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【完結保証】のけものの幸せな結婚  作者: 絶対完結させるマン


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15/32

仕事開始

 翌朝。佐助が目覚めると、統一郎はすでに仕事に出かけていた。


 「おはようございます、佐助さん」


 笑顔の小春が挨拶してくる。顔色の良さに佐助はホッとする。


 「お仕事頑張ってください」


 出がけに小春が玄関まで飛んできてそう言ってきたので、佐助は気後れする。


 「俺にそういうことはしなくていいです」


 ぶっきらぼうな言い方になってしまった。


 どうして俺はあの人と違って、こんな無愛想な言い方しかできないのだろうと悔やむが、極力俺に関わらない方が彼女にとっては幸せなのかもしれない。


 だとしたら訂正する必要もない——そう思った佐助だが、小春のしゅんとした様子が目に入り、罪悪感に早々にギブアップする。


 「あー……その。見送りとかそういう夫婦みたいなことを、あなたがする必要はないというか……」

 「ふ、夫婦!?」


 しまった。弁解しようとしたらさらに失言を重ねてしまった。


 何をやっているんだ俺は。彼女もなんて返せばいいのかわからず、困っているじゃないか。


 というか照れてる姿可愛いな。顔真っ赤で見えない汗を飛ばして。視線をキョロキョロさせて。


 クソ、顔が熱い。


 「危険な仕事じゃないですか!」

 「は?」


 小春がしどろもどろになりながら説明する。


 「佐助さんの仕事は危険なものも多いでしょう? 殺人鬼と死闘を繰り広げることもありますよね。だから、万が一の時のために絶対後悔しないように、挨拶はちゃんとしておきたいんです!」


 確かに朝出ていって、夜無事に帰って来れるかなんて保証できない仕事だ。


 まあ、クソみたいな殺人鬼に簡単にやられるつもりはないが。


 「だから言える時は、毎日『いってらっしゃい』って言いたいんです。無事に帰って来れますようにという祈りも込めて。大切に、噛み締めるように。絶対に後悔したくないから……」


 小春が胸の前でキュッと手を繋ぐ。


 皆殺しにされた家族のことを思い出しているのだと、佐助は思い当たった。


 いつものように家に帰ると、家族の皆は変わり果てていた。小春は一人東雲家の暗い蔵の中で、家族と最後にした会話を思い出していたのだろうか。


 こんなことなら、あの日もっと皆と話しておくべきだったと、そんな後悔に苛まれ続けていたのかもしれない。五年間ずっと後悔に苦しめられていたのではないか。


 「佐助さんには迷惑かもしれませんが……」

 「迷惑なんかじゃない」


 佐助はそう言う外なかった。


 「あなたがそうしたいなら。……正直俺も、挨拶と共に送り出してもらえるのは嬉しいです」

 「そうですか。良かった……!」


 胸をふわふわした何かでくすぐられるような、こそばゆいにもほどがある気持ちに襲われる佐助。


 「それでは……いってらっしゃい、佐助さん」


 わずかに小首を傾けて、照れたように笑う小春。


 「……いってきます」

 「ふふっ」


 小春は同居人と挨拶が交わせるという、ただそれだけのことが嬉しくて仕方ないと言うように笑う。


 「"おかえりなさい"も言わせてくださいね」


 ***


 「副長、今日機嫌いいっすね! なんか良いことあったんですか?」


 部下の七男と並んで歩きながら、町内の様子に目を光らせている時。ふいに七男がそんなことを言ってきた。


 「機嫌がいい? なんでそう思った」

 「なんか雰囲気がホワホワしてるっす! 朝ごはん、好きなおかずだったんすか?」


 「嬉しいことがあったなら何よりっす!」と七男が鼻歌混じりに歩く。こいつはいつでもご機嫌だ。


 「そんなにわかりやすかったか……?」

 「え? なんすか?」

 「いや……なんでもない」


 こいつは何も考えていないように見えて聡いところがあるな……。


 佐助はいつも通りの仏頂面でいたつもりなのに、柄にもなく心が浮き立っていたのをこの部下に見抜かれてしまった。


 七男には大勢の兄弟姉妹がいる。その影響か、身近な人間のちょっとした変化に気づきやすいのかもな——佐助はそう思った。


 他中(たなか)七男は、一ヶ月ほど前に入隊したばかりの新米隊員だ。素直で元気なところが取り柄で佐助よりも年下の14歳だ。


 ちなみに七男という名前の由来は、七番目に生まれた男子だかららしい。安直すぎる名付けだ。


 「お前はいつも元気はつらつとしているな」

 「はい! 元気なのが唯一の取り柄なんで!」

 「それは結構だが、もう少し気を引き締めろ。殺人鬼を探しているんだぞ、俺たちは」

 「はい! 気を引き締めるっす!」


 背筋をピンッと伸ばす七男。


 なぜ変顔をしているのかと思ったら、七男なりにキリッとした顔を作っているつもりらしい。


 佐助は、今回の統一郎に振られたこの案件は新人教育が主な目的だな、と気づいていた。


 本来なら、佐助一人で余裕で解決できる案件だ。


 新入りを補助役につけることで、仕事の流れを覚えさせるつもりなのだ。


 ここで、魔性討伐軍の基本の仕事内容をざっくり説明する。


 まず江戸に住む民から通報を受ける。


 殺人鬼が出たとか、こんな不思議なことがあったんだけど殺人鬼の仕業じゃないか、とか。指名手配されている殺人鬼を見かけたんだけど、とか。


 通報内容は大体そんな感じである。


 通報を受けたらその内容を調査する。調査の結果、なんてことない勘違いだったというパターンもままある。その場合は報告書一枚作成して仕事は終わりだ。


 しかし、殺人鬼が関与しているとしたら。


 その場合、調査結果を隊員から局長へ。局長から町奉行所に報告がなされた後、奉行所から殺人鬼の討伐命令が出される。そこで隊員たちは殺人鬼討伐に向けて動き出せる——というわけだ。


 今、佐助たちは調査の段階にいる。


 「この辺りだ」


 一歩前を歩いていた佐助が足を止める。


 「この辺り一帯の商家の四軒が窃盗被害に遭っている」


 佐助たちが足を踏み入れた一帯は、そこそこ豊かな商家が軒を連ねていてなかなか賑やかだ。


 「貧しい家に盗みに入ってもろくなものは得られないからな。金を持っていそうな家から狙っているらしい」


 泥棒に入られた四軒の外観を確認した佐助は、そうつぶやく。


 「じゃあ、あの家を張っていたら泥棒殺人鬼を捕まえられるかも……! 行きましょう副長!」

 「待てバカ」

 「おっとっと——なんで止めるんすか!?」


 五番目に立派な外観をした家に向かおうとする七男の肩を掴んだ佐助。


 「泥棒が入ったのは、いずれの家も日が暮れてからだろうが。真っ昼間に隊服を着た俺たちが張ってても現れるわけないだろ」

 「そっか! それもそうっすね……」


 七男が、黒地に『魔性討伐軍』とバッチリ金色の文字が入っている羽織をしゅんと見下ろす。


 「じゃあどうするんですか?」

 「まずは聞き込みからだ」


 佐助たちは、一軒目の被害者宅に入った。


 ここで江戸の民たちの服装や髪型について、注釈を挟んでおく。


 『江戸時代といえば男の髪型はちょんまげでしょ?』と思うだろうが、この世界の江戸の民たちはわりと自由な髪型をしていた。


 まず男だが、ちょんまげに結っているのは侍だけだ。


 侍とは他家に仕えている者の名称である。


 武器を持って戦うことを生業にしている者全般は武士と呼ばれる。佐助たち魔性討伐軍の隊員たちは武士の括りに入る。


 魔性討伐軍は侍とは認められていない。故に隊員たちは思い思いの髪型をしている。


 女たちも自由な髪型をしているが、現代でいうショートヘアみたいに短く切っている者は稀だ。


 一般的に長い髪型が喜ばれる傾向にある。この国の者たちが短い髪の女の魅力に気づくには、しばし時間がかかるようである。


 このように男女共に好き勝手な髪型をして楽しんでいるが、流石に染めている者はいない。髪色が派手な者を見かけたら、それはあやかしで決まりだ。

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