将来、私に何が出来ますか?
あなたは勉強ができますか?
なんとも言えません。
中の上くらいなので、頭いい人からしたらバカで、バカな人からしたら頭がいいです。
あなたは運動ができますか?
なんとも言えません。
運動音痴の人からしたらよく動けると思われるでしょうが、よく運動する人からしたら動けないと思われるでしょう。
あなたは家事ができますか?
なんとも言えません。
簡単なことしか出来ないので。
あなたは絵が描けますか?
なんとも言えません。
あまり描かない人からしたら上手いかもしれませんが、よく書く人からしたら下手くそです。
あなたは歌が上手いですか?
なんとも言えません。
音痴な人からしたら上手いかもしれないし、上手い人からしたら音痴です。
では、あなたの得意なことはなんですか?
……一体、なんなのでしょうね。
脳内で繰り返される質問。
私自身が用意した質問。
放課後の教室でただぼんやりと、こっそりと自分自身の手のデッサンをする。
したいことはあるのに、それを将来の夢として語るにはあまりにも下手くそで、それを他の人には見せたくない。
だから、したいことがわからない。
そこにあるのに、わからない。
高校2年生の3学期。
そろそろ進路を決めなければならないのに、ウジウジとただ日々が過ぎていく。
理系、文系、どちらもなんとも言えない。
どちらかが尖ってるわけでもない。
ただ普通より少し上。
絵を描きたい。
絵が上手くなりたい。
画家になりたい、漫画家になりたい。
歌が歌いたい。
歌が上手くなりたい。
歌手になりたい、歌い手になりたい。
どちらも中の上という、レベル。
「上手い」と描かない人から、歌わない人から褒められて。
フォローするような言葉を描く人から、歌う人から褒められて。
素直に上手い人から「上手」だと、その言葉が欲しい。
描いた手のデッサンの紙をぐちゃぐちゃに丸めてゴミ箱に捨て、帰る準備をする。
部活をサボってしまった罪悪感。
もうすぐ締め切りの油絵がまだ終わっていないのに描いていない罪悪感。
まだ一度も、賞には入ったことがない。
帰り道は静かで寒い、そんな暗い道。
自分の足音だけが聞こえてきて、ふとよく「足跡」という単語が自身の胸を突き刺す。
私が歩いている道など、未来が決まっていないのだから、一直線のまま。
そんなに未来というものは大事なのだろうか。
「ただいま」
「おかえり。ほい、弁当もらうよ」
「うん」
いつも応援して、どんな道を歩いてもきっと応援してくれる母。
よく甘やかしてくれるけど、テストになったら厳しくなって、でもわからない勉強はわかるまで教えてくれる父。
時々美味しいおやつを作ったり、買ってきてくれる祖母。
家の中はこんなにも暖かい。
その分、また辛くなる。
自分の心の中が冷えているようで。
母のご飯は温かくて美味しいのに、自分の胸にある棘が味を熱を感じるのを邪魔する。
未来を感じるだけでこんなにも辛い。
こんなに辛いの、高校受験の時だけでよかったのに。
「おはよう!」
「おはよ」
話しかけてくれるクラスメイトは明るくて、でも彼女の家は暗い。
親に、兄に殴られ蹴られという日を送った、そんなクラスメイト。
母と二人で過ごしているみたいだが、不仲だというのが彼女とその友人の会話を聞いていればわかる。
どうして彼女はあんなに明るくいられるのか、不思議でならない。
そして彼女はとても絵が上手い。
絵が上手いことに過去は関係ないと分かってはいるけれど、ネットという世界でよく目立ち、見る存在のほとんどが辛い過去を持っていた。
私にそんなものはない。
だから、共通しているというだけでないはずの繋がりを見てしまう。
「今日はビスマルクが辞任したところから始めます。えーっと、出席番号24番さん、教科書の15行目のところ読んで」
歴史は好き。
人の努力が見えて、人の美しさが見れて、人の愚かさが見えて。
時々、ああ、自分だけじゃないんだという気持ちになる。
なんの共通点もないのに、自分と同じにして申し訳ない気持ちになりながら。
歴史に名が残るぐらいだから、偉大な人たちばかりなのに。
そして、また自分を苦しめる。
そんな偉大な人をノートに書く字が、汚くて。
「あなたの絵はあまりハッキリしてないふわふわとした絵ですよね。賞をとりたいなら、ふわふわしててもいいんだけど、こう所々パキッと決めて欲しいんですよねぇ…あとここ、デッサンがなってないよ。ここはもっと暗くてここ明るく。あと反射光もちゃんと意識して」
「はい…」
賞を取らせたがる先生は、人気がない。
自分の書きたいように描けないから。
でも私に描きたいと思う絵がない。
自分の世界は広いと言えるけれど、それを絵に表すことは出来ない。
どうやって表現したらいいのかわからない、自分が伝えたいことがわからないから。
なんのためにこの学校に来たのか、部活に来たのか、わからない。
絵が描きたくて、上手くなりたくてここにいるのに。
だから正直に先生の言うことを受け止めて描いていくしかない。
少しずつ自分の絵じゃなくなるような感覚に囚われて、自分が何をしたくて描いているのかすら時々わからなくなる。
「〜♪」
「おい下手くそ!〜♪のところもっと上げろよー!」
「〜♪」
「上げすぎ上げすぎw」
「まじ笑うw」
絵も描けて、歌が上手くて、羨ましい。
笑い合える空間に、私は入れない。
上手い人のところで私が歌ったところで場を冷ますだけで、どうせ私は下手な人と一緒でなきゃ綺麗だと褒められない。
あのノリが出来ているのは冗談で音程を下げているだけ。
いつもの彼女の歌声を聴いていればわかるんだ。
1人でのカラオケ。
歌いたい歌を歌って、そして誰かに自分を評価して欲しくて採点をつける。
平均、平均、平均。
相手が機械だからとか、そんなことは聞かせる相手がいないからどうでもいい。
機械にですら上手いと言わせられない私の実力。
でも歌っている時は楽しくて、ずっと歌っていたくて。
機械は感情がないから、何度だって私を評価してくれる。
気を遣わなくていい。
私は、人からのフォローが怖いから。
どうせ私を褒める言葉は本当で、裏では嘘で。
自分のことが好きなのに、裏では嫌いなのと同じ。
他人の感情がわからないから、褒められても褒められてる気にはならない。
自分から見て下手くそな人間からしか、褒められてる気になれなくて。
そう考えてしまって、考えに気づいてしまってからは自分が醜くて。
自分の中で優位をつけてしまうのは仕方のないことだと思っても、綺麗事が好きな私はそれが苦しくて。
心の底からの褒め言葉が欲しい。
ただ、それだけなのに色々考えてしまって静かにベットの中で泣いてしまう。
なんでも上手く出来る人が羨ましい。
何をやったって、褒められるんだから。
でも漫画やアニメではそれが気持ち悪いという人もいる。
高級な悩みで羨ましい。
なにもできない人も羨ましく思う事がある。
それだけ個性が強ければ、いつか誰かが救ってくれそうで。
大きな悩みで、「なんとも言えない」ではないから。
強い個性だと感じて、羨ましい。
出来なければ、これをやりたいという気持ちが強くなるのかなと勝手に考えて、もしそうなのであれば羨ましい。
人によって価値観が違うこともわかってはいて、理解しようとしてもできないことだってある。
どうせその人の価値観が理解できると言う人がいても、それはほんの一部で、その人の価値観を育てる過去をこと細かく知ってはいないのだから。
そう、私自身がやりたいことがはっきりしていないのと同じ。
「3年生になったらすぐ進学か就職か決めるからな。決まってない人はしっかりと考えておくように」
今のままだときっと私はそこら辺の平凡な大学に進学して、そしてまたこの感覚を味わう。
大きく道を歩むとき、未来が決まっていないだけでこんなにも考え込んでしまう。
楽になりたいのなら未来を決めなければならない。
でも、未来ってこんな気持で選んでいいものなのだろうか。
あの子は芸大に。
あの子は音大に。
あの子は就職して、あの子は家を継ぐ。
ほとんどの人が決まって、自分のやりたいことを見つけている。
はぁ、心が痛いわけでもないのに、もやもやが気持ち悪くて、どうしたらいいのかわからない。
「あなたは将来なにしたい?」
「わかんない。ねぇ、ママはどうして銀行員になったの?文系の大学だったんだよね」
「ちょっと道に迷っててね。友達に誘われたからよ。あ、でも結構お金を扱うから怖いのよね。おすすめしないわ。したいなら別だけど」
「パパは?」
「ゲームが好きっていう単純な理由だよ。楽しいを生み出すって、結構やりがいあるぞ。その分苦しかったりするけど」
それでも、二人は仕事を続けていて、家にいるときとても笑顔で、私もいつかそうなりたい。
友だちに誘われて、友達と言っていいのかわからないクラスメイトならいるけど、誘ってきたりはきっとしない。
好きなこと、アニメ鑑賞?それじゃあ、アニメーターになってみる?
私の画力じゃ、褒められた絵にはならず、原作がもし好きな作品なら汚したくない。
それじゃ歌手?
それはいやだったんじゃないか。
上手いといわれても、体の内側から褒められた気にならないから。
それじゃあ、好きな歴史の道に歩んでみる?
私は授業で受けるから歴史が好きなのであって、歴史人物を追ってみたいというほどではない。
知ってしまえば、過去の出来事が鮮明に見えて楽しそうではあるけれど、ドロドロとした物事を見れば見るほど、恐ろしく感じてしまって。
他に私が好きなことってなんだろう?
「そんなに深く悩まなくてもいいのよ。言っちゃ悪いけど、やりたいことやって嫌なことあれば休職したり退職したりして。好きに生きなさい」
「うん…」
「不安?」
「やりたいことがわからないの。あ、いやあるんだけど、仕事にはしたくないっていうか、」
「いくつかオープンキャンパス行ったじゃない。そこから一番気に入ったところでいいのよ」
「えー、」
いいところはもちろんあった。
でも、私が入っていいところじゃない。
もっと、先を見れる人、夢を持っている人が行くべき場所ばかりで、説明を聞いていくうちに、ああ、自分じゃここは耐えられないと思ってしまった。
早く解放されたい、だから行ったのにやっぱり見つけられない。
簡単に決められればいいのに。
「よし、ちょっと甘いもの食べに行こっか!パパ、着替えて!」
「え、俺も行くのか!?」
「あったりまえでしょ。車出して。食べたくない?いちごたっぷりのケーキ」
「ママが食べたいんでしょw」
「おいしい?」
「うん」
「なら、ケーキ屋さんに就職してもいいわね」
「え、なんで?」
「おいしいケーキ、作れるようになりたくない?もちろん学校で勉強してからでもいいけど、ケーキ屋さんで就職して、そして技術を身に着けたあと、自分の店を開く。未来なんてとっても長いのよ。そんな暗い顔せずにさ、将来なんて暗く考えるものじゃないの。明るく考えなさい。何者にもなれるんだから」
「そうだな。まだ17歳。これから何十年もあるんだから、ゆっくり自分のやりたいことを見つければいい。例えば美大に行ったからって必ずしも芸術に関わる仕事につくわけでもない。まぁ、奨学金とかは考えないと行けないけど。自分の人生、好きに考えなさい」
よく聞く言葉。
よく聞く励まし。
それでも、どうしてか欲しかった褒め言葉と似た温かみを感じた。
違う、私は褒め言葉に執着していた。
それはきっと変われないのかもしれないけど、それでも少し解放されたような気がする。
大きないちご。
いちごを食べたいからいちご農家になってもいい。
結局は努力と技術と時間。
私には支えてくれる人がいるから、相談相手がいるから、応援してくれる人がいるから。
未来なんて誰も知らない。
もしかしたら戦争が起きて私の大きな悩みももっと大きな悩みになって、できたこともできなくなって、それでも、今やりたいことをやる。
そんな環境作りが今からでも作れる。
なんだ、本当に簡単なことだった。
将来は大事だけれど、だからといって今を切り捨ててはいけない。
不安で周りと比べる。
別に悪い事じゃない。
もしかすると自分を傷つけるかもしれないし、成長させるかもしれない。
いいじゃないか。
結局は気づければいいのだから。
「先生、私、__」
「うん。わかった。全力でサポートしますね」




