第48話 身体検査、異能者の真実 ④
瑤妤の説明が続く中、陽太は亜由実に案内され、すでに検診用の着衣に着替えていた。
身長・体重の測定に始まり、超音波による内臓検査、MRIなど、初めは一般的な健康診断と大差なかった。しかしその後は、異能者向けの特別な検査へと移っていく。
円形トレッドミルで走行スピードを計測し、屋外ではジャンプ力を、暗室では高速で飛び交う文字や、前方を横切る光球の数を正確に視認できるかが試された。聴力テストでは、通常よりも遥かに高音域まで反応があり、筋力の検査では、陽太は1000キログラム級のウェイトバーを片手で軽々と持ち上げた。
続いて彼が案内されたのは、天井が見えないほど高く、廃棄物の山が積まれた巨大な実験空間だった。時代遅れの家具や家電、瓦礫や鋼材、旧式の車両や軍艦、衛星の残骸に至るまで、まるで時代に置き去りにされた「時間のカプセル」とも言える場所である。
そこに立っていたのは、身長2メートルを優に超える、筋骨隆々の大男だった。
「次に試されるのはお前か、少年?」
「はい!」
「俺は瀬戸・F・タイソン。筋力検査を担当してる。俺のところに来るのは、みんな規格外だ。君がどこまで耐えられるのか、見せてくれ」
快活でフレンドリーな口調だが、その眼差しは鋭かった。
「測定中、無理そうならすぐ言え。不快に感じたら、遠慮なく測定物を壊しても構わん。これは勝負じゃない、身体検査だからな。準備ができたら返事をくれ」
「はい。よろしくお願いします」
「じゃあ、まずはこれだ」
瀬戸は片手で鋼鉄製の大型車両をひねり潰すように持ち上げ、それを陽太に向けて投げた。
「フンッ!」
飛んできた車を陽太は踏ん張って両手で受け止め、そのまま持ち上げる。
「最初にしては悪くない。次はこれだ」
続いて瀬戸は超重戦車の砲身を引き抜き、巨大なハンマーのように背負ってから、再び陽太に投げつけた。
「ふん!!」
陽太はそれも難なく受け止めた。徐々に体温が上がり、筋力を使うにつれて、身体が黄色く光を帯びていく。
「瀬戸さん、もっと重いものをお願いします」
「ふふっ、見かけで判断しすぎたな。じゃあ、次は本番だ」
瀬戸は残骸の山の奥から、重さ約900ドンのトンネルボーリングマシンを担ぎ上げた。
「これを耐えられるか?」
「はい、挑戦してみます!」
陽太は両手を広げて構えた。顔は真剣そのものだ。もはや遊びではない。間違えれば、命に関わることも知っている。
陽太の体からは、熱気とともに黄金色の光が立ち上っていた。
「オレェエエエーーーヨットォ!!」
瀬戸はそのままボーリングマシンを投げつけ、陽太に向けて拳で加速させた。
「フンッ!」
飛んできた超重量の物体を、陽太は地面を割りながらも両手で受け止める。体から発せられるエネルギーは増し、足元の床に割れ目が走った。
「受け止めました、瀬戸さん!」
「ほぉ……たいしたもんだ」
「もう降ろしてもいいですか?」
「ああ、構わん」
陽太はそれを脇へと慎重に下ろす。
「少年、今までにどれくらいの重量を扱ったことがある?」
「正確には分かりません。でも、この前、八王子を襲ったシャドマイラの攻撃を素手で耐えました」
「なるほど。じゃあ、あれじゃ全然足りなかったな」
瀬戸はきょろきょろと辺りを見回し、何かを思いついたように笑った。
「よし、アレで試そうか。ちょっと待ってろよ」
そう言って姿を消した瀬戸。しばらくすると地面がゴゴゴ……と揺れ始め、巨大な皿のような影が姿を現した。
「な、なんだあれは……?」
それは、直径30メートルを超える巨大な電波受信システムだった。見た目からして2000ドン以上はある。
「さあ、これを受け止めてみな」
「……やってみます!」
瀬戸はそれを拳で弾くようにして陽太の方へ放った。
「うおおおおおっ!!」
陽太は体中から光を放ち、両足で地をしっかり踏みしめ、それを両手で受け止めた。全身が震える。だが、持ち上げた。
そのまま5秒が経過――そして、異変が起きた。
巨大な電波受信システムの圧倒的な物量を前にして、視覚的な刺激を受けた陽太の心の奥に、興奮と感動にも似た感情が湧き上がった。それは、目の前の“未知”に触れたことによる高揚だった。さらに、その瞬間にかかる心理的なストレスが引き金となり、陽太の心臓は無意識のうちに活性化。体内の熱量が一気に上昇していく。
次の瞬間、陽太の掌からあふれた高熱が、受信機の装甲をゆっくりと溶かし始めた。
プラズマ流が渦巻き、周囲の空気を灼熱の熱風に変える。地面が砕け、振動が走り、耐えきれなくなった機体はゆっくりと、そして確実に溶解し、巨大な穴へと崩れ落ちていった。
それを見届けた瀬戸は腕を組み、面白そうに唸った。
「ふむ、妙な力を持っている主か」
「……これで、僕、よく耐えられましたか?」
陽太は自身の両手を見る。光が少しずつ収まっていく。
「瀬戸さん、続きの検査を……」
「自分の格好、見てみな」
陽太は自分の身体に目を落とし、思わず叫んだ。
「うわっ!? ぼ、僕、いつから裸に!?」
「お前はまだ、自分の力を完全に把握できていないな。筋力より先に高熱を発してしまう。そのせいで服が燃えたんだ。無理に続ける必要はない。筋力の上限は記録として“3000ドン弱”としておこう」
「……わかりました」
「少年、名前は?」
「日野陽太です」
「覚えておくよ。君の検査はここまでだ。着替えてきな」
「はい、ありがとうございました」
お辞儀にした陽太は踵を返し、そこから出ようとする。
「彼の身に持つ可能性が深い、あれって、また16歳か」
陽太の姿を見えなくまで瀬戸は興味深いな眼差しでずっと彼の背中を見ている。
陽太はその場を後にし、観測室へ向かった。そこには亜由実の姿はなく、検査服と下着が置かれていた。
「齋藤さん?」
するとスピーカーから彼女の声が響いた。
<陽太くん、検査お疲れ様。そこに予備の服があるから、着替えたら出てきて>
「わかりました」
着替えを終えた陽太が廊下に出ると、すぐ目の前に亜由実がいた。
「齋藤さん、外で待ってくれてたんですか?」
「ちょっとしたトラブルがあったしね。大丈夫? 火傷は?」
陽太は首を横に振る。
「体は平気です。でも服が燃えちゃって……すみません」
「気にしないで。異能者の検査中にはよくあることだから。あの服も消耗品扱いだしね」
「……先ほどからずっと検査が続いてますけど、疲れてませんか?」
頼りになるお姉さん、そんな印象の彼女に、陽太は微笑んで答えた。
「大丈夫です。もし次があるなら、このまま続けたいです」
「頼もしいね。それじゃあ次は、君の“瞬発力”と“本命の力”を測っていくよ」
「わかりました。最後まで、全部やりきってみせます!」




