聞き込み調査
話を佐助たちの聞き込み調査の方に戻す。
一軒目では、ろくな情報が得られなかった。
犯人の姿は見ていない。朝、目が覚めると台所が荒らされていて、食料が少量持ち去られていた。
一軒目は、奥さんが話を聞かせてくれた。
「量は大したことないんだけどね……。そうそう。楽しみに取っていた大福が食べられて、息子がすごく落ち込んでしまいましたよ」
「食料の他に取られたものは?」
「そりゃあね。タンスに入れておいたお金がいくらか取られましたよ。でも、被害が私のへそくり程度で済んだのは不幸中の幸いってもんですよ。旦那にへそくりの件がバレて、一発雷を落とされましたけどね」
「それは災難だったっすね……」
七男が同情すると、若奥さんは「でしょでしょ!」と勢いづく。
「へそくり程度なんなのさ! 大体旦那はケチくさいんだよ。新婚の時は気前よかったのに、この頃すっかりケツの穴の小さい男になっちまって——」
「ご協力ありがとうございます! 失礼しました!」
長くなりそうなので、佐助は七男の腕をガシッと掴み、津波でも迫っているかのように高速で後ろに下がりながら、退出していった。
二軒目の家でも似たようなものだった。朝起きたら現金と食い物が盗まれていて、深夜に泥棒が入ったのだと理解した。
「犯人がどんな感じだったかなんて俺が教えてほしいよ」
肩を落とす二軒目の旦那に「必ず犯人を捕まえて罰を下します」と言うと、少し溜飲を下げてくれた。
三軒目の主人は、あと一歩で犯人を捕まえられたはずなのだと悔しがっていた。
「そこら中を引っ掻き回すような物音に目が覚めちまったんだよ。泥棒だ! ってピンときて、蝋燭も持たずに忍び足で物音がする方へ近づいていったんだ。よし捕まえるぞ! って部屋の前まで来た俺は思いっきり襖を開いて言ってやったわけ」
誰だ!
ってな。
「だが、部屋の中には人影なんかねえじゃんかよ。確かにさっきまで物音がしてたのに。賊なんかとっ捕まえられなかった。俺はただ単に猫を怖がらせただけだよ」
「猫?」
「家内が可愛がってる猫だよ。うちの家内は野良猫に餌をやるのが大好きなんだ。近頃は家の中にまで入ってくるから困る。その晩も勝手に家の中に入ってたらしく、廊下が泥まみれになってたよ」
困っちまう、と肩をすくめる主人。
「俺が大声を上げた瞬間、薄暗い中で風のような素早さで毛玉が横切るのが見えたんだ。ああ怖がらせちまった、可哀想だなってその時は思ったけど、廊下を泥んこまみれにされて、可哀想だなんて気持ちは消えたよ」
ちなみに部屋の中は、しっちゃかめっちゃかだった。
「箪笥にたくさん着物を入れてたんだ。うちの家内はおしゃれ好きだからよ。それがそこら中にとっ散らかって、もう足元が色とりどりよ。結構高価なやつもあったからな、俺が泥棒なら確かに夢中になって物色するわな」
しかし、着物は取られなかったという。
「俺に邪魔されて、何も取れないで退散したんだな。いい気味だ。四軒目は人も殺されてんだろ? さっさと泥棒を捕まえてくれよ、兄ちゃん」
「それはもちろん。必ずや捕獲してみせます」
「うんうん。頑張ってくれよ。俺も家内の説得を頑張るからさ。猫をもう家の中に上げんじゃねえ、って——」
「猫がなんです?」
聞こえてきた声に、この家の主人がギクリと振り返る。
「お前……奥にいたはずじゃ、」
「あなたの声、大きいのよ。聞き捨てならないことが聞こえたので参上いたしました」
奥方は猫を抱っこしていた。生粋の猫好きらしい。
「私の生きがいを取り上げるつもり?」
「いや……でも家の中も汚れるし……」
「あの晩の泥は、この子のせいじゃないって言ってるでしょう」
「猫じゃないなら何の仕業だって言うんだ」
「泥棒のせいでしょ」
「完全に動物の足跡だったぞ。無茶苦茶言うんじゃない」
「とにかくこの子のせいじゃありませんから。言いがかりはよしてちょうだい」
プイッと顔を背けて、ぶつくさ言う妻。
「この子には必ず汚れを落としてから家に入るように徹底させているんですよ。絶対この子のせいじゃありませんから——」
旦那の愚痴が本人の目の前で始まり、旦那がムッとした顔になる。
痴話喧嘩に巻き込まれてなるものかと、佐助たちは退散した。
四軒目——殺人があった家を訪ねる時、二人の気分は重たくなった。
夫を殺された妻——今は未亡人の女性は、青白い顔でやって来た佐助たちに挨拶した。
お悔やみ申し上げてから、佐助は本題に入る。
事件の日のことを語らせるのは心苦しいが、致し方ない。
自然と佐助の眉間に皺が寄った。
何とか話を聞き終え、丁重に礼を言って退散しようとした時。
「必ず犯人を捕まえてください。お願いします、隊員さん」
震える手で佐助と七男を拝み倒してきたので、二人は息を詰まらせた。
「安心してください」
佐助は自分なりに精一杯の笑みを浮かべる。
「俺たち魔性討伐軍は全ての殺人鬼を滅ぼします」
「はい! 旦那さんを殺した犯人も絶対捕まえるっす! 大船に乗ったつもりで待っていてください!」
七男の目は潤んでいた。感情がすぐに顔に現れる奴だ。
「副長! 絶対に犯人を捕まえましょう!」
家を出た後で、七男が拳を握りしめて息巻く。背後で燃え上がる炎が見えるようだ。
かと思えば、急に萎れた子犬のようにしゅんと肩を落とす。
「でも全然犯人の目星がつかないっす……」
「七男。お前は、今回の事件の犯人はどのような姿をしていると思う?」
佐助の問いに、今しがた未亡人から聞いた話を思い返す七男。
佐助もその話を聞いていたはずなのに、なぜそんなわかりきった質問をするのか。七男は首を傾げた。
「三軒目と四軒目は、家の人が犯人の姿を目撃したな。あれで犯人の正体がわかった」
「は、はい? 三軒目?」
言い間違いを予想する七男だが、佐助は何も訂正しない。
「ちょっと待ってください。犯人の姿を見たのは確か四軒目の人だけのはずです! 夫が刺されたのを見て悲鳴を上げたっていう奥さん……」
凄惨な現場を想像してしまったのか、顔を青くする七男。
「四軒目の奥さんが言うことには、犯人は天井に頭がつきそうなほどの大男らしいっすけど……顔は暗くてよく見えなかったって言ってましたね」
「三軒目の若旦那の証言を思い出せ」
「三軒目? 犯人のことなんて言ってなかったっすよ。物音に気づいた旦那さんが急いで駆けつけたけど、すでに犯人は逃げてて姿は見れなかったじゃないですか。他には旦那さんの大声にびっくりして遊びに来ていた野良猫が逃げちゃったことくらいしか、喋ってなかったっすよ。関係ないじゃないですか、そんなこと」
「それが大いに関係あるんだ」
「えっ、猫ちゃんがビックリしちゃったことが?」
「猫じゃなくて狸だ。アレは」
三軒目の旦那は大声を上げた時に、しっちゃかめっちゃかに散らかった着物の山から毛玉が転がり出たのを見て、ああまた野良猫が家の中に入り込んでいたのだと思ったのだ。
「三軒目の奥さんは、やってくる猫には必ず泥などの汚れを落としてから家に入るように徹底させていたそうだ。だから、床を泥まみれにしたのは猫じゃなくて別の生き物だ」
「別の生き物……あっ!」
「気づいたか」
「犯人は化け狸だって言うんですか」
人間や無機物にさえ、自由自在に何にでも化けるあやかし——いわば化けのエキスパートである狸。
佐助は、犯人は狸だと予想していた。
「びっくりして化けの皮が剥がれたんだろう」
「確かに狸なら、大男に化けることもできますけど——」
「俺が疑った理由はそこなんだよ」
佐助の言葉に耳を傾ける七男。
「そんなにデカい男がこの辺をうろうろしてたら目立たないはずがない。俺ですらしょっちゅう『うわっ、あいつデカッ!』みたいな目で見られるからな」
「確かにそうっすね……」
185センチある佐助よりも頭ひとつ分低い七男が羨ましそうな目で佐助を見ると、急に爪先立ちで歩き始めた。
「変な歩き方するな。身長伸びなくなるぞ」
「そうなんすか!?」
「いやわからんが」
「副長がそう言うならやめるっす! 説得力がありますからね!」
元の歩き方に戻った七男は、
「犯人が狸説は俺も賛成ですけど、狸ってどう探すんです? 副長、狸が棲んでそうな場所詳しいんすか?」
「詳しくない。だからおびき出す」
佐助は懐から懐中時計のような物を取り出した。しかし、はまっているのは時計でなく透明な石だ。
「なんですかそれ?」
「そうか、新入りだから知らないんだったな。これは永爽家という退魔の一族の力がこもった品だ」
五年前の永爽家襲撃の際、屋敷に保管してあったのを統一郎が大量に押収した物である。
「使用期限があるから、定期的に作らないといけないけどな」
「消耗品なんですね」
「あやかしを感知できる物だ。あやかしが近くにいると赤く光る」
"近く"を具体的に表すと、500メートル圏内にいるあやかしはこの感知機に引っかかる。
「近づけば近づくほど光が強くなる仕組みだ。これを使えば化けているあやかしも見破れるだろう」
「おお〜! こんな便利な物があるなら楽勝で見つけ出せますね!」
目を輝かせる純粋な部下に、この便利なものの製造法に隠された不気味な事情を思い、無性に後ろめたい気分になる佐助。
「では捜索といきましょー!」
七男の威勢の良い声を皮切りに、殺人鬼捜索が始まった。
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