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【完結保証】のけものの幸せな結婚  作者: 絶対完結させるマン


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永爽家襲撃

 永爽家の人間は、すぐに例の計画が発覚してしまったのだと理解して応戦してきた。降伏という選択を取った者は一人もおらず、全員隊員たちを殺すつもりで向かってきた。


 抵抗するようなら殺せと、奉行所にはそう命じられていた。


 永爽家は殺人鬼と通じていた。指名手配されている殺人鬼を匿い、罪を隠蔽したりもしていた。そうして凶悪なあやかしに恩を売って懐柔した。


 国家転覆という目的のために。


 永爽家は殺人鬼軍団を作り、江戸中に解き放って市民を恐慌に陥れるつもりだった。さらにその混乱に乗じて、天皇を拉致する計画だった。


 自分たち一族を江戸の最高権力者にするために。


 その恐ろしき計画をいち早く察知して未然に防いだのが、統一郎だった。


 永爽家を怪しいとふんで、独自に調査していた統一郎は、決定的な証拠を集めてきた。


 奉行所に報告した統一郎は、永爽家の人間は魔性討伐軍が必ず捕縛します、と請け負った。


 魔性の者を操る永爽家は、どんな戦い方をするか未知数だ。奉行所は簡単に統一郎に永爽家襲撃を許可した。


 当時、発足したばかりの魔性討伐軍は、知名度も信頼度もゼロに近かった。よくわからない集団が死んだところで、奉行所には痛くも痒くもない。そんな集団が事件を片付けてくれるなら、都合が良かった。


 永爽家の人間を皆殺しにしてクーデターを未然に防いでから、魔性討伐軍は奉行所に活動を認められるようになった。江戸の治安を守る公的な組織として、市民にも信頼されていった。


 永爽家で繰り広げられた悪夢を、佐助は今でも鮮明に思い出せる。


 そこで初めて目の当たりにして実感した、統一郎の強さと恐ろしさも。


 統一郎は、永爽家の当主が放った全長15メートルほどの大蛇の体を一瞬で30等分ほどに切り落とすと、術者である当主の首を流れるような動作でスパッと切り捨てた。


 それが開戦の本格的な合図だった。


 永爽家側は理性を失い、一気に統一郎に殺人鬼たちをけしかけた。慌てて隊員たちが助けに行こうとするも、統一郎は手を上げて「大丈夫」というようなポーズをとった。


 天井に頭がつきそうなほど大柄の鬼、容易く人間を吹き飛ばす天狗、統一郎を丸呑みできそうな人虎——それら全てが一斉に統一郎に飛びかかった。


 次の瞬間、地震のような衝撃が屋敷を揺らした。


 バラバラに散らばった殺人鬼たちの死体と、その真ん中で夥しい量の返り血を浴びた統一郎を見て、佐助は一瞬何が起こったのかわからなかった。


 早すぎた。急勾配の坂から物が転がり落ちるように、一瞬で全てが終わった。目に見えないほど素早い動きは、統一郎一人だけがまったく違う速度の世界に生きているように感じた。


 「まだやりますか?」


 統一郎が呆気に取られている永爽家の面々に訊ねる。余裕たっぷりといった感じで。


 「クソッ! よくも父上を!」


 一番年長の男が自ら刀を大きく振りかぶり、統一郎の頭をかち割ろうとした。


 「おっと」


 刀身は統一郎によって片手で受け止められた。真剣ではなくて木の枝でも前にしているかのような落ち着きっぷりに、永爽家長男は変な汗が湧いてくる。


 バキッと音を立てて、刀身がへし折られた。


 「落ち着いてください」


 主君の戯れを嗜めるような口調で、統一郎は優美な笑みすら浮かべて言う。


 いくら雨風にさらされてもびくともしない大樹のごとき余裕綽々ぶりに、長男は化け物を前にしたような戦慄と不安に襲われた。


 この男は殺さなければならない。


 そんな使命感にも似た直感に撃ち抜かれる。


 「うわああああ!!!」


 八割ほどなくなった刃で、それでもなお刺そうとする長男。


 統一郎がため息をつく。


 「残念です」


 二つ目の首が広間に転がった。


 長男を殺された激情で、家族が次々に襲いかかってくる。


 赤く染まっていく襖、首と胴体で埋め尽くされる床、数が減っていくにも関わらず、大きくなる悲鳴の声と濃くなる恐怖の色。


 死にかけの蝿を薙ぎ払っていくように次々と容易に屠っていく統一郎。彼を前に永爽家の者はわざと火に入って死んでいく虫のように、愚かでか弱い存在に見えた。


 佐助たち隊員は、初めて目にする統一郎の強さに、瞬きすらも忘れて棒立ちで見入っていた。


 5分もしないうちに全てが終わっていた。隊員たちは少しも役に立たなかった。


 全て統一郎一人が解決した。


 佐助は今日死ぬ覚悟をしていただけに、拍子抜けだった。


 「お前たち。聞け」


 統一郎が魂を抜かれたようになっている隊員たちに呼びかけた。


 「今からこの者たちの死体を解体する」


 床に転がった無数の死体をさして、統一郎はそう言った。


 「この者たちは江戸に殺人鬼を放って、江戸を地獄に変えようとした。虐殺と略奪の末に最高権力者として君臨しようとしたのだ。もう二度とこのような企みを持つ者が現れないように、後世に見せしめとして残す必要がある」


 そこで、と続ける。


 「この者たちには、完膚なきまでに惨い死に様を曝してもらわなければならない。まずは両親の生首を門柱に飾れ。その次に全員の体を細かく切り刻み、内臓を引きずり出して、柱や天井などあらゆる箇所に投げつけろ」


 残酷な指示にたじろぐ隊員たちに「これは必要なことなのだ」と統一郎。


 「お上に逆らうとどんな目に遭うか知らしめるためだ。人間にだけではない。今も身を隠してのうのうと生きている殺人鬼たちにも意識させるのだ。おかしなことをすると、我ら魔性討伐軍が黙ってないぞと」


 その言葉に、殺人鬼に家族を殺された多くの隊員がハッとする。


 「いつまでも殺人鬼共の好きにはさせない。必ず私たちがお前らを見つけ出して根絶やしにしてやる。これは宣戦布告だ。お前たちの家族や大切な人たちを殺して、今もなおどこかで快適な生活を送っているあいつらに、お前たちの存在を教えてやれ。怯えさせてやれ。『あの日殺し損ねた俺たちは、強大な力を手に入れて生きているぞ。貴様らを殺せるくらい強くなって貴様らを虎視眈々と狙っているぞ』と」


 統一郎の演説は、隊員たちの復讐心に火をつけた。言葉の一つ一つが着火剤となり士気を一気に高めた。


 隊員たちは、永爽家の地獄絵をさらに凄まじいものに描き変えていった。


 当時の魔性討伐軍といえば、発足し立てで人数は今の半分もおらず『軍』と名づけるのもおこがましい存在だった。


 当時は殺人鬼への復讐心で入隊してきた隊員しかおらず、殺人鬼と懇意にするばかりかその存在を利用して殺戮を企てた永爽家を切り刻むことに、何の躊躇も覚えない者が多数だった。


 すでに死した人間をさらに残虐に誂えることに躊躇する隊員に、他の隊員が叱責した。


 「局長は俺たちが殺人を行わなくて済むように、全て自分で殺したんだぞ。局長が俺たちを差し置いて一番の汚れ仕事をやり遂げたんだ。これくらいの作業楽々とこなさなければ、俺たちのために穢れを背負ってくれた局長に申し訳が立たない」


 この一件で、隊員たちの統一郎への敬愛はさらに強まった。

 

 この永爽家襲撃事件。表向きは殺人鬼の仕業と発表されたけれど、統一郎の目論見通り、あやかしの社会には伝わった。


 あやかしによる事件は目に見えて減った。その影響で市民からも応援されるようになった。


 多くの殺人鬼にとって、魔性討伐軍は天敵と言える存在となった。

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