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月食再生  作者: L3vGimm
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黒鋼チーム

やあ、みんな!今回の章では、鎌倉での激しい遭遇から1週間が経ち、落ち着き始めた天下学園てんかがくえんでの日常に戻ります。蓮と旧友たちが昼食を共にする中で、特にキラは目撃した出来事から立ち直れず、不安が残っている様子が描かれます。


そして、世界一強い神霊級戦士・斎天明宏との重要な面談では、蓮の家族との関わりについて衝撃的な事実が明かされます。一方、学園随一の強さを誇る「黒鋼チーム」が、渋谷で教官同行なしの初任務に挑む姿も初めて詳しく紹介されます。一日が終わりに近づく頃、蓮は特別な人を偲ぶために準備を進めており、戦いに明け暮れる世界でも、大切な絆は決して色褪せないことを思い出させてくれます。

仮面の男が突然現れ、悠人、アヤ、コウキが仲間に戻ってきてから、ちょうど一週間が経過した。神霊学園での生活は徐々に元通りになり、恐怖と不安の尖った刃が、授業や訓練、友人たちと分かち合う笑いといった見慣れた日常へと柔らかく変わっていた。


カフェテリアは生徒たちの昼食で賑わい、焼き肉や炊き立てのご飯、甘いあんみつの香りが空気に満ちていた。大きな窓辺、桜の中庭を望むいつものテーブルに、古くからの友だち・晴人、美奈、アイコが寄り添っているのが見えた。私が近づくと、三人の顔が明るくなった。


「おー、調子はどうだ?」

声をかけると、晴人の隣の空席に座り込んだ。木製の椅子が体重できしんだ音は、この穏やかな日常を感じさせるものだった。


晴人は唐揚げが半分残ったトレイを私に押し出し、濃い茶色の目が心配そうに寄り目になった。

「蓮、食わないのか? 朝からずっとヘトヘトじゃないか。」


「ああ、先ほどアヤカと達也と食べたんだ。第一時限前に構内カフェで朝ご飯を食ったよ。」

後ろにもたれかかると、晴人が片目を吊り上げてからかうような笑いを浮かべた。


「なるほど、俺たちという本物の友達を、オレたちのかっこいいチームメイトたちに置き換えちまったんだな? なるほどな。」


「違うって!」

手を振って抗議すると、笑いがこぼれた。

「食べながら先週の件について話してたんだ。みんなが大丈夫か確認したかったんだ。」


アイコが前に身体を乗り出し、いつものように優しい琥珀色の目に心配がにじんでいた。薄ピンクの髪の毛を耳にかける仕草は、子供の頃からの癖だった。

「三人とも心配したわ。鎌倉でトラブルに巻き込まれたって聞いた時、最悪なことに…そう思ってしまって。水月教官が一緒だったから本当に良かったわ。まだ病院にいるけど、あと一週間ほどで退院するって聞いたわよ。」


美奈は頷きながら天ぷらをよく噛んでから話した。口に食べ物が入っていても、普段通りの品格を保っていた。

「でも、赤峯教官も全然悪くないわよ。厳しいけど、水月先生と同じくらい生徒のことを気にかけてくれるの。昨日は授業が終わっても残って、バリア術の練習を手伝ってくれたの。」


「食べ終わってから話せよ、食べながら話すな」

晴人は優しく注意したが、その言葉には皮肉はなかった。彼はいつもグループのリーダー格で、頼まれもしないがありがたい守り神のような存在だった。


「俺たちは本当に大丈夫だ。アヤカも達也もすごく強くて、オレも戦闘能力では上位10人に入ってるんだ。十分に対処できたよ」

少し話を止め、カフェテリアの片隅に一人で座り、トレイを見つめたまま動かないキラの姿に視線を落とした。

「でも心配なのはキラだな。ミユが目の前で死んだのを見てしまって…一週間経ったけど、全然立ち直ってないと思う。」


晴人の表情が真剣になった。

「うん…話しかけてみたけど、すぐ心を閉ざしちまう。見てるのが辛いよ。」


しばらく沈黙が続いた後、晴人は声を落として聞いてきた。

「ねえ…どんな感じだった? 獣魔じゅうまを間近で見るって。前に話したけど…どうしても想像がつかないんだ。」


胸になじみのある締め付けを感じた。焼けた土の匂い、肉が引き裂かれる音、骨の奥まで染みついた冷たい恐怖。その光景を何度も思い出すたびに襲ってくる感覚だ。

「前に話しただろ。もう二度と話したくないんだ。」


美奈がテーブル越しに私の腕に温かい手を置いた。

「晴人、やめなさいよ。あんな恐ろしい記憶を蘇らせるだけじゃないでしょう。」


「大丈夫だよ」

薄っぺらい笑顔を作って言ったが、嘘だと自分でも分かっていた。目を閉じるたびに、仮面の男が闇の中で煌めかせる銀色の瞳が浮かぶ。お前は誰だ? 何百回と思った。そしてオレに何を望んでいる?


帰寮した翌朝、達也、アヤカ、オレは夜明け前に起きていた。三人は息が合っていて、味噌汁とおにぎりで朝食を済ませ、交代でシャワーを浴び、銀のラインが入った紺色の学園制服を着た。カッコリとした生地の感触は、どんなことがあっても生活は続くことを思い出させるものだった。


寮を出ると、まだ薄明かりの空がピンクと金色に染まる瞬間だった。入り口で待っていたのは、鏡のように磨かれた黒い高級車だった。運転席のドアにもたれかかっていたのはシュンで、黒い髪を風格良く束ね、灰色のジャケットに黒のジーンズという普段着だった。


「こっちだ!」

静かな朝の空気に声が響いた。

「まさに8時だ。約束は必ず守るってのが俺の流儀だぞ、知ってるだろ?」


「おはようございます、シュンさん」

アヤカは丁寧にお辞儀をした。私も同じように挨拶して手を振ったが、達也はただ一度だけ頷くだけだった。普段から寡黙で物静かだが、無愛想な表情の下には、誰にも負けない強い忠誠心と実力があることを知っていた。


助手席に座ると、アヤカと達也は後部座席に腰を下ろした。車は音も立てずに寮を発ち、並木道を滑るように進み、神霊隊本部へ向かった。寮は本部からそう遠くないことは知っていたが、静かな車内から街並みを見ながら、わずか10分の道のりであることに改めて気づいた。


スタッフ専用の側口から建物に入ると、磨かれた大理石の床に足音が響いた。壁には歴代の神霊級戦士の肖像画が並び、人類を獣魔や夜霊よむれいから守るために戦い続けた伝説の名前が刻まれていた。


シュンは廊下の奥にあるエレベーターまで案内した。ボタンはなく、小さなガラス画面が彼の瞳をスキャンした後、ドアが静かに開いた。機械の低い音以外は沈黙が続くエレベーターの中で、表示される数字が訓練場や管理室を通り越し、最上階まで上がっていくのを見て、思わず息を詰めた。


ドアが開くと、一面に龍と鳳凰の精巧な彫刻が施された巨大な木製の扉があった。中央には銀文字で「斎天サイテン 明宏アキヒロ」と刻まれていた。


シュンは一度ノックした後、応答を待たずに扉を開けた。

「あとは任せるよ。終わったら呼んでくれ、送り届けるから」

フォーマルな口調になったシュンは廊下に姿を消し、足音がすぐに遠のいていった。


私たちはこれまでで一番広いオフィスの入り口に立った。部屋は控えめな備え付けで、巨大な黒檀の机と、古びた革製の書物が並ぶ本棚、そして街全体を一望できるフロアースルーの窓だけだった。朝陽が差し込み、全てが暖かい金色に包まれていた。


机の向こう側には、その空間を圧倒する存在感の男が座っていた。話し出すと、その声は澄み切った低音で、沈黙を刃のように切り裂いた。


「久しぶりだな…蓮。4年間だったか?」


声が響いた瞬間、部屋の空気が変化し、全ての分子が彼の意思に応えるようになった。胸で心臓が高鳴るのを感じながら、一歩前に出て深々とお辞儀をした。

「本当に長い間です、斎天さん」


「じゃあ、失礼するよ…」

後ろからシュンが静かに言い、扉を閉めて退出した。私たちは机の前にぴんと背筋を伸ばして立ち続けた。部屋には他に椅子がないが、それが当然のように感じられた。斎天明宏は、来客を快適にさせるタイプの男ではないと直感した。


「呼んだ理由は分かっているか?」

彼は椅子に背もたれをかけ、顎の下で指を組んだ。くつろいだような仕草だが、私たちを観察する視線は鋭く、全ての細部を見逃さないようだった。


「鎌倉で起きたことを聞きたいからですか?」

胃の奥が締まるのを抑えながら、声を落ち着かせて聞いた。


「それも一部だが」

視線がアヤカと達也を通り、再び私に戻った。

「でも本当に三人、特にお前を呼んだ理由は、俺が好奇心を持ったからだ」


好奇心。その言葉は嵐雲のように空気に浮かんだ。4年間話していなかった。父と一緒に森の中で暮らし、体内に宿る不思議な力をコントロールする方法を教わっていた頃から、今になって初めて「好奇心を持った」と言われるとは。背中に汗の滴が伝った。


「俺は思うんだ」

穏やかだが芯の強い声で続けた。

「お前は二人ともに全て話したのか?」


アヤカは背筋を正し、脇で握り締めた手が震えているのにも関わらず、顎を高く上げていた。達也は動かずに机の表面を見つめていたが、彼らの信頼が暖かい炎のように伝わってくるのを感じた。

「私の力のことでしたら、はい、もう話しました。全てをかけて信じています」


晴人や美奈、アイコを信じていないわけではない。何より信頼している。だが、クリムゾン神縁しんえんのこと、限界まで追い込まれた時に心の中で話しかけてくる声のことを知ったら、彼らは心配し続けるだろう。私を壊れやすい存在、守るべき対象として見るようになる。これまで一緒に経験してきた全てのことを考えると、特に優しいアイコが抱える心配を増やすようなことはできなかった。


「そうか」

斎天さんの視線がアヤカに移った。

すめらぎさんも久しぶりだな。6年経ったか。あの時助けてもらった恩は今でも忘れていない」


皇一族は国内で最も強力な神縁を持つ家系の一つだったが、アヤカが8歳の時に獣魔に全滅させられ、彼女だけが生き残った話は聞いていた。今になって納得がいった。家の廃墟で隠れている彼女を見つけ、訓練させて力を身につけさせたのは斎天さんだったのだ。そして彼女の星神縁スターライトシンエンを導いたのも彼だった。


視線が達也に移ると、彼はやや前に出た。

「俺は蓮道レンドウ 達也タツヤだ。現在、学園の戦闘能力ランキングで3位であり、神縁は雷です」


斎天さんは低い声で笑い、少し首を振った。

「こんなに堅苦しく話されるのは慣れないな。俺はただの人間だ、神様みたいなものじゃな…い」


「でもあなたは世界一強い神霊級戦士です! 最大限の敬意を持って話さないのは失礼にあたります」

アヤカは真剣な眼差しで抗議した。


「じゃあこうしようか」

斎天さんの唇に小さな微笑みが浮かび、今まで見たことのない温かい表情だった。

「堅苦しく話すのは構わないが、力の差があるだけの友達みたいに、くつろいで話そうじゃないか」


アヤカは驚いて目を見開いた。

「そんなことは絶対にできません、先生!」


「俺にとって三人は特別な存在だ」

視線が再び私に戻った。微笑みは消えたが、心からの温かさが漂っていて拍子抜けだった。

「特にお前だ、蓮」


顔があつくなり、足元を揺らしながら尋ねた。

「なぜですか? 私の力のせいですか?」


「幼い頃はあまり話す機会がなかったな」

声が柔らかく、優しいトーンになった。

「お前の父と俺はただの戦友じゃなかった。心からの兄弟だった。そして彼が『何かあった時は俺の代わりに子供を守ってくれ』と頼んできた。約束をしたんだ。俺にとってお前は家族だ。甥っ子なんだ」


「…本当ですか?」


言葉は重く、予期せぬものだった。父と斎天さんが親しかったことは知っていたが、ここまでの縁があるとは想像もしていなかった。沈黙がしばらく続き、言葉にできない感情が漂っていた。達也の表情も一瞬だけ揺れ、すぐに元の冷静さに戻ったが。


その後、斎天さんは背筋を正し、表情が再び真剣になった。温かさは完全に消えたわけではなく、戦士としての責任の重さが加わっただけだった。


「では…鎌倉で起きたことを話してくれ。全ての詳細を、一つも抜かさずに」


先ほど拓海に話した時のように、辛い部分を省いたり簡略化したりしなかった。広大なオフィスで、斎天さんの静かな視線の前で、初めて心に閉じ込めていた全てを吐き出せるような気がした。神社に到着した瞬間から仮面の男が闇に消えるまで、約1時間かけて話した。獣魔の異常な強さ、悠人が私たちを守るために身を挺したこと、死にそうになった時に覚醒したクリムゾン神縁、そして心の中から話しかけてきた落ち着いた太古の声についても全て話した。


話し終えると、斎天さんはしばらく黙っていた。机に肘をつき、両手を見つめているようすは、世界中の答えがそこにあるかのようだった。そしてゆっくり頷いた。


「ありがとう、蓮。俺を信じて本当のことを話してくれて。一人で抱え込んでいたのは辛かっただろう」


「斎天さん!」

アヤカが突然、決意に満ちた声で話しかけた。一歩前に出ると、瞳に決意の光が宿っていた。

「もしこの件で隊が何らかの行動を取るのであれば、私も戦いに参加できますか? 私の家族が苦しんだように、ミユが苦しんだように、他の誰も苦しまないようにしたいのです」


堅苦しい口調に少し笑ってしまったが、彼女の勇気に心から感心した。達也がそっと肘で彼女を突いた。

「アヤカ、また堅苦しくしすぎだ」


「あ…ごめんなさい」

頬が赤くなり、少し頭を下げた。


「大丈夫だ」

斎天さんは小さく微笑んだ。

「いずれ慣れるだろう。君の質問に対しては、戦うかどうかは全て君たちの自由だ。俺も隊の誰も決めさせない。敵が強いと分かっていても、自分の道を選ぶ権利は誰にでもある。それが本当の戦士のあり方だ。力だけでなく、立ち向かうべき時を知る知恵だ」


「本当にありがとうございます、先生!」

アヤカは深々とお辞儀をし、感謝の気持ちがあふれていた。


「これで用は終わりだ。あとは何か聞きたいことがあるか?」


少し手を挙げた。広い部屋の中で、自分が小さく感じられた。

「私の力をもっと上手にコントロールする方法はありますか? クリムゾン神縁…学園の図書館にある本は全て読んだけど、記載がないんです。まるで存在しないかのように」


斎天さんは考え込んだような表情になった。

「難しい質問だ、正直言って。クリムゾン神縁…俺が戦士として歩んできた年月の中でも、古い文献を調べても、これほど特殊な力が存在するとは初めて聞く。お前は『誰か、あるいは何かが体内に宿り、危険な時に導いてくれる』と言ったな?」


ゆっくり頷いた。

「はい。一度だけ話しかけてきましたが…懐かしい感じがしました。まるで一生懸命知っているような気がしたんです」


「ならば機会があれば話しかけてみろ」

斎天さんは力強く言った。

「神縁は自分の思考や感情と同じように、俺たちの一部だ。時にはその声を聞くことが理解する一番の方法になる。もっと詳しく教えられればいいんだが、これは俺にとっても未知の領域だ」


「本当にありがとうございます、斎天さん」

深くお辞儀をした。


その後、達也が前に出て、額が床につくほど深くお辞儀をした。普段は冷静沈着な彼がここまでするのを見たのは初めてだった。

「失礼です、先生。稗波さんが所属していた組織について、メンバーや計画に関する情報があれば、教えていただけますか」


部屋は一瞬静まり、言葉の重みが空気に満ちた。斎天さんの眼差しが少し柔らかくなり、達也を注意深く観察しながら前かがみになった。


「まあ、こんなに堅苦しくされるのはやっぱり慣れないな」

声に不快感はなかった。

「でも君にとって大事なことだと分かる、達也くん。シュンにメンバーや活動内容に関する全情報をまとめさせるよ」


達也はしばらくお辞儀をし続け、その後立ち上がった。普段は見せない希望の光が瞳ににじんでいた。

「本当にありがとうございます、先生」


斎天さんは手を振って言った。

「でも気をつけろ。あいつらは危険な奴らだ。邪魔な存在は容赦なく排除する。焦って命を落とすな」


「承知いたします、斎天さん。気をつけます」

三人全員の代わりに話した。


「よし。さあ、学園に戻れ。授業は特別な募集生でも待ってはくれない」

小さな微笑みが戻った。

「それと蓮…話したいことがあるか、力に異変を感じたら遠慮するな。すぐ連絡しろ。家族は家族同士で助け合うものだ」


深々とお辞儀をして部屋を出ると、話し合った内容の重みが毛布のように包み込んできた。廊下にはシュンが待っており、何も言わずに車まで案内してくれた。私たちが整理する時間が必要だと感じ取っていたのだろう。


現在、学園のメインホールを歩いていた。斎天さんとの会話が頭から離れない。いつもなら賑やかな廊下だが、今日は訓練棟の入り口付近に生徒たちが大勢集まり、道が完全に塞がっていた。


「颯太くん! 颯太様! アラシさん!」

女子生徒たちの歓声が響いた。眉をひそめながら、なんとか群衆の中を進んだ。


「どけ、どけ!」

少し苛立った男の声がした。生徒たちが道を空けると、三人の姿が現れた。悠然とした佇まいで歩いていた。


「本当に恥ずかしい…」

暖かい茶色の髪に優しい雰囲気の女子生徒が呟いた。頬が少し赤くなり、人目を避けるようだ。動きには自然な優雅さがあり、遠くからでも人を惹きつける優しい性格だと分かった。


「ほら、だから颯太と同じグループになるのは嫌だったんだ」

道を空けさせた男が言った。白い髪が目元にかかり、だらしない格好だが、どこか他に行きたいような様子だった。


「じゃあついてこなければいいだろ、単純な解決策だ」

三人目の生徒が答えた。落ち着いた声で、黒い髪が整然と顔まわりにカットされていた。堂々とした態度から、他の生徒に人気なのも納得だった。


「**黒鋼チーム(チームクロガネ)**か…」

つぶやくと、後ろから声がして驚いた。


「何か言うならそんなに驚かせないでよ」

振り返ると晴人がにやりと笑っていた。


「ごめんごめん」

手を挙げて謝ると、晴人が続けた。

「学園一強いチームだからな。水原教官の担当クラスだ。誰もが話題にしてるよ」


三人が通り過ぎるのを見ていると、中央の黒髪の少年に目が釘付けになった。

アラシ 颯太ソウタ、学園一の実力者でハ級。やっぱり女の子にモテるな。このイケメン野郎が…」

晴人は悪戯っぽく顔をしかめた。


星崎ホシザキ 玲奈レイナは戦闘試験で2位だ」

茶色髪の女子生徒に目をやりながら続けた。

「優しい性格だし、俺のチームに来てくれたらいいのに。でも俺は二匹の馬鹿にまきこまれてるんだ」

目を細めたが、冗談だと分かった。


「そして最後の一人は…?」

今度は群衆に疲れたと愚痴る白髪の少年を見て尋ねた。


桐生キリュウ 真人マサトだ」

晴人の表情が少し真剣になった。

「だらしなく見えるけど試験ではトップクラスで、皇さんも超えてる。それで戦闘能力は4位だ。頭脳はコンピューターより速く、戦闘戦略を数秒で計算できるって言われてる」


黒鋼チームが通り過ぎ、群衆が散り始めると、晴人とは反対方向に次の授業のため歩き始めた。

「黒鋼チームは本当に凄い。将来は次の神霊級戦士になるんだろうな」

晴人は畏敬の念を込めて首を振った。


「あいつらみたいに強くなりたい」

つい言葉が漏れると、晴人が片目を吊り上げた。


「戦闘能力で既に上位10人に入ってるんだぞ? それにチームメイトには戦闘3位の達也と試験2位の皇さんがいる。そんな強い仲間がいるのはラッキーだぞ」

肩を叩いて言った。


「あいつらに出会ってまだ二週間しか経ってないんだ」

アヤカと達也のことを思いながら言った。

「お前はどうだ? アイコと美奈は晴人がいるから楽勝だろ?」


「そりゃあ、俺がチームを支えてるんだよ」

ドラマチックにため息をついたが、微笑みが出ていた。

「ああ、俺はこっちだ。後で会おう」

理科実験室へ続く脇道に曲がり、手を振って去っていった。


「うん、またね」

手を振り返してから、自分の道を進んだ。


一方、黒鋼チームが向かった廊下では、真人が突然足を止めた。頭を少し傾け、誰にも聞こえない音を聞いているようだった。


「あの通り過ぎた奴、なんか鳥肌が立った…あいつは…?」

つぶやくと、普段のだらしない様子が一瞬消え、目が鋭くなっていた。


「どうしたの、桐生?」

様子の変化に気づいた玲奈が尋ねた。もう髪を整え、制服のシワを伸ばして、群衆に囲まれた恥ずかしさを払おうとしていた。


「別にな、ただ好奇心が勝手に働いただけだ」

だらしない表情が戻り、頭の上で腕を伸ばしてストレッチした。


「いつも好奇心が優先させるんだから。他に理由はあるの?」

玲奈は怪しそうな目で彼を見つめた。


「俺のせいじゃないだろ、生まれつき天才なんだから。才能があるんだよ?」

両手を後頭部に組んで再び歩き始めた。


「天才かもしれないけど、態度は直さないとね。頭を殴ってあげようか?」

冗談半分に拳を上げたが、瞳には本気さがにじんでいた。


「知ってるか、人の頭を殴るとさらに頭が良くなるっていうのは事実だぞ?」

にやりと笑いながら横によけた。


「着いたぞ」

颯太が言って立ち止まると、重厚な金属製の扉が目の前にあった。教員室だ。扉を押し開けると、三人は中に入り、静かな室内に足音が響いた。


水原教官の机に向かって歩み寄ると、彼女は山積みの書類を整理していた。三人が近づくと、温かい微笑みを浮かべて顔を上げた。

「おはよう、黒鋼チーム。今日呼んだ理由は任務を与えるからだ」


「また任務か! 最高だ!」

真人は興奮して机の端に手をついた。


「うるさい、教官はまだ話してるんだから」

玲奈はそっと彼の肋を肘で突いた。


水原教官は笑いながら、白髪混じりの髪を耳にかけた。

「さて、任務は渋谷でのものだ。出現している夜霊はD+級だ。今回は前回のように私は同行しない。午後12時30分にはここを出発しろ。出発前に昼食は済ませておくこと」

一枚の紙を取り出し、パトロールエリアや注意すべき点などをまとめて説明した。


「でも先生、授業を休んでも本当に大丈夫ですか?」

玲奈は心配そうに眉をひそめた。戦闘能力が高くても、彼女はいつも勉強に精いっていた。


「心配しなくていい。学園から許可が出ている。担任の先生たちには全員連絡済みだ。詳しい場所は後で端末に送るから」

水原教官は安心させるように言い、三人に小型の夜霊探知機を渡した。この機械は夜霊の存在と強さによって色が変わる。


「ありがとうございます」

三人は一斉にお辞儀をし、部屋を出た。


扉を閉めて廊下に立つと、真人は興奮で足踏みをしていた。

「なんてワクワクするんだ。教官がいなくて全部自分たちで決められるじゃないか!」


「さあ、廊下に立ち止まって道を塞いでるわけじゃないでしょう」

玲奈はもうエレベーターの方へ歩き始めた。颯太は何も言わずにポケットに手を入れ、まっすぐ前を見つめながらついていった。


「ちょっと待てよ! まだ気合いを入れてる最中だぞ!」

真人は叫びながら追いかけた。


一方、私のいる廊下では、アヤカが中庭を望む窓辺で友達のグループと話しているのが見えた。近づいて話そうとしたが、彼女たちが楽しそうに笑いながら話しているのを見て、やめることにした。最近は達也と私と訓練する時間が多かったから、他の友達と話すのもいいことだと思った。


次の授業のため席に向かおうとした時、名前を呼ばれた。

「蓮!」

振り返るとアヤカが手を振っていた。応える前に、何か小さな黒いものが飛んできた。反射的に右手を上げてキャッチした。


「これは…?」

手の平に乗っていたのは、少し使い古されたがまだ綺麗なガラケーだった。父が長年持っていたのと同じものだ。あまり使わなかったけど、すぐに認識できた。


「大事に使ってね」

アヤカは小さく手を振り、再び友達のグループに戻った。しばらくその場に立ってガラケーを見つめ、ポケットに入れて席に向かった。


しかし座る前に、教室の奥の窓辺に達也が立っているのに気づいた。頭を下げて左手を見つめており、指先には小さな稲妻の火花が踊っていた。他の生徒は気づかないくらい小さな光だった。


静かに近づいた。驚かせたくなかった。

「やあ、達也…?」


「ああ、蓮か…?」

慌てて顔を上げると、稲妻の火花はすぐに消え、手を拳にした。


「これの使い方を教えてくれるか? 初めてだから」

ポケットからガラケーを取り出して差し出した。


「アヤカが渡したんだな。彼女がスマホに変える前に使ってたやつだ」

達也はガラケーを受け取って手の中で回しながら言った。ボタンをいくつか押すと、画面が柔らかい緑色に光った。

「後で教えるよ…午後の訓練の後だ。慣れれば難しくない」


「分かった」

ガラケーを受け取ってポケットにしまうと、自分で開けられるか試そうとした。知らないことが多すぎて恥ずかしくなった。父と一緒に森の中で育ち、街や技術から遠く離れていたから、学園に入って数ヶ月経っても分からないことがまだたくさんある。


もし他の生徒にバレたらどうしよう。あれは神縁学園に斎天明宏がスカウトしてきた蓮・カゼナギだぞ。今時ガラケーも使えないなんてびっくりだ。そんな言葉が頭の中でぐるぐる回り、達也に教えてもらう前に自分で分かろうと画面を見つめた。


正午になると、黒鋼チームは渋谷の静かな通りに立っていた。人通りが少なく高層ビルが並ぶエリアだったが、周囲は活気に満ちていた。学園の車で来て、運転手にお礼を言った玲奈が振り返ると、車は去っていき、三人は歩道に残された。


「ここは広くないな、つまらない」

真人は頭の上で腕を伸ばしながら周囲を見回した。二つのオフィスビルに挟まれた細い路地で、壁際にはゴミ箱や段積みにされたクレートがあった。


「探知機が緑に光ってる」

颯太はポケットから小型の機械を取り出して見せた。画面は鮮やかな緑色で、夜霊が近くにいるが特に強くはないことを示していた。

「じゃあ簡単だろ」

真人は自信満々に指を鳴らした。


「桐生、その生意気さがいつか弱点になるぞ」

玲奈は腰のホルスターから扇子を取り出した。金属製の縁が太陽の光を反射し、星神縁の糸が既に刃の周りを縫っていた。


「生意気じゃない、興奮してるだけだ。ほら星崎、俺の行動にはいつも文句を言うんだよ」

真人は背中に固定された槍を取り出した。暗い黒っぽい金属でできており、持ち上げると静かに鳴り響いた。


「油断するな」

颯太は低くて真剣な声で言った。双剣を抜くと、刃の縁から青い光が薄く広がった。戦闘の準備として、彼の蒼嵐神縁アズールテンペストシンエンが目覚めていた。探知機をポケットにしまい、小さなグループの先頭に立ち、闇や路地の隅々を鋭い目で探っていた。


真人の瞳が突然鮮やかな緑色に変わり、黒心神縁オブシディアンマインドシンエンが活性化して周囲を分析し始めた。視線はあっという間に左右に動き、屋上から地面まで、全ての細部を捉えながら攻撃が来る可能性のある全ての角度を計算していた。彼の能力は敵がいつどこから攻撃するか予測でき、チームに決定的な優位性をもたらしていた。


「右側の建物、一つ目のドア!」

突然叫ぶと、目は路地の奥にある重厚な金属製の扉に釘付けになっていた。


颯太はためらわずに地面を蹴った。驚異的なスピードで跳び上がり、足で扉を蹴り開けた。金属は力に耐え切れず軋みながら曲がり、扉が内側に開くと夜霊が飛び出してきた。爪を伸ばし、口を開けて無言の叫びを上げていた。


夜霊が完全に現れる前に、颯太の双剣は既に動き出していた。横に素早く回転して爪をわずかに避け、剣を一つの流れで下ろした。蒼嵐神縁が剣の縁に鳴り響き、夜霊の身体を紙のように切り裂いた。青い光の火花が路地を照らし、地面に落ちる前に夜霊は黒い霧に崩れた。颯太は静かに息を吐き、表情は冷静で無感情なまま、建物にある次のドアに向かって進んだ。


「左側だ、颯太」

玲奈は落ち着いて的確な声で叫んだ。扇子をもっと広げると、星神縁の糸が目に見えない針金のように外に伸びた。左側の影から二体の夜霊が現れたが、動き出す前に玲奈の糸が命中し、空中で二つに切断した。崩れる身体からは黒い煙の軌跡が残った。


真人は槍を地面にしっかりと突き立て、緑色の瞳は依然として分析的な集中力で周囲を見回していた。屋上の非常階段の影に微妙な動きがあるのを見つけ、夜霊が下に飛び降りる前に動き出した。片足を軸に回転し、槍を大きく上に振り上げると、武器の周りに黒い神縁のバリアが形成された。夜霊がバリアに激突すると、真人は正確な力で前に押し出し、槍を身体に貫通させて霧になるのを見守った。


颯太は幽霊のように静かで致命的な動きで路地を進んだ。屋上の壊れた手すりからもう一体の夜霊が落ちてきて、背中に爪を向けていた。振り返ることなく、颯太は片方の剣を後ろに伸ばし、蒼嵐神縁によって圧縮された風の一筋を作り出して空を切った。斬撃は完璧に命中し、夜霊は彼に触れる前に蒸発した。


玲奈はかかとを軸に回転し、扇子を優雅なパターンで動かしながら、真人の後ろを回ろうとする二体の夜霊に糸を送った。糸は瞬く間に夜霊を包み込み、綺麗に切断した。彼女の全ての動きは計算されており、無駄な所作は一つもなかった。


真人の頭脳はどんな機械よりも速く、夜霊が攻撃パターンを作る前に軌道と攻撃様式を計算していた。脇道から別の夜霊が現れ、体をゆがめながら彼に突き進んできた。真人は槍をしっかりと突き立て、黒い神縁の幾何学的なバリアを前に作り出した。夜霊がバリアに激突すると、真人は鋭く水平に槍を振り、最小限の力で切断した。


颯太の表情は一度も変わらなかった。一つまた一つ夜霊を倒しながら路地を進んでいく。上から攻撃が来ると、慌てる様子もなく空中で体をひねり、神縁が動きを導いた。剣は斜めに空を切り、夜霊を黒い霧の破片にして風に散らした。蒼嵐神縁は静かに鳴り響いたが、派手な演出は一切なかった。ただ冷たく、致命的な精度だけがあった。


チームは完璧な無言の連携で動いた。颯太は前に進んで素早く決定的な一撃で道を開き、玲奈は優雅な糸で周囲の空間を制御して側面からの攻撃を防いだ。真人はグループの要となり、予知能力で全ての攻撃を事前に察知した。全ての回避、防御、攻撃は最小限の細部まで計算され、残酷なほど効果的で効率的だった。


若さに付け込もうと、小さな群れの夜霊が一斉に攻撃を仕掛けてきた。だが黒鋼チームは準備万端だった。颯太の剣はコントロールされた弧を描きながら回転し、一つ一つの動きが異なる夜霊を恐るべき精度で狙った。玲奈の扇子は空を舞い、輝く糸の網を作って敵を同時に捕らえ切断した。真人はわずかに位置を調整し、槍でチームの防御の隙間を夜霊が突く前に塞いだ。路地には神縁の静かな鳴り響きと消え去る夜霊のかすかな音が響いたが、大きな悲鳴や苦しむ声は一切なかった。


ついに最後の夜霊が路地の奥の暗い出入口から飛び出してきた。体をゆがめながら颯太に突き進んでいた。颯太は一瞬ほとんど動かず、それから両剣が手術器具のような精度で動いて胴体を切断した。玲奈の糸が空中で夜霊を包み込み、地面に落ちる前に完全に崩れさせた。真人は颯太の後ろで体をひねり、予防措置として槍を大きく振り、バリアが残っている闇のエネルギーを全て受け止めた。


路地は再び静まり返った。割れた木材やクレートが地面に散乱し、日陰で青と緑の神縁が柔らかく輝いていた。颯太は他の二人より少し前に立ち、剣を腰の横に構えていた。肩は弛緩していたが、目は依然として周囲の全ての隅を探っていた。笑いも安堵の表情も見せなかった。まるで通り過ぎた静かな嵐のようだった。


「緑の光が消えた」

颯太は静かに言った。声は低く単調だった。戦いが単なる日常業務以上のものであることを示す興奮や誇りは一切なかった。


「まあまあだな…桐生、今後は油断するな」

玲奈は扇子を静かに閉じてホルスターに戻した。額から髪の毛をかき上げると、戦闘の激しさにもかかわらず呼吸は安定していた。


真人はかすかににやりとし、槍を下ろして瞳の緑色の輝きを消した。

「俺たちは成長してるけど、まだ学ぶことはたくさんある。今回の任務は試練になったし、何とか合格した…ギリギリだけどな」

頭の上で腕を伸ばしてストレッチすると、普段のだらしない様子がすぐに戻った。


颯太はただ一度だけ頷き、表情は読み取れないまま剣を腰に収めた。完全には集中を解かなかった。次に何が起こるかを既に考えているようだった。


渋谷の路地は再び静かになり、微風が瓦礫の間を吹き抜け、角を曲がれば賑やかな街の音が聞こえてきた。黒鋼チームは有能で致命的であることを証明したが、真の達人への道のりはまだ始まったばかりだと分かった。颯太は振り返って大通りに向かい始め、足取りは着実で意気込んでいた。


「まさか二度目の任務で教官が同行しななんて…」

玲奈は彼の横に並んで歩きながら言った。空の路地を見回し、小さな微笑みが唇に浮かんだ。


「学園は俺たちを全幅の信頼で任せてくれた」

颯太は前を見つめながら言った。今まさに戦ったことは、周囲で普通の生活を送る人々とは全く別の世界で起きたように感じられた。


「さあ仕事は終わった、学園に戻る前に何かデザートでも食べようじゃないか? せっかく渋谷に来てるんだから」

真人は追いかけてきて颯太の肩に腕をまわした。「アラシが払うんだ—俺たちより注目されてるんだから当然だろ」


玲奈は腕を組んでからかうような表情になった。「それはそうだね。いつも注目されてるんだから、払うのは当然だよ」


話している間に、颯太は既に見つけた近くのカフェに向かって歩いていた。カラフルな看板と屋外席がある小さな店だ。振り返って二人を見ると、表情がわずかに柔らかくなっているのが分かった。「調子がいいうちに行こうぞ」


玲奈と真人は驚いた表情を交わしてから笑い出した。「まあ、そんなにツンデレにならなくてもいいんだよ」真人は笑いながら颯太の肩を優しく叩き、外に貼ってあるメニューを見るため先に急いだ。


「二人とも、俺たちはチームだ。こういう計画にも俺を入れろよ」

初めて本当の微笑みが顔に広がった。小さく控えめだったが、心からのものだった。


三人はカフェの前に立ち、他のどんな友達グループと同じように笑いながら話していた。めったに感情を表さない颯太でさえ、真人が熱心に食べるべきデザートの種類を説明しているのを聞いてリラックスして幸せそうに見えた。


午後になり、終業ベルが鳴るとすぐに荷物をまとめて学園を出た。太陽は空に低くかかり、コブルストーンの道に長い影を落としていた。正門に着こうとした時、後ろからなじみの声が呼んできた。


「蓮!」


振り返るとアヤカが駆け寄ってきた。学校のカバンが腰に当たりながら跳ねており、髪はきちんとポニーテールに結われていた。達也は数歩後ろを歩いており、普段通りの無愛想な表情でカバンの肩紐を調整していた。


「どこ行くの?」

アヤカは私の横に立ち止まって息を整えながら尋ねた。


「寮に戻るよ」

達也は簡単に私の方に頷き、反対方向の道に向かって歩き始めた。振り返って小さく手を振ると、言葉もなく角を曲がって姿を消した。いつもの無口な性格だった。


アヤカは私に近づき、いつものように心配そうな琥珀色の瞳で私の顔を見つめた。何か気になることがある時は必ずこの表情をする。

「どこか行くの?」


「ああ、何か買いに行くんだ」

ポケットに手を突っ込んで再び歩き始めた。アヤカはすぐに歩調を合わせ、すぐに詳しく聞こうとしなかった。


「何を買うの?」

しばらくして好奇心が勝って尋ねてきた。


「特別なものじゃない」

前を見つめながら忙しい通りを進みながら言った。「明日、大切な人の墓参りに行くんだ」


言葉が口から出るやいなや、彼女は決意に満ちた声で答えた。

「私も行く!」


「え? 別に付いてくる必要ないだろ」

少し眉をひそめて彼女を見た。「すぐ終わるから、約束するよ。ただちょっとお参りするだけだ」


彼女は首を振り、胸に腕を組んだ。「また一人で行ってトラブルに巻き込まれると分かってるじゃない。前に一人でどこかに行ったら、鎌倉で獣魔に遭遇したでしょ?」


ため息をついた。彼女の言うことは正しいが、それでもこの時間は一人で過ごしたかった。「一週間経ってるんだし、悠人たちも何の行動も取ってない。隊はまだ彼らの活動を調査中だから、すぐに姿を現せないんだ。それに夜霊探知機も持ってるし—君がくれたのを忘れてないよ? それに街中にはヨム・エグゼキューショナーが到処を巡回してる。絶対に安全だ」


アヤカはしばらく黙って、交差点に立っていたり二人組で歩いたりするヨム・エグゼキューショナーの姿を見回した。黒いコートと特徴的なバッジはすぐに分かり、街が監視され守られていることを常に思い出させる存在だった。


「確かにそうだね」

やっと言ったが、まだためらっているのが分かった。「わかった、いいよ。でも何かあったら必ず連絡して。あのガラケーに私の番号は入ってる—達也も自分の番号を入れたんだよ。気をつけてね」


「分かった分かった」

小さく笑いながらポケットに手を入れてガラケーを軽く叩いた。「君って時々お母さんみたいだよ、知ってる?」


彼女はからかうように舌を出してから、表情が暖かいものに変わった。「じゃあね。後で寮で会おう。遅くなりすぎないで—もうすぐ日が暮れるから」


そう言って彼女は寮の方向に振り返り、もう一度手を振ってから人混みの中に消えた。私は彼女が去るのを見送り、イライラと感謝が入り混じった気持ちになった。時々うるさいけど、彼女の心配は本当に私のことを思ってくれているからだ。こんなに面倒を見てくれる人はそう多くない。


街の通りを歩き続けた。人目を引かないように頭を下げていた。学園の制服は目立つから、人々はよく見つめたりつぶやいたりする。神縁学園の生徒は夜霊や獣魔と戦うため訓練されていることは誰もが知っており、一部の人は敬慕の念を抱いて見ているが、他の人は距離を置こうとする。まるで私たちがどこへ行っても危険を運んでいるかのように。


約10分歩いた後、小さな店やカフェが並ぶ細い横丁に曲がった。通りの終わりには目的地のお店があった—「MORNING BLOOMS」と書かれた木製の看板がある居心地の良い花屋だ。窓には色とりどりの花束が飾られており、通りからでも他では見たことのない珍しい品種が見えた。


ドアを開けると、上についているベルが静かに鳴り響いた。店内は暖かく花の甘い香りが満ちており、壁一面に鉢植えや紙で包まれた花束が並んでいた。中にはかすかに光る花もあった—神縁で栽培され、普通より大きく育ったり不可能な色で咲いたりするものだ。明るいピンクの髪の店員が白いユリの花束を仕立てている最中に顔を上げ、微笑んで話しかけてきた。


「いらっしゃいませ! 何かお探しのものがあれば声をかけてくださいね」


「ええと…ヒガンバナはどこに売ってるんですか?」

通路をゆっくり歩きながら様々な花を見て回りながら尋ねた。


店員は奥の隅を指差した。「あそこにありますよ—毒があるので他の花とは別にしてあります。でも本当に美しい花ですよね?」


指さされた隅に行くと、そこには鮮やかな赤色のヒガンバナが並んでいた。繊細な花びらが星のように広がっていた。胸が締め付けられるような感覚に襲われ、誰かの庭でこの花を見た最後の記憶が蘇った。


何年も前、母が裏庭で私の隣にひざまずき、柔らかく優しい声で話しているのを覚えていた。

「これはヒガンバナって言うのよ。育て方は簡単なの。この花は死や別れ、あの世を象徴するんだから、毒もあるのよ」


だから墓参りに持っていこうと思った時、すぐにこの花を思い浮かべたのだ。あまりにも早く別れなければならなかった人を偲ぶのにふさわしい花だと感じた。素手で茎に触れないよう注意しながら小さな花束を選び、レジに持って行って支払った。


「ありがとうございます! またお越しくださいね!」

店員は手袋をしなくても安全なようにデザインされた紙製のスリーブに包んだ花束を渡してくれた。


店を出て通りに戻ると、空を見上げた。太陽はもう沈み始めており、周囲の建物にオレンジ色と金色の光を反射させていた。


花束をカバンにしっかりと入れてから、学園に戻る道を歩き始めた。夕方になり人々が家に帰るため、通りはだんだん静かになってきた。ヨム・エグゼキューショナーたちはコートに付いた小型のライトを点けていた。念のため夜霊探知機を取り出して確認すると—アヤカに言った通り、光ることはなく、近くに危険な存在はいなかった。


空を見上げて思った。明日は7月1日、そうだ、カイトの誕生日だ。

アフターワード


ここまで天下学園編をお読みいただきありがとうございます。


今回の章では、戦いの後の静けさの中で登場人物たちの心情や人間関係が少しずつ深まっていく様子を描きました。斎天さんとの約束、黒鋼チームの成長、そして蓮が心に秘める想い——表面的な戦闘だけでなく、その背後にある「繋がり」の大切さを伝えられたらと思います。


天下学園はただの訓練校ではなく、生徒たちがそれぞれの想いを胸に強くなっていく場所です。次の章では、蓮の墓参りを機に新たな波乱が訪れるとともに、黒鋼チームと蓮たちのチームが思わぬ形で関わることになります。


まだ見ぬ敵の存在、目覚めつつある力、そして過去との因縁——物語はこれからますます加速していきます。どうぞお楽しみに!

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