第83話 弔問者、そして追悼式 ②
実瀬は遠くから遺影を見つめ、胸の奥に刺さるような痛みを感じていた。
(シャドマイラの襲撃で、ご両親を同時に失ったなんて……日野くん、どれほど辛かっただろう)
来る途中、日野辰昭の死亡が報じられた記事を読み、実瀬の胸は重く沈んでいた。彼女はゆっくりと、真ん中に続く長い通路を歩いていく。遺影へ、そして陽太のもとへ向かって、長い通路を歩む。
陽太は陽菜に声をかける。
「陽菜、夕方にはまた人が増えると思う。先に夕飯を食べて、夜の法要に備えて休んでおいて」
「うん。後で交代するね」
陽菜が控室に向かったあと、陽太はふと視線を前に向ける。遺影の前で手を合わせる少女、実瀬の姿があった。
――赤星さん……どうしてここに?
驚いたように席を立ち、陽太が声をかける。
「赤星さん……?」
実瀬は小さく手を振って、穏やかに微笑む。
「来ちゃった……突然のことで、つらいと思いますが……どうか、お気持ちを強く持って」
どんな顔を見せるのか分からない陽太は固唾を呑んで言う。
「どうして……来てくれたの?」
「傘を借りたお礼、ちゃんと言えなかったから……ご迷惑じゃなかった?」
「そんなことない……来てくれて、ありがとう。でも、アイドルの活動が忙しかったんじゃ……?」
「お友達の親御さんの葬儀くらい、行くに決まってるでしょ?このあとレッスンがあるけど……」
「そうか……」
「市民会館のホールで来週、追悼会をやるって、受付の貼り紙、見たよ。行きたかったけど、デビューコンサートの準備が忙しくて……」
「その気持ちだけで、十分だよ。今日は、ありがとう」
「これからきっと大変だけど……体だけは大切にね。またね」
陽太は静かに頷いた。温かい笑顔を見せながら実瀬は踵を返し、軽やかな足取りで会場を後にした。
次に弔問に訪れたのは、井口瀧生だった。
制服姿のまま深く一礼し、合掌を終えると、沈痛な面持ちで陽太に近づいてきた。
「日野……ご愁傷様」
「井口さん……」
九十度に頭を下げたまま、瀧生は震える声で続けた。
「こんなことになって……なんか……ごめん!」
その晩、陽太がUCBDに通報すると同時に、瀧生にもメッセージを送っていた。だが彼の家からは25分かかる。彼が到着したのは、UCBDが現場に来てから15分後のことだった。もしここが畳の間だったら、土下座してただろう。
陽太は慌てて手を挙げて止めるように言う。
「やめてください、井口さんのせいじゃありません。お宅はここから離れてたんだ、間に合わなかったのは仕方ないことです」
「でも……仲間なのに……俺、力になれなかった……!」
「現場に居た僕だって異能者なのに、両親を守れなかった。だから他人を責めるつもりなんてない。どうか、顔を上げてください」
瀧生は目を潤ませながら、ゆっくりと顔を上げた。
「なあ、日野……次の追悼式、式場の警備……俺にも協力させてくれ。力になりたいんだ」
胸元に手を添え、自ら申し出る瀧生の姿を前に、陽太はしばらく思案した。
――このまま断れば、瀧生はずっと自責の念に囚われたままだろう。シャドマイラを倒した経験もある。頼れる人だろ――
そう考えた末に、陽太は現在の状況を説明しながら、瀧生の申し出を静かに受け入れた。
「追悼式は“別れ”を悼む場だ。でも……大勢が集まる場所に、またケンファクニードスが現れる可能性もある。UCBDも警備を強化するけど、井口先輩の力、ぜひ貸してください」
「分かった。当日の警備、俺に任せてくれ」
追悼式当日。
陽太と陽菜は制服姿で喪主席に座り、瑤妤はフォーマルなブラウスに身を包んで隣に並んでいた。会場には州内外、さらには海外からも多くの人々が訪れ、3000人以上が参加。メディアも多数取材に訪れていた。
黛璃の古筝コンクールでの演奏記録、辰昭の野球試合での名プレイがスクリーンに流れ、妃緒莉は黒のワンピース姿で、美しくも優しい旋律をピアノで奏でた。
式場の外では、赤星瑠衣率いるUCBD重装特務隊と、井口瀧生が警備に当たっていた。
愛に満ちた穏やかな空気の中、式は荘厳に進行して、ケンファクニードスの姿は最後まで現れなかった。
だが、その同じ日。遥か離れた常陸郡・大洗市で、別のケンファクニードスによる襲撃事件が発生していた。被害に遭ったのは、遠洋漁業に従事する漁師の家庭。
だが幸運にも、その日ココロが「海鮮三昧の旅に行きたい」と駄々をこね、黒川銀士を連れて訪れていたため、事件発生直後に即座に対応。
銀士がビームセイバーで斬り伏せ、ココロがケイ素で作った硬質なブレイド弾で応戦し、襲撃してきた7体のケンファクニードスのうち、5体を撃破。2体は逃走した。
漁師の家族は負傷者こそ出たものの、命に別状はなかった。
事件の発生から数日後、陽太は桐哉コーチから一連の経緯を知らされた。さらに、瑤妤からも詳しい状況や背景についての情報が届けられた。




