第60話 輝き朝、謎の事件 ①
2週間後、朝。
食卓には、鮭の塩焼き、甘い出汁巻き卵、きんぴら漬け、三種の煮物、色とりどりのサラダが並んでいた。
リビングのテレビはつけっぱなしで、ニュースを淡々と伝えている。
制服姿の陽菜はすでに席について、ディバイスをいじっていた。
キッチンでは黛璃が料理の続きをしている。制服を着た陽太が食卓にやってきて、席に腰を下ろした。
「お母さん、おはよう!」
「昨日はちゃんと寝られたの?」
陽太は苦笑いを浮かべて返す。
「頑張って寝ようとはしたけど……結局、3時に目が覚めちゃった。」
「学校に支障が出ないならいいけど、無理しないでね。」
「大丈夫。授業はしっかり集中してるから。」
実際、陽太は学校に満ちる膨大なエネルギーを意識し、それに呑まれないようにするため、教室では倍の集中力で授業に臨み、先生の出題も積極的に解いていた。
その様子を見ながら、陽菜が鞄を持って席に近づき、にこやかに言った。
「お母さん、心配しすぎだよ。お兄ちゃんのスタミナはとんでもないんだから。半日修行した後でも、ぐっすり1時間寝ただけでケロッとしてるし。私にもその力、分けて〜」
「それは出来る訳ないよ?」
それからの2週間、陽太は毎週土曜日、虎元家に通い詰めていた。
主に行っていたのは、集中力の強化訓練と、プラズマエネルギーの制御。
狙い撃ちの精度はまだ安定しないが、両掌に3000度前後の熱を保ちつつ、10秒間で野球ボールほどの大きさのプラズマ球を生成できるようになっていた。しかも、それを20メートル離れた目標に正確に命中させ、すぐにエネルギーが拡散して対象を破壊するという感覚も身についてきた。
さらに威力の高い技として、細長い棒状のエネルギーを放つ【プラズマ・ジャベリン】も使えるようになってきた。
こちらは100メートル先の標的にも届くが、高温と高密度ゆえに扱いが難しく、手振れによる精度のブレが大きな課題だった。
現時点では、安定性と実用性の面で【プラズマ・ボール】のほうが信頼できる。
2週間の継続的な訓練は確実に成果を見せており、時折その様子を見ていた陽菜も素直に感心していた。
「だよね〜でも、ほんと、お兄ちゃんってタフだよ。」
その感想に、陽太は首をかしげた。
「何が?」
「だってさ、徹夜でドラマや映画観まくっても、翌日ケロッとしてるし。寝不足でもクマもできないし。羨ましいよ、そういう体質。」
ただ趣味に没頭する時間を確保したいだけの陽菜の妄想に、陽太は呆れながらも苦笑いを浮かべるのだった。
陽菜の言葉に陽太は苦笑しながら応じる。
「いや、さすがにそれは……」
「そうだ、お兄ちゃん。エアリエルズのデビューMVとインタビュー、もう見た?」
「MVは見たけど、インタビューはまだ……」
「ダメじゃん! ファンならちゃんと応援しなきゃ!」
陽太は気まずそうに右手を後頭部に当て、肩をすくめた。
「うん……だよね……」
「アイドルにとって、最初の一歩って大事なんだから。はい、これ見て。」
陽菜はディバイスを操作し、テレビに映像を転送した。画面にはエアリエルズのデビュー特番が流れ始める。
画面が切り替わり、MVの冒頭。舞台は空に浮かぶ神殿。白い雲が吹き飛ばされ、空に浮かぶ島が神秘的な光を放つ。
イントロの旋律が響くと、神殿から5本のガラスの階段が前方に生成される。そこを歩いて降りてくる5人の少女たち――まるで妖精のような佇まい。
左から順に、今白栞成、浅井柚奈、天木小依、クローディア・豊嶋、そしてセンターには凛と立つ赤星実瀬。
それぞれの階段を降りる姿は、まるで魔法を纏って舞い降りた使者のようだった。
衣装はホワイト、スカイブルー、マリンブルーを基調に、各自のイメージカラーが差し色として映える。統一感がありながらも、細部のデザインは個性を際立たせている。
栞成は、短パンに片側だけデニムシャツ風にデザインされたワンピースにロングスカート。脚にはブーツ、腰には緑のベルト。中性的な雰囲気と知性が感じられる。
柚奈は鎖骨と肩を強調したドレスに、前後で丈が異なるハンカチーフヘムスカート。腕には細いリボン、ラピスラズリのフィンガーレスグローブに厚底のヒール。どこか悪役令嬢を思わせるチャーミングな存在感。
小依はレースの透け感あるミニドレスで、肩や背中が淡く見える。プリーツのような裾がふわりと揺れ、胸元にはサンイエローの大きなリボン。内気で可憐な妖精のよう。
クローディアはビキニ風のトップに紐とリングで締めるデザイン。へそ出し、細い首筋、薄紗のスカートには黒と銀の紋様が刺繍され、セクシーなダンスパフォーマンスの主役のようだ。
そしてセンターの実瀬は、ボディラインを強調したレオタードに近未来風のドレスコート。三重のミニスカートにロングブーツ。橙のスカーフを巻き、胸元には十芒星のネックレスが煌めく。その笑顔はまるで暁を告げる妖精のように、画面越しにも輝きを放っていた。
5人は階段をステージへと降りながら、曲に合わせて舞い踊る。
力強く手を振り、正確に足を運び、流れるような手の動きで空に魔法陣のような軌跡を描く。
やがて5人は最前列に集まり、ガラスの五角形ステージが出現。その中心に立ちながら、フォーメーションを自在に変化させていき、リーダーが誰かも分からない。全員が主役として輝いている。
陽太は、MVを見るのはこれが10回目だったが、それでも実瀬の表情と演出に目を奪われ続けていた。
「……何度見ても、すごいな。」




