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第81話 悔やみ、支え合う絆

翌朝。元プロ野球界の名選手・日野辰昭と、その妻の訃報は、ニュースで大きく報道された。「名将・辰っちゃんが他界」その見出しは、一日だけではあるが世界中に広まり、野球界に衝撃を与えた。

陽太がようやく心を落ち着けて座ることができたのは、事件発生から二日後の夕方だった。

リビングのソファに腰を下ろした陽太の隣には、いつもと違う静けさが漂っていた。

血痕や破片はすでに清掃され、ソファも新しく交換されていた。

冷たい麦茶を二杯、グラスに注いだ瑤妤が、それをローテーブルに置きながら声をかける。


「お疲れさま」


「いえ……瑤妤姉さんこそ。ずっと頼りっぱなしで……研究所の仕事だってあるのに、本当にごめん……」


「遠慮しないで。お姉ちゃんと義兄さんのことだもの。家族なんだから、こういうときは、どんどん頼っていいのよ」


事件直後から数日にわたり、瑤妤は家の片付け、葬儀や法要の準備、そして名将としての追悼会の手配まで奔走してくれた。

陽太と陽菜の代わりに、数多くの連絡と手続きも引き受けていた。


「本当に……ありがとう」

「陽菜ちゃんは?」

「今朝も泣いてたよ。昼に食事を持っていったけど、今はもう寝てると思う」


 瑤妤はふっと柔らかな目線を向けながら、思いやりのこもった声で尋ねた。


「そう……ご飯はちゃんと食べた?」

「うん、全部食べた。……案外、調子は悪くなさそうだよ」

「ふふ。あの子は何があっても、まず食べて元気を取り戻すタイプね。感情は素直に出すけど、立ち直りは早い。たぶん、陽太よりずっとしっかりしてるわよ」


その言葉に、陽太は少し苦笑いを浮かべながらも、どこか切なげに眉を寄せた。


「陽太は……どう?」


しばらく黙っていた陽太が、ぽつりと口を開いた。


「……父さんと母さんを、失ったのは……僕のせいだ」

「どうしてそう思うの?」


まっすぐな瞳で問いかける瑤妤に、陽太は目を逸らすように視線を落とした。

「……もしあの時、父さんの言葉を無視してでも、僕がすぐに助けに行っていたら……全部、間に合ったかもしれない」

「でも、それは辰昭さんの判断だったのでしょう?あなたはそれに従っただけ。陽太のミスなんかじゃない」

陽太はゆっくり首を振り、目に涙が滲む。

言葉は早口になり、声はかすれていた。

「異能者なのに……力があるのに、大切な家族すら守れなかった。僕は……僕は、役立たずだ……」

「違うよ、陽太はちゃんと陽菜を守った。それだけでも、あなたは十分だったじゃない」

「でも……僕はみんなを救いたかった。もしあのとき……!」


陽太が声を荒らげかけたとき、瑤妤が優しく遮った。


「私は、辰昭さんの判断は間違っていなかったと思うわ。当時の状況をシミュレーションで分析してみたけど、すでに複数のケンファクニードスが家屋に侵入していた段階で、狭い室内に君を向かわせていたら、戦闘による火災のリスクが高かった。それに、シャドマイラは“影に潜む”能力を持っている。もし君が一階に降りていたら、逆に二階に隠れていた陽菜ちゃんが襲われていた可能性もある。だからきっと、あれは……冷静に状況を判断した上で、リスクを最小限に抑えるための選択だったのよ」


「そうか……」


「確かに、力を持つ者には責任があるわ。でもね、陽太。責任っていうのは、“できること”を全うすることであって、“できなかったこと”まで背負う必要はないの。あなたは、十分やったのよ」


そのとき、


「バカお兄ちゃん!!」

突然、リビングに陽菜の叫び声が響いた。

陽太が振り向くと、パジャマ姿の陽菜がそこに立っていた。

眉をひそめ、目には涙をいっぱいためている。


「……陽菜……どうして……」

陽菜は真っ直ぐに陽太を見つめ、声を震わせながら言った。


「お兄ちゃんだけの責任なんかじゃない。紅さんが警告してくれたのに、私、黙ってた……父さんと母さんの間に何が起こってるかも分かってなかった。私にも、落ち度があったんだよ」

「陽菜……」

「瑤妤姉さんの言う通り、お兄ちゃんはあの時ちゃんと私を守ってくれた。急にあんな戦いができるようになって……それだけでも、すごいことだよ!だからもう、自分を責めないでよ!」


陽菜は陽太に駆け寄り、思いきりその胸に飛び込んで抱きしめた。

兄の顔を自分の胸に押し当てるようにして、優しく慰めようとする。

柔らかな感触と、ほんのりとした安心の香りが、陽太の喪失感を一瞬、洗い流す。


「……ごめん。陽菜に心配かけてたよね」

「……お兄ちゃん……」


今度は陽太の方から、陽菜をそっと抱きしめ返す。

ふたりは小さな笑みを浮かべながら、それでも未来への不安や痛みを完全には拭えずにいた。だが、確かにそこには、互いを支え合う絆があった。

瑤妤はその様子を静かに見つめながら、心の中でそっと呟いた。


(お姉ちゃん、辰昭兄さん……安心して。二人とも、ちゃんと立ち直ろうとしてる。きっと大丈夫。私が、守っていくね)


姉から託された最後の言葉が、瑤妤の胸に今もはっきりと刻まれていた。

そして彼女は改めて決意した。この兄妹を、最後まで見届けることを。

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