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第88話 別れる思い、守りたい思い ②

逃げ続ける冴姫さきの行く手を、追ってきたシャドマイラが立ち塞ぐ。

「こ、来ないで! 化け物!」

足を止めた冴姫は、震える胸を押さえ、腹の底から恐怖を吐き出すように声を張り上げた。

「私の肉なんてちっとも美味しくないわよ! それでも攻めてくるなら、痛い目を見せてやるんだから!」

問答無用で一体が鋭い尻尾を突き出す。

冴姫は身を引きながら、鞄を盾にして受け止め、辛うじて弾き返した。

続けざま、もう一体が跳びかかる。

「来ないでって言ったでしょ!」

とっさに鞄を振り抜き、襲いかかった怪物の首を叩き払う。

勢いでよろめいた個体は、後ろにいた仲間にぶつかり、二匹まとめて地面に倒れ込んだ。

冴姫は息を切らしながら、ポケットから炭酸ジュースの缶を取り出す。

「これなら効くはず!」

プルタブを開け、振っておいた炭酸を親指で押さえつつ一気に噴射させる。

白い泡の奔流が弧を描き、怪物の顔面を直撃。

キャオーン!――

悲鳴を上げてのたうち回り、目を抑えるシャドマイラ。

その隙に冴姫は再び走り出した。

しかし、濡れた体を震わせた怪物は怒りに満ちた目で彼女を睨み、遠吠えを放つ。

すると影から新たに二匹が現れ、群れは四体へと増えた。

「数が……増えた!?」

公園のブロック塀に追い込まれた冴姫は、四体に囲まれる。

「ど、どうしたの!? こっちに来なさいよ!」

強がりの叫びに挑発された二体が飛びかかる。

冴姫は身をかがめて横へ転がり、怪物たちは勢い余って壁に激突、コンクリートを砕いた。

しかし残りの二体が低く唸り、追撃を開始する。

倒れた二体は影に溶けて姿を消した。

冴姫は必死に公園の大型遊具、人工の岩山へ駆け込み、縄を掴んで登ろうとする。

だが影から再び二体が現れ、尻尾で彼女を薙ぎ払った。


「うそっ――!」


体力を消耗していた冴姫は抗えず、岩山の壁に叩きつけられ、背中を打って地面に崩れ落ちた。

「わああああ!」


呻きながらも立ち上がれず、座り込む冴姫。

二体の怪物がじりじりと迫る。


(もう逃げられない。)


そのとき、公園に駆けつけた陽太が、彼女を囲むシャドマイラを見て叫んだ。

「豊城先輩!?」


絶望を振り払うように、冴姫は鋭い牙を剥く怪物を睨みつけ、声を張り上げた。

「くっ……私、こんな所で食われたくない! 化け物なんて、消えてしまえ!!」

両手を突き出した瞬間、白い光が弾け、前方に歪んだ空間が生じる。

飛びかかってきた一体の尻尾はその光に突き刺さるも、貫通せず、虚空に弾かれた。

「な、何これ……!?」

さらに別の一体が突進し、光の穴へと飲み込まれた。次の瞬間、その姿は冴姫の前から掻き消える。

予想外の力に冴姫自身も呆然とする。


残った三体は混乱しつつも、なお襲いかかろうとする。


だが力を使った反動で、冴姫の体は脱力に支配されていた。

――もう、抗えない……。


二体の尻尾が同時に突き出された、その刹那。

「危ないっ!」

陽太が飛び込み、両手で二本の尻尾を受け止める。

指先が高熱に染まり、オレンジ色の光を放ちながら怪物の尾を握りしめる。

「お前たち……これ以上、誰も傷つけさせない!」

足腰に力を込め、二体をまとめて投げ飛ばすと、他の仲間にぶつかって倒れ込ませた。


続けざまに両手を組み、野球の投球フォームを取る。左足を挙げて、大きく踏み込みながら、右手に集めたプラズマの球を振りかぶり、渾身の力で放った。

轟音と共に光球が一直線に走り、三体のうち一体を直撃。爆散が公園に閃光を走らせた。

「また分裂か!?」

爆煙の中で分裂し、新たに二体が生み出される。


ブシャッ!――

水の弾丸が一匹の腹を撃ち抜き、地に倒れた。

「この攻撃……井口さん!?」

振り返ると、片手をポケットに突っ込み、指先に六つの水球を浮かべた瀧生が立っていた。

「加勢するぜ、日野!」

「はい!」

「畳みかけるぞ、アクアショット!」

瀧生が指先を弾くと、水球が次々と弾丸のように飛び、ケンファクニードスを穿つ。

陽太と瀧生の共闘で戦況は一気に激化した。


ケンファクニードスが素早く動き、攻撃を躱しながら四方に散開する。

「逃げる気か!?」

瀧生は空気中の水分を一気に集め、掌の周囲にさらに多くの水球を浮かべる。そのまま休む間もなく放ったアクアショットは、鋭い光線のように怪物たちを貫き、一本の脚を穿たれた個体が悲鳴を上げて倒れ込んだ。

同時に陽太もプラズマボールを投げ放ち、別の一体を爆散させる。

しかし、追い詰められた三匹は本能に従い、体を分裂させて十二匹にまで増殖した。

「数が……また増えた!?」


八匹が正面から立ち向かい、残り四匹はじりじりと後方へ退いていく。その動きに気づいた瀧生は顔をしかめた。


「くそっ、囮を残して仲間を逃がすつもりか!一気に叩かねえとキリがねぇ!」

「僕のプラズマジャベリンなら一網打尽にできるかもしれない……でも、周りの民家に被害が出るかも……!」

「考えろ、日野!被害を出さずに倒す方法があるだろ!」


――どうすれば一気に……


陽太が必死に思案しているその時、重装特務隊のマシンが上空に飛来した。


「少年たち、よく持ちこたえたな。こちらから援護する!」

聞き覚えのある女性の声に、陽太は驚いて顔を上げる。

「この声……UCBD(クーリーバ)のあのお姉さん!?」

マシンの武装が火を噴き、四発のミサイルが地面に突き刺さる。即座に干渉波発生装置が展開され、四点を結ぶようにして結界を形成。領域内のケンファクニードスの動きが一斉に鈍った。


キャオォォンッ!――


耳をつんざく悲鳴を上げ、怪物たちは苦しげに身をよじる。そこへ追撃のビームライフルが次々と撃ち込まれ、数体が焼き倒された。

「これで逃げ道を断ったな!」

「よし、この機に一気に仕留めるぞ!」

瀧生は矢継ぎ早にアクアショットを放ち、次々と怪物を撃ち抜く。

陽太もまた地を蹴って飛び出し、一体を拳で殴り飛ばし、さらに二体を立て続けに粉砕。動きの流れを掴みながら、心の中で決意する。


――全部まとめて、一箇所に叩き込む!


瀧生の放つ水弾を避けつつ、陽太は次々とケンファクニードスを殴り飛ばし、十二体すべてを一点に叩きつけた。

僅か三秒の間に、怪物たちは重なり合い、山のように折り重なる。

「今だ!」

陽太は高く跳躍し、右手をかざす。掌に収束したプラズマジャベリンが、轟音と共に地上へと突き刺さる。


「これで一気に終わらせる!!」


閃光が円を描いて走り、爆発が大地を揺らした。

瀧生と特務隊の隊員たちが見たのは、十二体のケンファクニードスが閃光に呑み込まれ、爆炎に飲み込まれる瞬間だった。


やがて陽太は軽やかに着地する。


煙が晴れると、怪物の影は一体も残っていなかった。地面には焼け焦げた窪みが広がり、表面は高熱でガラスの結晶のように変質している。


「こ、これが……奴の決め技……。なんというパワーだ……」

目を丸くする瀧生。


上空のマシンから隊員が報告する。

「副隊長、先ほどの高温反応後、ケンファクニードス十二体の反応が完全に消失しました!」

「……やはり彼ね」

副隊長・赤星瑠衣は大きく目を見開き、胸の高鳴りを抑えながら静かに指示を出す。

「マシンを着陸させなさい。私が降りる」

「了解!」

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