第75話 虎本道場 ⑦
5人は道場近くのホームセンターに併設されたフードコートへと向かった。
6人掛けのテーブルに4人が先に座り、注文を済ませていた。糸世はまだ戻ってきていない。
銀士と心桜は、ハンバーガーにポテト、そしてフライドチキンというカロリー満点な組み合わせを食べている。
陽太の前には、特盛サイズの中華セット。大盛りラーメン、チャーハン、そして餃子がなんと40個。異能の覚醒以降、彼の食欲は明らかに増していた。
陽菜はオムライスにエビフライとコロッケが付いた定食を満足そうに口に運んでいる。
「黒川さんと心桜ちゃんは、東京から来られたんですよね?虎本コーチを知ったきっかけは何だったんですか?」
「……ある改人が引き起こした事件を制圧した後、UCBDの取り調べを受けた。そのとき、少年補導課のエージェントにこの道場を紹介された」
「うちの兄から聞いたんです。お二人は実戦経験が豊富で、いろんな事件に関わってきたって。本当に、悪い人を捕まえたりもしてきたんですか?」
陽菜の素直な質問に、銀士はあくまで事務的に答える。
「必要があれば、義務として協力してきた。ただそれだけだ」
その答えに何かを察した陽菜は、それ以上は詮索せず話題を変えた。
「さっきの射撃、弾が透明に見えたけど、あれって特別な弾丸ですよね?」
「ええ、ケイ素を基に合成したシリコン弾よ」
「えっ!?心桜ちゃん、自分でケイ素を作れるの?」
陽菜の目が輝く。興味は尽きない。
「私のこの体は、父が造った特殊構造で、食べた物を分子レベルまで分解して、そこから必要な元素を合成できるの。今は16種類まで生成可能よ」
「それって……一部の源使いが持つ、元素生成能力に似てる?」
「似ているけど違うわ。私はデータチップがあれば、理論上は何でも作れる。特定の元素に縛られていないの」
「すごい……じゃあ、さっきのシリコン弾はわざと?」
「ええ、道場で使うには最適な素材。威力は抑えられてるけど、用途に合わせて硬さも変えられる。一般人相手には安全に制圧できるし、訓練では十分よ」
「それに、強い力を持つ者ほど、責任と配慮が求められるって父に教えられてるの」
ストローでジュースを啜っていた銀士が静かに口を開く。
「ココロ。初対面の相手に、自分の構造や能力を話すのは危険だろう」
「大丈夫。陽菜さんは、そういう人じゃないって判断したから話したの。それに、私たちにとって一般人は脅威じゃない。逆に巻き込むリスクのほうが心配だけどね」
「……そのリスクがあるからこそ、口を慎むべきだと思うがな」
そんなやりとりを聞きながら、陽菜は話題を切り替えた。
「お兄ちゃん、またそのアプリを見てたね?」
陽太はMPディバイスを操作しながら答える。
「うん。井口先輩からメッセージが来てて……低周波マップのデータをチェックしてるんだ」
「食後でも良かったのに。あの人自分もそのソフト使えるんでしょ?なんでお兄ちゃんが専属オペレーターみたいになってるのよ?」
「少しでも役に立てればと思って。それに、あの事件のことも気になってるし」
「日野君、何か事件を追ってるのか?」
銀士が興味を示す。陽太は画面から目を離し、顔を上げた。
「はい。僕の住んでいるエリアで、連続殺人事件が起きたんです」
心桜が思い出したように頷いた。
「ああ、ニュースでやってた……あの正体不明の事件ね?道場に通い始めてまだ3回目なのに、もうそんなことに首を突っ込んでるの?自信あるのね」
「いえ、僕はただ情報を整理してるだけです。現場に出るつもりは……あまりありません」
その言葉を聞いた銀士は一瞬目を閉じ、考え込む。そしてゆっくりと口を開いた。
「俺たち異能者は、どうしても事件に巻き込まれやすい。ある日突然、身近に火種が現れる。そして、それに立ち向かうしかなくなる。そんな状況は何度もあった。だが……日野くん、お前がそれに関わる理由は何だ?」
「僕たちは、ジャスティスキーパーの先輩に協力して、シャドマイラを追っています」
「シャドマイラ、か……」
陽太の問いに銀士が頷く。
「俺たちの専門ではないが、遭遇すれば即応するしかない。シャドマイラは自然災害に等しい存在だ。突発的に現れ、そして消える。まるで竜巻のように追跡も予測も難しい。シャドマイラの情報なら、俺より紅のほうが詳しいかもしれないな」




