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第87話 別れる思い、守りたい思い ①

学校を後にした陽太は、高台にある公園へと足を運んだ。

ジュースの缶を片手に、西の空に沈みゆく太陽をじっと見上げる。

蝉の鳴き声が響き、南風が頬を撫でていく。陽太にとって、何より心地よいのは、この日差しを全身で浴びるひとときだった。


「久しぶりに太陽をゆっくり観測してなかったな……やっぱり、陽射しを浴びるのは最高だ」


両親の葬儀やその後の慌ただしさで、太陽を見上げる時間すらなかった。

だが、異能を得た今の彼には、肉眼で電波や紫外線の波すらも感じ取れるようになっていた。

その時、ディバイスがメッセージの着信を告げる。相手は陽菜だった。

<陽菜:友達と家で勉強会してるよ。今晩の夕食はハンバーグにする。何時ごろ戻るの?>

<陽太:ハンバーグか!楽しみにしてる。日暮れまで観測してから……18時半過ぎかな。 >

<陽菜:ラジャー!                               > 


「今日はハンバーグか。……帰りにスイーツでも買って帰ろうかな」

小さく呟きながら、ディバイスをポケットにしまう。母を失ってから、家の食事はほとんど陽菜に任せきりだった。

味覚が常人とは違う陽太は調理の最終調整が苦手で、結局ほとんどを陽菜が担っている。だからせめてもの気持ちで、彼はよくお土産を買って帰るのだった。

陽太は再びジュースを一口飲み、夕陽を見つめ続けた。


やがて1時間が過ぎ、空はオレンジから群青へと移り変わっていく。厚い雲がかかり、東の空には夜の気配が広がり始め、星々が瞬き始めていた。

その頃、豊城冴姫は学校からかなり離れたベンチに腰掛けていた。

スーパーで買った炭酸麦茶を次々と開け、2本目を飲み干してはゴミ箱に投げ入れ、すぐさま3本目の缶を開ける。

ごくごくと一気に飲み干し、わざと大きくゲップをする。

そして、溜め込んだ鬱憤を吐き出すように叫んだ。

「お金のばかやろーーー!!」

彼女はノンアルコール炭酸ジュースで酔ったような勢いで、だらしない姿をさらけ出していた。

天文部の夏合宿は屋久島に決定してしまい、変更の余地はない。二年生の夏こそハワイで星を観測したいと夢見ていた冴姫は、諦めざるを得なかった。

「さよならハワイのビーチ……さよならハワイの星空……」

夜空を仰ぐと、尾を引くケノシス彗星がまだ輝いていた。観測に最適な時期はすでに二週間前に過ぎ去り、今はまだかろうじて光を放っているものの、その姿は日に日に小さくなっている。

これから観測できる時間帯は昼間へと移り、強烈な日差しにかき消されて、肉眼で見ることは難しくなるだろう。さらに、彗星の飛行軌道は特殊であり、やがて地球からは太陽系の彼方へ遠ざかってしまう。八月の中旬を過ぎれば――もう二度とその姿を捉えることはできないはずだ。

「さよならケノシス……あたしの17歳の夢も、一緒に連れていってよ!」

悔しさと切なさを胸に、冴姫はただその光に見入っていた。

しかし、夜風がざわめき、木々の闇から影が這い出る。

現れたのは――数日前に逃げた2匹のケンファクニードス。


キャオーン!!キャオーン!!――


獣のような咆哮が夜を裂き、冴姫は振り向いて息を呑む。ニュースで何度も見た“化け物”の姿が、今そこに迫っていた。

「な、何よ……化け物っ?!」

巨体が威圧的に睨みつけ、じりじりと距離を詰めてくる。

恐怖に駆られた冴姫は、とっさに手に持っていたジュース缶を投げつけた。

缶は相手に届かず転がったが、思わぬ行動にシャドマイラは一瞬動きを止める。

その隙に、彼女は残りの缶をポケットに突っ込み、鞄を掴んで必死に走り出した。

「キャオオオーーーン!!」

狼の遠吠えのような咆哮が響き渡り、2匹が彼女を追う。

同じ頃、高台の公園を後にした陽太は、商店街でキャラメルプリンを買って帰るところだった。

その時、ディバイスが警告音を鳴らす。

「シャドマイラ出現!?……どこだ!?」

慌ててアプリを開くと、500メートル先に2体の反応がマークされていた。

しかも同じ場所を往復して動いている。

「……誰かが襲われてる!?」

拳を強く握り、目を鋭くした陽太は走り出す。

――助けなくちゃ。今度こそ、絶対に逃さない!!


一方その頃、1キロ離れた駐機場。

UCBD重装特務隊のマシンが、生物レーダーに反応を捉えていた。

「赤星副隊長!シャドマイラ2体を確認!」

 後の席に座っている瑠衣は気合い入れて言葉を吐く。

「……遂に出てきたか。今度こそ一匹も逃さない。徹底的に叩き潰す!」

「了解!」

エンジンが唸りを上げ、マシンは低空へと浮上する。

重装特務隊は即座に、現場へと急行した。

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