第47話 身体検査、異能者の真実 ③
辰昭は先にソファに腰を下ろした。
黛璃は腕を組んだまま立ち尽くし、何かに怯えるような硬い表情で、ぼんやりと床の一点を見つめていた。
「まゆ、座ったほうがいい。ずっと立ってたら疲れるだろ?」
辰昭の促しに、彼女は小さく頷き、静かに彼の隣へ腰を掛けた。
ローテーブルには三組のカップとソーサーが置かれ、瑤妤はそのうちの一つに静かにコーヒーを注いだ。細い指でカップを取り上げ、一口、香りを味わうように啜る。
不自然に静まりかえった空気を破るように、辰昭が口を開いた。
「で、陽太のこと……何か新しく分かったのか?」
カップをソーサーに戻した瑤妤は、冷静な声で答える。
「私たちの調査の結果、陽太くんは四日前――シャドマイラの襲撃事件で異能者になったことが判明しました」
その言葉に、黛璃は思わず目を見開き、動揺を隠せなかった。
三日前にすでに事実を知らされていた辰昭も、正式な報告を受け、改めて緊張を深めた。額には薄く汗が滲んでいる。
「つまり……現場に現れた異能者は、陽太だったということか?」
「ええ、間違いありません。現場で採取された血液、衛星映像、そして現場にいたレンジャー隊の隊長の証言。加えて、陽太本人の証言も一致しています」
「だが……なぜ陽太が突然、異能者に?」
「それについては、私たちUCBD科援隊のミスです」
瑤妤はそう言いながら席を外し、二人の前で頭を深く下げた。
「事件当日、シャドマイラを狙って放ったプラズマ砲が、瓦礫に下敷きになっていた陽太くんをも照射してしまいました。その結果、彼の体に異能が発現したのです。UCBDの責任として、深くお詫び申し上げます」
初めて聞くその事実に、辰昭は表情を固めた。
だが、長年野球の厳しい世界で鍛えられてきた彼は、怒鳴りつけることもなく、深く息を吸い、考え込んだ。
――瓦礫に巻き込まれたのは不可抗力。
――シャドマイラを倒すために放たれた攻撃は、町全体の被害を抑えるためにやむを得なかった。
だが、ひとつだけ、どうしても確かめておきたいことがある。
「……瑤妤さん、顔を上げてくれ。これは災害を抑えるための決断だったと分かってる。だが、聞きたい。瓦礫の下敷きになった時点で陽太の生存率は?」
瑤妤は姿勢を正し、記憶から数値を導き出す。
「検証データによれば……生存率は、ゼロです」
「そうか……まさに“福禍倚伏”というやつか」
辰昭は目を閉じ、静かにため息を漏らす。
その横で、黛璃はすでに涙を浮かべ、肩を震わせていた。
「どうして……うちの子だけが、こんな目に……」
「お姉さん……」
瑤妤が声をかける前に、辰昭がそっと黛璃の肩を抱き、真摯な声で語りかけた。
「まゆ……しっかりしろ。俺たちが今、思い出すべきなのは、陽太が生きているという奇跡だ」
「でも……異能者になってしまったら、どうすれば……」
「陽太の顔を見たろう。あいつは今もしっかりしてる。だったら、俺たち親も負けちゃいけねぇ。まずは俺たちが、息子を信じてやらなきゃ」
言葉に背中を押された黛璃は、夫を見上げ、小さく頷いた。
「……私、信じてみる……陽太を」
涙を拭う彼女に、辰昭はハンカチを手渡す。
「涙を拭け。これから俺たちが、陽太のために何ができるか、一緒に考えていこう」
「うん……」
瑤妤もまた、静かに口を開いた。
「私たちUCBDも責任をもって、全力で陽太くんの力と未来を支えていきます。組織の人間としてだけでなく、陽太をずっと見守ってきた者として」
「……ありがとう、瑤妤。君がいてくれてよかった」
「それでは、陽太くんの力について、もう少し詳しくご説明します」
瑤妤は手元の端末を操作し、陽太の身体に関する初期データをホログラムに投影した。
「陽太くんは、常に体内に高温を帯びており、意思の操作によって高圧のプラズマ流を放出できます」
「プラズマ……それはつまり?」
「彼の心臓は、核融合に近い性質を持つエネルギー炉のような状態です。意思に応じて、数千度にも及ぶ熱を発することができます」
「それじゃあ……まるで“小さな太陽”みたいなもんか」
「その表現が一番近いかもしれません」
「その力で、シャドマイラを倒したのか?」
「はい。彼の精神が高揚し、強く発火した結果、プラズマ流が放出されました」
瑤妤の説明を聞き、辰昭は静かに眉をひそめる。
陽太が抱えているその力は、あまりにも危うく、その共に、計り知れない可能性を秘めていた。その事実を前に、父としての心が揺さぶられる。
「……他に分かったことはあるのか?」
「この数日間で判明した範囲では、陽太くんはエネルギー感知能力、反射神経の異常な速さも確認されています。今後さらに検査を進めれば、まだ未発現の力が明らかになるかもしれません」




