第96話 チーム・ウィクトーリア ②
「さっき二度押したけど、出てくるのが少し遅かったね」
「ごめんなさい。ちょうどゲームの佳境で、手が離せなくて!」
「おっ、それはいい。もう始めてるのか?」
「こんにちは、沖田隊長!」
エレベーターホールから斎藤 統が現れ、膨らんだマイバッグを提げている。後ろには無表情の青瀬羽が静かに続いていた。
「出かけていたのか?」
「はい、近所の中華に頼んだ料理を取りに行ってました。それと……たまたま羽くんに会ったので」
羽はイベントに興味がないのか、視線を逸らしたままだ。単に受け取りではなく、彼を連れて来たのだと察した純一は、気楽な口調で笑う。
「そうか。これで役者は揃ったな」
一行は斎藤宅へ入り、廊下を通る。ふわりと漂う香りに、陽菜が微笑む。
「食欲をそそる匂い……この酸味、トマト多めのスープかな?」
「君、鼻が利くね。まさか、妹さんも何か能力が?」
「いえ、妹は普通の一般人です」
陽太が先に答え、陽菜が続ける。
「家の食事はほぼ私が担当なんです。まだ修行中ですけど」
「なるほど」
リビングに入ると、私服のドレスにエプロン姿のレイミがお玉を手に振り向いた。
「沖田さん、皆さん、ちょうどいいタイミングです。ミネストローネ、もうすぐできますよ」
「それは楽しみだ」純一が微笑む。
「伊達さんも、お久しぶりです」
「おう。ご無沙汰だな」
「それに驚きの新顔も。青瀬さんに、日野くん。そして……?」
「妹の陽菜です」
陽菜は小さく会釈する。
「チームのパーティへようこそ。遠慮なく楽しんでくださいね」
レイミの髪の中から、指先ほどの光る触手のようなものが二本伸び、統の持つマイバッグの持ち手をくるりと巻き取って受け取った。
「統くん、これは私が預かるね。みんな、先に座ってて」
「助かる」
その手際を見て、陽菜は陽太に寄り添い小耳に挟む小声で囁く。
「あのお姉さん、身体検査のときも会ったの?」
「うん、手塚さん」
「あの光っている触手はすごく便利な力だね」
「僕も、その使い方が初めて見たよ」
テーブルには大鍋のハヤシライス、焼きそば、たこ焼き、豚ぺい焼き、一口サイズのキッシュが並ぶ。ゲームの再開を待っていたビリーは、大勢の到着に気づいて顔を上げた。
「あっ、キャプテン!来たッスね?」
「ビリー、今日はパルクール町を何周走った?」
ビリーは手指でピースを作ってみせる。
「二十周ッス!」
「いい調子だな」
「今日は特に好調ッスよ。それと、陽太っちゃん、陽菜っちゃん。また会えたッスね」
三度目の顔合わせでいきなり名前を呼ばれ、陽太は少し照れくさそうに笑い、陽菜は明るく返した。
「ビリーさん、毎日ああして走ってるんですか?」
「日課ッス。修行みたいなもんッスね」
「分かるなぁ。自己挑戦って気持ちいいですよね」
「陽菜っちゃんもパルクールやるッスか?」
「いえ、昔エアーボードをやってました。大会に出たこともあります」
「それ、めっちゃカッコいいじゃん!空を滑るとか、最高ッスね!」
「ビリー、ゲームは後にして。パーティ始めよう」
「了解ッス」
ビリーは身軽にソファをひと跳びで越え、陽太は思わず目を見張る。
伊達は静かにMPディバイスでジュースとお茶の追加を手配していた。
「お兄ちゃん、皆さんそれぞれ料理を持ち寄ってるね。私たちも配達で何か頼もうよ」
「そうだな……何にしようか」
統が軽く手を上げる。
「無理することはないよ。初参加だし」
「いえ、好意に甘えっぱなしは良くないので。お兄ちゃん、これにしよう」
テーブルに揃った品を見て、陽菜はディバイスに映ったメニューを見て素早く注文を済ませた。




