第49話 身体検査、異能者の真実 ⑤
二人は別の階層へと移動し、地下五階の部屋へと足を運んだ。
中にある待機室へ進むと、そこには十代と思しき少年たちが三人いた。その中には、先ほど庭で子供たちと遊んでいた少女の姿もあった。
検査室の扉には「検測中」を示す赤いライトが灯っている。
一人は細身の少年で、地味なナチュラルマッシュのツーブロックヘア。銀のボタンがついた学ラン姿で、知的な雰囲気を漂わせながらこちらに目を向けた。
もう一人は天然の金髪を揺らす少年。誰よりも先に、陽気な声で声をかけてきた。
「おーっす、あゆみさん!」
「こんにちは、齋藤姉さん」
知的な少年と可愛らしい少女が、それぞれ挨拶を交わす。
「みんな元気そうね。恒例の訓練検測、調子はどうかしら?」
茶髪をハフアップにしてさらに団子を結ぶ。下敷き薄い黄色、二本の白線を縫いた深紫の襟、更に胸元にスカーフを大きリボンを結ぶ。少女は朗らかな笑みを浮かべて答える。
「みんなのアドバイスのおかげで、《《手が》》前より上手く使えるようになりました」
その言葉から、彼女がきちんとした躾と礼儀を身につけていることが伺える。続けて、金髪の少年が無邪気に笑った。
「俺もいつも通り、ビンビン絶好調っスよ!」
学ランの少年は挨拶はせず、陽太の方にじっと目を向け、興味深そうに尋ねた。
「姉さん、新しい子を連れてるんですか?」
「ええ、今日は彼の身体検査を担当しているの」
亜由実は陽太に軽く促す。
「日野くん、彼らはこの支援センターに定期的に通っている異能者の子たちよ」
いきなり自己紹介の場面となり、陽太はやや照れくさそうに微笑みながら頭を下げた。
「日野陽太です。よろしくお願いします」
金髪の少年が歯を見せてにこやかに応じる。
「俺はビリー!よろしくっス!」
ビリー・マシュクロフト。黒い腰パンに、個性的なエンブレムと英字が描かれた黄色いTシャツ、ストリート系の服装で、まるでダンススタジオからそのまま出てきたような少年だった。
隣に立っていた少女も、細い首を小さく傾けて丁寧に挨拶した。
「手塚レイミです。よろしくお願いします」
学ランの少年も短く自己紹介した。
「齋藤です。よろしく」
「えっ、もしかして……」
「そう、うちの可愛い弟の統よ」
姉の言葉に、表情を崩さず顔だけが赤くなった統は、グループのリーダーのように仕切る。
「ぼ、ぼくら、そろそろ行こうか」
ビリーは後ろ手に腕を組み、残念そうに言った。
「え〜、もう行っちゃうんスか?彼ともっと話したかったのに」
「俺たちが長居すれば、他の人の邪魔になる」
「ほんとに?なんだか照れて逃げようとしてるだけじゃ……」
「行かないなら、僕が先に行く」
レイミが冷静に突っ込むと、さらに耳まで真っ赤になった統は、無言でその場を出て行った。
場の空気を読み違えた陽太は、気まずそうに眉を下げる。
そんな陽太にレイミが気さくに声をかけた。
「気にしないでください。統くんは、知らない人の前で“可愛い弟”扱いされるのが苦手なんです」
「そうなんですね……」
「ビリー、私たちも行きましょ」
「でも、つばっちゃんを放っておいていいんスか?」
「青瀬くんはマイペースですから、あまり気を遣いすぎると逆にダメなんですよ」
「へ〜、そうなんスか?」
そう言いながら、レイミは待機室を出て行き、ビリーも彼女の後を追った。扉が自動で閉まる。
陽太はどこか申し訳なさそうに表情を曇らせ、隣の亜由実に視線を向けて言った。
「齋藤さん、僕、なんだか余計なこと言っちゃったかも……」
「気にしなくて大丈夫。少しひとりにしてあげれば、統くんもすぐに落ち着くわ」
亜由実は陽太に微笑みかけ、席に腰を下ろす。
「それより、座りましょ。検査が終わるまでは、まだ少しかかりそうだから」
その言葉に促され、陽太も隣に座る。
「さっきの子たち、すごく仲が良さそうでしたね。みんな地元の子なんですか?」
「いえ、違うわ。ここは異能者の支援センターだから、定期的に能力のコントロール検査を受けに来てるの。自然と仲良くなったみたいよ」
「そういえば、レイミさんが“アドバイスをもらった”って言ってましたけど?」
「ええ。今日の君の検査を担当しているスタッフの中にも、実は異能者が何人かいるわ。若い異能者の相談相手として、助言する役割もあるのよ」
「えっ、じゃあ……齋藤さんも異能者なんですか?」
「うん。分かりにくいかもしれないけど、私は【念者】よ」
「念者って……異能者の種類の一つですか?」
「そうよ。UCBDでは突変異能者を大きく5つに分類してるの。たとえば、日野くんのように身体能力が極端に突出していて、常識外れの物理現象を起こせるタイプは【超人】と呼ばれる」
「僕が……超人……」
「身体能力の変化はないけど、脳の働きだけで能力を発揮するのが【念者】。ほかにも、見た目は全体や体の一部が別種の生き物のように変化する【奇人】、義肢や機械を移植され、体が人工的に改造された【改人】、それと、外的要因で力を得る【憑装者】もいるわ」
陽太はまるで未知の宝箱を開けるかのような気持ちで呟いた。
「……すごく、深い世界なんですね」
「UCBDで働いているとね、もはや人類の常識なんて何度もひっくり返されるのよ。地球には、まだまだ謎がいっぱい」




