4 作戦会議 1
クリスは花束をレイチェル嬢に渡し勧められるままソファーに腰を下ろした。
今日の彼女は薄水色のアフタヌーンドレスを着て真珠のネックレスとイヤリングを着けていた。今日も可愛いな!と内心でデレた。
「お花ありがとう。行動が早くてびっくりしたわ」
「君に縁談が来たら困るだろう?急いで父に連絡を取ったんだ。そのドレスとても良く似合っている」
わーこんな恥ずかしいこと初めて言った。多分顔は真っ赤だ。
「ありがとう。貴方もこの前と違った感じで見違えたわ。お庭を案内するわ、行きましょう」
レイチェル嬢は父親に
「ロイド伯爵令息様をお庭に案内しますね」と言った。
男爵家の庭はコスモスやダリア、サルビアに色取りの薔薇がバランス良く植えられた、一見すると自然に植えられているように見える手の込んだ芸術品のような庭園だった。
「本当に私と婚約して良かったのかしら?好きな人とかいなかったの?小さな頃からの初恋を拗らせて自棄になっているとか」
「どんな想像力だよ。いないよ、ずっと人見知りで過ごしてきたんだ。あの時は、その、君があんまり危なっかしいと思ったのでつい声をかけただけなんだ。君こそこんな僕で良いのか?頭はそこそこ良いけど見た目も普通だし、貧乏な伯爵家で文官の給料っていっても君のお小遣いより少ないかもしれないんだよ」
落ち着いてきたクリスは普通に話せるようになった。
「お金は心配しないで、お父様にお願いしておいたから。伯爵家に支援をしてねってね。それにロイド家の領地で黒い石が採れると聞いたわ。リンドバーグ商会から専門の調査員が向かっているはずよ」
「ああ、この頃やけに黒い石が出ようになった山が見つかったんだ。畑にしようと木を切って耕したら、石ばかりごろごろ出てくると報告が上がっていた。今度父と視察に行こうと思っていたところなんだ。君の所の商会からもう行ってくれたの?」
「許可も得ず勝手な事をしてごめんなさい。父は商売の匂いに敏感で、貴方の話をしたら黒い石と結び付けて考えたらしくて専門家を直ぐに向かわせてしまったの。今頃ロイド伯爵にもお話して謝っていると思う」
「素人が石の事を判断するのは難しいと思っていたので、専門家を頼もうと思っていたところだから助かるけど、もしかしたら黒いダイヤかもしれないってこと?」
「可能性は高いと思うわ。それが確実になれば貴方はこの縁談をどうする?リンドバーグ商会は販売を受け持ってロイド家は採掘をするの。事業提携だけでも父にとっては充分旨味があるわ。婚約という形を取れば強固になると考えているとは思うけど」
「まだはっきり決ったわけではないし、君と縁が出来たからそういう可能性が出てきたんだ。この縁談が流れたら君は他の男に嫁がされるんだろう?後妻?修道院?それが嫌で泣いていたんじゃないの?生理的に嫌じゃなければこのまま話は続けさせて。それに発掘するのにもお金はかかるから支援をしてもらえると助かるよ」
「ありがとう、嫌なんて思ってないわ。まだ二回しか会ってないけど私達気が合いそうだもの。契約でも良いから貴方と一緒にいたいわ。困った時に颯爽と現れたヒーローだもの」
クリスはそんなことを言われ手で顔を押さえた。
「そんなこと言って、天然たらし…」
「えっなにか言った?」
「いや、聞こえなかったならいいんだ。僕も君となら気が合いそうだと思う。こんなに話せる人ってあまりいないんだ。商売の手伝いとかは出来ないけど良いのかな?」
「王宮の上級文官になるんでしょう?せっかく受かったのに勿体ないわ。家は兄がいるから大丈夫よ。私は格上の貴族に嫁ぐのが仕事だったし」
「そうか、嫡男だけど爵位だけが取り柄みたいなものだ。何かやってみたい事があれば相談に乗るよ」
「う~ん、急に未来が開けたって感じなのよね。兄様と自分の洋服のデザインを考えたり作ったりはしてたんだけど」
「したいならすれば良いんじゃないかな?結婚したら伯爵家に住むということで良い?古いから覚悟してね。使用人が少ないんだ。通いでも来て貰う人がいた方が良いよね。増やすように言っておこう」
「その前に婚約式と結婚式の日取りも決めないといけないわ。忙しくなりそう」
「申し訳ないけど両方盛大にはやってあげられないよ。何しろお金がないから」
「誤解させてごめんなさい。二度目だからささやかで良いと思ってるわ。契約だしね。後妻ルートから救ってくれた人だもの、それだけで感謝してるの。あの日ね、自分の人生って父親の思うままに決められて、嫌われている人と婚約させられて、挙句の果てに冤罪で破棄されて、なんて不幸なんだろうって思ったら泣けて仕方なかったの」
「うん」
「でもあなたが手を差し伸べてくれて違う未来になった。ありがとう」
「うん」
「奇跡が起きて貴方という契約の婚約者が出来たわ。嬉しくてたまらないの。偽装婚約者様よろしくお願いします」
「うん。お望みなら君の傷が癒えるまで甘い言葉を囁やこうか。あの日言ってたよね。偽りでもいいから甘い言葉が欲しいって。君になら言えそうな気がする」
「ううん、偽りの言葉はいいわ。あの時の救いの言葉はこの契約だもの。あれから人生が開けたんだもの。充分よ」
「役に立てて良かったよ」
「慰謝料はもちろん全部私の口座に入れて貰ったわ。我慢したのは私だからこれからの人生の為に使おうと思ってる。あなたの家には支援金が入るわ。生活を良くする為に使ってね」
「そうか助かるよ。契約で君が前を向けたなら光栄だ」
「話の出来る貴方と会えて良かったわ」
「僕もだよ、話の合う人と会えて良かった」
微笑み合う二人の間を優しい風が花の香りを連れて吹き抜けて行った。
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