材料があれば誰でもできる!簡単魔道具の作り方
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あんこは頑なに小春と一緒に寝たいと言ったが、それでは都合が悪いので統一郎が別の部屋に寝かせた。
統一郎は小春の部屋の前で正座して、襖に耳をつけて全神経を襖の向こうに集中させる。
小春の寝息を確認すると統一郎はそっと襖を開けて、小春の部屋に侵入する。
枕元に立ち、すやすやと心地よさげに寝ている小春を見下ろしたまま、数分間静止する。
幸福を実感しているような、自分の手の中に落ちた獲物をためつすがめつ眺めているような、そんな恍惚とした表情を浮かべている。
統一郎はしゃがみ込むと、部屋に侵入者がいるなどと考えてもいない小春の頬に、長い指を伸ばした。
指の腹で彼女の肌艶を堪能する。
橋の上で触った時よりも、良い肌触りになっている。
この調子でさらに美しくなっていけばいい。
私のそばで、ずっと——。
統一郎は小春の髪の毛を一房手に取ると、それに頬擦りした。目を閉じてため息を吐きながら、五感を尖らせて彼女を堪能する。
そして、その一房の中から二本を選んでプチッと抜き取った。
今夜もいただきます。ゆっくりおやすみなさい。良い夢が見れるといいですね。
統一郎は心の中でそう語りかけながら、自分の部屋に戻っていった。
五年前の永爽家襲撃の際、屋敷に保管してあったいわば『あやかし感知機』とでも言うべき便利アイテムを、統一郎が大量に押収したということは前にも述べた。
この感知機はどのように作られるのか。
それは、永爽家の人間の体の一部を使うのだ。
懐中時計のような形状のそれは、時計の代わりに透明な石が嵌め込まれている。
この石は特別でも何でもない。
実際に統一郎が今はめようとしている石も、河原で拾ってきた石だ。
しかし、この何の変哲もない石に永爽家の肉体の一部をねじ込むと様変わりする。
たちまち石が光り出したかと思うと、薄汚れた色が綺麗な透明になるのだ。
たったこれだけの作業で、近くにいるあやかしを自動で感知する便利アイテムの完成である。
永爽家の人間は、今は小春しかいなくなってしまったから、これを作るには小春の髪の毛が必須である。
消耗品なので、長く使えないのが欠点だ。
永爽家から強奪してきた分も、二年で使い果たしてしまった。
「失礼します」
仕事の件で話したいことがあったので、佐助は作業中の統一郎の部屋に入る。
「またそれを作っていたのですか」
「お前が今日使っていた物は寿命が来てしまっただろう」
だから新たに一つ作っていたのだ、と説明する統一郎。
「四軒目の未亡人ですが、ある男から買ったと言っています。顔は笠を目深に被っていたのでわからなかったと。向こうから話しかけてきたと語っています」
取り調べの結果、未亡人は洗いざらい打ち明けてくれた。
拷問を用いる羽目にならなくて良かった——佐助は安堵した。
未亡人の証言は全て口から出まかせの真っ赤な嘘だった。話に出てきた巨大な男など存在しなかった。夫を殺したのは妻に他ならない。
『奥さん困ってるんだろ? こんな妙薬があるんだけど、買っちゃくれないかねえ』
売人はそう話しかけてきた。薬の効能を説明されると、四軒目の奥さんは買うことを即断した。
薬が入っていた瓶は押収した。何やら角の生えた生き物が描かれたラベルが巻いてある、独特な入れ物だった。
「名前も顔もわからない、か——厳しいな」
当一郎は、翌日の朝イチで町奉行所に報告しに行くことを決めた。
これは奉行所の者も調査に苦戦するのではないか、と内心で思いながら。
「うちに調査依頼が流れてくるかもしれませんね」
統一郎の考えていることを察した佐助が言う。
「本当にそんな奴がいるとしたら、早急にやめさせなくてはいけないな。妙なものを売りおって」
「まったくです」
「これ以上厄介ごとが起こらないでほしいものだ」
統一郎が凝った肩を鳴らす。ただそれだけなのにひどく妖艶だ。
女に生まれていれば傾国の美女になれただろう。
「いつになれば、指名手配中の殺人鬼を全員捕まえられるのだろうな」
小春の髪の毛を一本指で摘み、憂いを含んだ瞳で眺める統一郎。
人を殺したあやかし——殺人鬼は、全員が全員お縄にかけられて処刑されるわけではない。
奉行所や魔性討伐軍の目をかいくぐって、生き延びている殺人鬼が何人もいる。
捕まっていない殺人鬼には指名手配書が作成され、奉行所の前や町中に貼り出されているが、もう何年も目撃情報の一つもない殺人鬼も多い。
指名手配中の殺人鬼を全て見つけることができた暁には——。
「私の結婚の日はいつになるのだろうな。あまり遅くなっては彼女も困るだろう」
統一郎は、指名手配中の全殺人鬼を討伐した暁には、小春と結婚しようと決めている。
「佐助。私は近い将来、小春さんを妻に迎える」
「はい」
「しかし、彼女の意思を無視して無理やり手篭めにするのは絶対にダメだ」
そんなことしても、彼女の"心"は手に入らない。体だけ手に入れても意味がない。
「だから、彼女に私を好きになってもらう。私こそが彼女を幸せにできるのだとそう信じてもらうために、入念な下準備をしてきた。……そして、下準備期間はもう明けた」
一点の曇りもない目で、佐助を見る統一郎。
——小春さんの心に私という存在を最も良く印象づける。そのための5年間だ。
佐助は、竹林の中で聞いた言葉を思い出す。
好いた女の心を手に入れるため。
統一郎の思い描く未来のために、小春は孤独で誰とも関わらない狭い世界での生活を強いられた。
5年間も。
「佐助、私はお前に妬いている」
統一郎がそう切り出してきて、佐助は自分なんかに妬かれる価値があるのかと疑問に思う。
「小春さんのことを、私よりも先に呼び捨てにしているのだから」
「失礼しました。以後呼び方を改めます」
「構わない。小春さんの希望なのだからしょうがない」
統一郎は、彼女を「小春」と呼び捨てにするタイミングを、ちゃんと決めているのだ。
「呼び捨ては結婚後。そう決心したからな。それまでは"小春さん"呼びで我慢だ」
今から夫婦になった時のことを想像して、恍惚とした表情を浮かべる。
そして、指先でつまんでいた小春の髪の毛を口に入れた。
彼の喉仏が動くのを眺めながら、佐助は何も知らずに安らかに眠っている小春のことを思った。
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