第51話 身体検査、異能者の真実 ⑦
陽太が検査室へと入ると、そこは天井高10メートル、長さ100メートル、幅50メートルの広大な無機質な空間だった。照明は隅々まで行き届き、金属素材で構成された壁面には、センサーらしきレンズや不明な小穴が30センチの間を取って整然と並んでいる。
その中央、ひとりの男性が待っていた。細身の体格、無造作なベリーショートの髪、質素なシャツとズボンを着ており、腰には一本の木刀を差している。彼の隣には、曖昧な輪郭を纏ったエネルギー体のような存在が立っていた。姿ははっきりとは見えないが、そこに《《何かがいる》》と直感させる確かな圧を放っていた。
それを見つめる陽太に、男が声をかける。
「君が日野陽太くんだね?」
洗練された顔立ちと柔らかな声。まるでドラマに出てくるロールキャベツ系の主人公のような印象だ。
「はい。あなたが次の検査を担当する方ですか?」
「僕は沖田純一。リーさんから君の資料を見せてもらっていたよ。一度会ってみたかった」
その名前に、陽太はどこかで聞き覚えがあると気づいた。
「……もしかして、あの“神雷”と呼ばれていた?」
「覚えてくれてたか。まあ、若いころは事件をいくつも解決してメディアに出てたからね」
「どうして今、こんなところに?」
「家庭を持ってね。今は現場からは退いて、異能者アドバイザーとして若者の育成に携わってるんだ……でも、今は僕の経歴より君のことだ。さっそく検査を始めよう」
気さくな口調に、陽太も自然と緊張が和らぐ。
「はい。よろしくお願いします。それで、まずはどんな検査を?」
「まずは君の瞬間反応を見せてほしい。四方のセンサーがランダムにゴム弾を発射する。どこから撃たれてくるかはわからない。避けてもいいし、撃ち落としてもいい。試してみよう」
「わかりました!」
陽太は指示されたポイントマークへと立つ。するとセンサーが起動し、壁に速度を示す数値が表示される。
初速は時速60キロ。胸元にレイザーポインターが照準を合わせた直後、ビー玉ほどのゴム弾が発射された。
陽太は体をひねって回避。次に左肩が狙われたが、これも素早く躱す。
速度は次第に上がっていき、時速400キロ、マッハクラスにまで達する。それでも陽太は軽々と回避していく。
――まるで一瞬で姿を消すような動き。
背後から撃たれたマッハ5の弾も、彼は完璧に避けきった。
検査は2分間、30発以上の攻撃が繰り出されたが、陽太は一発も被弾せず、息一つ乱れていない。まるで準備運動にもなっていないような余裕ぶりだ。
「沖田さん、この検査って、いつまで続くんですか?」
「まだまだだよ。ここでの上限はマッハ50。それ以上は……僕が相手をしよう」
そしてついに、陽太はマッハ50の弾も完全に回避。
測定装置が停止した。
――次は沖田さんが相手……もしかして、この人はそれ以上に速いのか?
はっと気を引き締める陽太。
「沖田さん?」
「次は……僕の番だ」
沖田の姿が一瞬にして消えた。
布の擦れる音。
次に見たときには、彼の木刀が陽太の肩に軽く触れていた。
「……あっ」
「これで瞬間反応の検査は終了だよ」
沖田は木刀を静かに収めた。
「いまの一撃、弾より遅い……でも、気を抜いていた」
沖田は顎に手を当て、穏やかに分析する。
「さっきの斬撃はマッハ48程度かな?君は集中力の持続が課題のようだ。5分持たなかったね」
陽太は黙って頷いた。自覚のなかった弱点に、少し戸惑いを見せる。
「これで検査は終わりですか?」
「いえ、次は出力測定だ。君の放出できる力の総合評価を行う」
「どんな検査ですか?」
「君の能力出力の総合評価だよ。測定内容はシンプルだ。目の前に12箇所のターゲットが設けられたパネルボードが現れる。その中でランダムにライトが点灯するから、光った箇所を狙って攻撃してみてくれ」
「わかりました」
陽太はポイントマークの位置に戻ると、20メートル先の床からサッカーゴールほどの大きさのパネルボードがせり上がり、設置された。ボードは細かく12ブロックに分けられ、それぞれに数字が振られている。
陽太はひとつ深く息を吸い、集中する。
<On your mark!>
<Ready!>
ブザーの音とともに、最初に左上の「2番」が点灯。
陽太は掌を構え、力を込める。
だが、何も起きなかった。
「……あれ?」
焦りを感じながらも、次に点灯したのは右下の「11番」。続けて中央右の「6番」。
しかし、どれだけ手を構えても、陽太の掌からは一向にプラズマが放たれない。
「どうして……出ない……?」
確かに掌には微弱な光が灯っている。だが、熱は弱々しく、放出には至らない。
その後も何度も挑戦を続けたが、結局ひとつもターゲットを撃ち落とせず、測定はそのまま終了した。
「……終わっちゃいましたか」




