第97話 チーム・ウィクトーリア ③
テーブルには統が持ち帰った餃子・小籠包・酢豚、加えて陽菜が追加したピザ、フライドチキン、ポテトが並ぶ。それと、焼き立てるピーチタルト。
「チーム・ウィクトーリアの集まりに、乾杯!」
統の掛け声で、八人はグラスを掲げた。
「「「「乾杯!!」」」」
「イェーイ!」と姫路とビリーの声が弾け、場の温度が一気に上がる。
ひと段落ついたところで、純一がシングルカウチから声をかけた。
「日野くんは、これからチームの一員になる。順番に自己紹介しよう。まずは日野くんから」
四人掛けのソファには右から姫路、手塚、陽菜、そして一番左に陽太。複数の視線が集まることに慣れていない陽太は、少し肩を竦めながら口を開いた。
「改めまして、日野陽太です。妹と八王子市で暮らしています。シャドマイラの対処に協力したくて、ヤングエイジェントに応募しました。まだ経験は浅いですが、よろしくお願いします」
姫路が目を輝かせ、すぐさま質問する。
「専念するならこれから現場にもよく会うはずよね。日野くんの属性と能力は?」
「超人系。プラズマを放てます」
純一が補足する。
「先日の西八王子に新種ゴラーテルトンは日野くんが倒した」
姫路は思い出したように目線を上に逸らす。
「ああ、私がシベリア出張中の件ね。……一般人の身柄で大型級を倒すなんて、すごいわ。羨ましいくらい」
気っぷの良い声が軽快に響く。
「姫路さんもシャドマイラ対処が中心ですか?」
「それだけじゃないわ。海上に沈没マシンの捜索や土砂災害の救助にも出る。でも、シャドマイラは大型級以上に限定ね」
「小型は?」
「小型はね、こちらの攻撃で被害が拡大する場合があるの。基本は出動対象外ね。それじゃ、次は私ね」
姫路は胸を張った。
「姫路 万璃愛。ネフィリム系の遺伝子を持ってる。《アームズ社》の“ジャイアントウォーリア”計画に所属。私は3号柱――マリアンヌよ」
衝撃に目を丸くする陽太の代わりに、陽菜が声を上げた。
「ええ〜っ?ニュースで見た、あの大型ファイター戦艦を着装する女性巨人が姫路さんなんですか!」
「やっぱり、すぐ分かるわよね」
「万璃愛はチームでも注目度が一番よね」とレイミ。
統もうなずく。
「重用度も高い」
陽太が手を挙げる。
「でも、シャドマイラ対処は本来、防災対策本部の所管では?なぜ科学支援に配属されるんですか?」
「《アームズ社》は元は民間組織だ。政府はUCBD経由で資源と任務実行権限を与えている。彼女の体調管理やマシンの整備は研究所に委ねられているんだね」
床に胡座をかく伊達が低く問う。
「アームズ社、ジャイアントウォーリアとは?」
純一は顔を伊達に振り向いて、続けて説明する。
「アームズ社は地球史の絶滅物種を復活させる事業体。『ジャイアントウォーリア計画』はその一部で、遺伝子操作によって作った巨人、現在七号柱まで進んでいる。万璃愛は三号柱。各柱は世界各地の拠点に配置されている」
「……戦いの宿命を背負っているわけか」
空気が少し重くなる。
万璃愛は照れ笑いを浮かべ、話を転がす。
「あはは、私のことは置いといて。次は統くんでいい?」
「ランダム指名制か?」
「男女順でもいいけど?」
「どちらでも。改めて、斎藤 統。力の制御訓練のため富山から来て、支援センター勤務の姉と同居してる。日野くん、ようこそ、チームへ」
陽菜が身を乗り出す。
「斎藤さんの異能は何ですか?」
「念者のロジックマスターだ。半径百メートルの電子機器を意念で干渉できる」
統が目を閉じて集中すると、隣室から三台のドローンがふわりと舞い込み、リビングを一周して彼の腕に装着された。
「分かりやすいですね。でも、なんでも干渉できる?」
「ああ、送電施設から走行中のマシンまで可能だ。だが混乱を招く恐れがあるから、通常は研究所製のドローンで支援する」
「つまり、制御は精密なんですね」
「サポートチームのおかげだ。……じゃ、次はビリー」
それを見た陽太は自分はこれからどんな形でサポートされるのか、勝手に想像する。
ポテトと焼きそばを頬張っていたビリーが、慌てて飲み込みながら返す。
「俺ッスか?さっき色々話したッスけど」
「でも、異能はまだ言ってない」
「分かりやすく言うと、電流を放てるッス。こんな感じ」
ビリーが右手を開き、指の間に青い火花を走らせる。五本の指先から寄り合った光が一筋のプラズマになり、左手の指先へと細く繋がった。手品のように見えるが、確かな電気の匂いがした。
「なるほど、デンキナマズみたいな力ですね」
「そうッス!雷雨の日は、落ちる稲妻が俺の栄養になるッスよ」
「ビリーさんも超人ですね」
「ザッツ・ライト!次はつばっちゃんの番だ」
視線が銀髪の少年へ集まる。
彼は食べ物に手を付けず、パーティの間もずっと背を向けていた。皆の視線を感じて肩だけをこちらに向け、銀色の瞳でじっと見返す。
「……何で俺を見る」
「青瀬くんの番よ。日野くんたちに自己紹介を」
羽は短く吐き出す。
「青瀬羽。それは研究所や保護者が勝手に付けた名前だ。それで十分だろ」
ふん、と顔をそらす。
「気にしないで。彼はいつもああだから」空気を和ませるようと統が言った。
「分類上は超人だけど、彼は異星人エロヒムと人間のハーフよ」とレイミが補足する。
「異星人は本当にいるんですね!?」
陽太は人間とは違うエネルギーの質感を、改めてはっきりと感じ取っていた。
「次は、伊達くん」
「名は康靖・王・伊達だ。高校卒業後はフリーで関東一帯を中心に回り、退魔・怪人・怪獣などの依頼を受けている。俺は憑装者と奇人、両方の特性を持つ異能者だ」
「二系統持ちは珍しいのですか?」
「一般には最も理解されにくい存在かもしれないね」と沖田が応じる。
「具体的の異能には何ですか?」
「俺の背に刻まれた痣を媒介に、『鬼鋼』という生体鎧を憑装できる。人間でありながら、時には妖怪人間に分類されることもある」
「だから退魔の依頼を受けているんですね」陽菜が応えた。
「でも、伊達さんは退魔師として、同業者に認められないことも多いのでは?」
レイミが気になったことを尋ねると、康靖は分かりきったように厚い肩をすくめ、気楽に答える。
「それは仕方がないことだ。俺の力は地獄の業火を宿して退魔を行う。さらに鎧を憑装した姿が人から誤解されやすい。だから同じ退魔師からも警戒されるんだ」
「伊達さんは、どうしてそんな力を身につけたんですか?」
「俺の母親が地獄界の使者だからだ。人の世と死者の世を行き来し、違法滞在の亡霊を取り締まる存在。欧米で言えば、悪魔や死神に近い立場だな」
康靖は、自分がどう見られているかを隠そうともせず、淡々と、しかしどこか重みを帯びた低い声で語った。
「……地獄って、本当にあるんですか?」
「普通の人間には行けない世界だが、霊体意識なら話は別だ」
「沖田さん、それってUCBDの退魔・除霊部門の所掌ですよね?伊達さんはそちらの依頼を受けているんですか?」
「詳しくは永倉に聞いた方が早いが、伊達くんは時折、シャドマイラの対処にも協力しているよ」
「闇影を生む生き物ですよね?」
「そうだ。現場では被害者や依頼人の弱った心に寄りつくことが多く、退魔対象との戦闘中に割り込んでくることもある」
「沖田さん、UCBDではシャドマイラを妖怪のカテゴリに分類しているんですか?」
「いや、妖怪ではなく怪獣に近い扱いだ。妖怪と違うのは、シャドマイラは生き物としての特性を持つこと。負の感情を持つ生き物を糧にし続けなければ存在そのものが衰弱し、やがて消滅する」




