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第71話 虎本道場 ③

顔を赤らめながら陽太は頷く。


「は、はい!ではストレートをもう一度……」


妃緒莉ひおりの存在を気にしてか、陽太はいつもより球の生成に5秒ほど余分に時間がかかった。連続で5球投げるも、1球は下に10センチずれ、他の4球も真ん中の四角には届かず、外枠にしか触れなかった。


「さっきより良くなったけど……どうしても真ん中に当たらないですね」


妃緒莉は記録していたスローモーション映像を見ながら、考え込む。


「陽太くん、もしかして狙いに集中しすぎて、体が硬くなってませんか?」


「え、そうですか……?」


「まるで石膏で固めた指でピアノを叩いているように見えました。感情がこもらない音のように、動きがぎこちないんです。リラックスしないと、体はうまく動きませんよ」


陽太は思わず目を伏せる。


「よく分からないですが……筋肉の柔軟性も、心の状態も、ウォーミングアップ足りないも……もしくは、全部の問題がある気がします」


そこへ、外で見ていた陽菜が声を上げた。


「お兄ちゃんってさ、普通に3,000度まで体温上がるのに、今200度以下に抑えてるでしょ?それって、人間でいえば冷え性みたいなもんじゃない?」


妃緒莉が納得したように頷く。


「なるほど……修行で温度を抑えることが、かえって足枷になってるわけですね」


陽太はさらに悩みを深める。


「でもそれ、どうすればいいんですか?全開で投げたら……裸になりますけど……」


妃緒莉は小さく笑いながらも、まじめに答える。


「その件はあとでお父さんに相談しましょう。でも狙いのズレは前よりずっと良くなってます。他にも何か見せたい技、ありますか?」


「はい、カーブも習得しました」


次の投球で、陽太の球は左下の枠に命中した。ストライクゾーンの中でも判定が分かれそうなギリギリのコースで、狙いは真ん中だっただけに、大きなズレが明らかだった。


「つまり、これはスピードよりスピン重視で投げたカーブですね?回転させたのはダメージ範囲をより拡大させるですね?」


「はい」


「昔、うちの父がカーブの投げ方を人に教えていたとき、「スピンをよりかけるには、人差し指を立てるようにして持つといい」って言ってました」


「それって、どんな握り方ですか?」


妃緒莉は実際にボールを取り出し、細い指でボールを包み込むように持ち、人差し指の先を立てるようにして見せた。


「こうやって持つんです」


「なるほど……僕もやってみます」


 陽太は妃緒莉からボールを受け取り、自らの手でその持ち方を確認する。辰昭から投球の指導を受けていた時も、こうして何度も実球で感覚を掴んでいた。そうして学んだ感覚を、彼はプラズマボールに応用してきた。


試しにその握りで実球を投げると、ボールは美しい軌道を描いて飛び、陽太は驚きの表情を浮かべた。


「すごい……カーブの軌道がさらに大きくなってる!」

その様子を見た妃緒莉は、遠くへ投げ落ちたボールを注目し、エネルギーを集めて、空中を漂わせながら陽太の手元へと戻した。


 彼女の能力で5球分を回収し、陽太はそれを基にプラズマボールで試してみる。修正した手指の形でエネルギーを練り、プラズマボールを形成。左足を上げ、しなやかに踏み込んで、高く腕を振り下ろす。


――ドン!


放たれた球が、的のど真ん中に命中した。


「やった……ど真ん中に当たった!」


続けてもう2球を投げたが、いずれも正確に中心を捉えた。


「また当たった?」


陽太の投球が明らかに安定してきたことを確認した妃緒莉は、柔らかな笑みを浮かべて頷いた。


「投球の軌道が安定してきましたね。速度や威力を少し抑えれば、さらに命中率は上がるかもしれません。もう少し練習してみてください。私は別の生徒を見てきますね」


「はい、ご指導ありがとうございました、妃緒莉さん」


妃緒莉は軽く会釈をして去っていった。


その後ろ姿を見送りながら、陽菜が茶化すように話しかけてきた。


「お兄ちゃん、さっきの妃緒莉お姉さんの前、すっごく緊張してたよね?」


「べ、別に……そんなことないよ」


「言い訳しなくてもわかるってば。顔よりも胸とかお尻ばっかり見てたよね? あんな綺麗な人の近くにいたら、そりゃ目が泳ぐよね〜」


アイドルの赤星実瀬との出会い、そして再び現れた優しく美しい妃緒莉――。陽菜には、兄が他の女性に心を奪われているようで、どこか寂しさを感じていた。


陽太は慌てて首を横に振る。


「ち、違うよ!僕は妃緒莉さんを尊敬してるし、変な気持ちなんて持ってないよ。ただ、ジャージ姿が新鮮で驚いただけ……」


「ふ〜ん?でもね、女子の首から下を何度もじっと見つめるって、それなりに好意がないと、どん引き逃げるわよ?」


「いや……だから……あ、そうだ!あと15分ぐらい使えるし、練習の続きしてくるよ!」


話題を変えようとそそくさと投球位置に戻っていく陽太の後ろ姿を見て、陽菜は軽く首を振り、呆れたように笑った。


「まったく……異能者になっても、中身はただのオス。考えることは何も変わってないよね、エロバカのお兄ちゃん」


その一言に、陽太は苦笑いを浮かべた。


――僕、今獣扱いされたよね……


そう思いつつ、再び投球を始めた。

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