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第55話 訓練方法を探る所 ①

 翌朝。朝食を終え、外出の準備を整えた陽太は、出発を待ちながらリビングのソファに腰を下ろし、テレビをぼんやり眺めていた。

そこへ、何か重大な発見をしたかのような興奮顔で、陽菜がMPディバイスを両手に抱えて駆け寄ってくる。


「お兄ちゃん!これ見て!赤星さんじゃない?」


ディスプレイに映し出された少女は、八王子市の商店街坂で私服姿のまま、踊りながら歌っていた。明るく澄んだ高音が空に響き、自然と視線が吸い寄せられる。


「……間違いない、赤星さんだ」


小柄で華奢なシルエットに、控えめな髪飾り。元気いっぱいの笑顔を浮かべながら、軽やかなステップで通りを舞う。その動きには無駄がなく、全身の筋肉と細胞が「アイドル」として生まれついたような洗練を放っていた。


「まさか……もうフェアリーズとして活動してるのか?」


「でも、これって個人アカウントの投稿だよ。前にも街角とか自然の中で歌ってたし、今回は商店街が舞台みたい」


わずか1分半ほどの動画だったが、視聴回数はすでに8万を超えていた。

「いいね」の数もコメントも何千件とついている。


「一日でここまで……すごいな」


「フェアリーズのオーディション前から、アマチュアとしてしっかり活動してたみたいね」


他の動画もチェックしてみると、海辺、山頂、公園、パブリックアートの前など、さまざまな場所で撮影されたものがあった。ポップソングから民謡、英語曲まで、彼女はどんなジャンルにも自然に溶け込んでいた。


原曲の魅力を損なわず、むしろ彼女独自の表現が加わることで、聴く者の心に深く染み渡ってくる。


「そうか……高台公園にいたのは、ロケーションを探してたからだったのか」


その姿を見ながら、陽太は静かに頷いた。


――赤星さんは、もう輝く星になっていたんだ。


「……ねえ、お兄ちゃん、また挫折してる顔してない?あれから彼女と何かあったの?」


「いや、特に何も。ただ、雨の日に傘を貸したくらいで……」


「それだけでも十分よ! 困ってるときに助けたら、印象バツグンなんだから!」

陽太は首をかしげる。


「そ、そうなのかな……?」


「そうに決まってる! あの日、お兄ちゃんにアドバイスした私に感謝してよ?」


「はは……確かに助かった」


陽太の髪を撫でるように陽菜が笑う。


「でも……もしお兄ちゃんの心が赤星さんに奪われたら……」


陽菜は少し唇を尖らせて、恥ずかしそうに笑った。


「陽菜、ちょっと嫉妬しちゃうかも」


陽太は思わず苦笑しながら、ぽんと妹の頭を撫でる。


「……じゃあ、後で苺ムースケーキでも奢るよ」

「ケーキ一個じゃ、足りないかもね?」


陽太は少し驚いた表情を浮かべる。まさか、陽菜がそこまで実瀬のことを気にしているとは思わなかった。


「分かった。じゃあ、今度一緒に買い物に付き合えばいいでしょ?」

「本当?それ、約束だからね!」

「ああ。陽菜が日取りを決めたら、スケジュール合わせるよ」

「うんっ、楽しみ!」


陽菜は満面の笑顔を浮かべながら、両手で陽太に抱きついた。体を思い切り寄せ、兄の胸にすり寄るようにしてぴたりとくっつく。


「お兄ちゃん、あったかい……やっぱり安心する」


陽太は、身体の体温を意識して50度以下に抑えながら、甘える陽菜に「仕方ないな」とでも言いたげな、優しい笑みを浮かべた。


そのやり取りを目にした辰昭が、外出の準備を終えてリビングにやって来る。


「先の話し、陽菜は誰が嫉妬するって?」


両手を解けた陽菜は首を辰昭に振り向きあえて言う。


「お兄ちゃんが惚れた女の子よ」


「どれどれ?」


陽菜はディバイスの画面を父に見せる。


「おお、確かに美人だな。……さすが俺の息子、見る目がある。で、告白は?」


陽太は照れたように頭を掻きながら答える。


「……失敗したよ」


「ははっ、好きなら諦めるな。お母さんだって、俺が初恋の相手だったけど、OKもらうまで10回は告白したからな」


「えぇ!? 10回も!?」


「そうだ。あの頃のお母さんは、古筝に伝統舞踊部にと、才色兼備の美女で、学校のミスコンで優勝してたんだぞ」


「そんな話、初耳だよ!」


「母さんは昔の話をあまりしないからな。さて、陽太、そろそろ出かけようか」


「うん。準備できてる」



ふたりは家を出て、マシンに乗り込む。目的地は、東南にある千葉。

陽太の力を制御する方法を見つけるための旅だった。


「父さん、僕の訓練って、どういう内容なの?」


助手席の陽太が尋ねる。


「俺の高校時代のチームメイトにな、異能者になった奴がいる。虎本桐哉。元は俺のバッテリー相棒で、甲子園で完全試合を連発できたのは、彼の力も大きかった」


「でも、虎本おじさんは異能者になってから、野球をやめたの?」


「そうだ。事故で頭を打ったあと、念者エスパーとしての能力に目覚めた。異能者は公式競技への参加が禁止されてるから、やむを得ず、プロ入りも断念した」


「その人、今は何してるの?」


「異能者の育成やカウンセリングに関わってる。君の件も話したら、すぐに「会わせろ」ってさ。まずは彼の話を聞いてみるといい」


陽太はゆっくりと頷いた。


「……分かった。母さんは心配してるけど、受け入れてくれると信じてる」


「大丈夫だ。母さんの芯は強いから」


車は静かに加速し、陽太は窓の外に目をやった。

どこか不安と希望の入り混じった気持ちを抱えながら、彼は新たな一歩を踏み出そうとしていた


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