとするが、佐助に嗜められて渋々皮も食べる。


 「お前いいやつだな! 気に入った!」


 あっという間に気を許したあんこに「こいつあんこくれるやつなら誰でもいいのか……」と呆れる佐助。


 「ていうかさ、ちょっと思ったんだけど」


 短子が佐助の肩を抱き、顔を近づける。


 「さっきの状況って、俺らが初めて出会った時とまったく同じじゃね?」

 「思い出したくもないことを思い出させやがって……」

 「さっきのって……包丁持った女の人に追いかけられてたのが、っすか!?」


 七男が信じられない目で短子を見る。


 佐助は、短子との最悪の初対面を思い出す——。

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