第45話 身体検査、異能者の真実 ①
翌日、研究所ではエリックが、先日ゴラーテルトンγを退治した際のデータを検証していた。
それは、衛星によって撮影されたプラズマバスターによる照射の前後映像だった。
映像の中に、ゴラーテルトンγ以外の生命反応が映っているのを見つけたエリックは、眉をひそめながら声を上げた。
「リー先生、少し奇妙な点が見つかりました。こちら、確認していただけませんか?」
自席で研究レポートの入力を進めていた瑤妤は、キーボードを叩く手を止めると席を立ち、エリックの元に向かう。
「何か、新しい発見でも?」
「はい。こちらは事件当日、ゴラーテルトンγにプラズマバスターを照射する直前の映像です。レンジャー重装特務隊389Bチームがターゲットに接触する前、避難の間に合わなかった民間人を見つけています。一部は避難に成功しましたが、一人が瓦礫に下敷きになり……」
「……それで?」
「交戦の影響で地盤が崩れ、隊員たちは通報により現場からの撤退を余儀なくされました。その直後、我々がプラズマバスターを発射したのです」
腕を組みながら、瑤妤は静かに頷く。
「なるほど。その後、現場に高熱を帯びた生命体が現れ、高圧プラズマ流によってゴラーテルトンγを撃破……」
「青木さんが言った変異仮論が、プラズマ照射の影響によるものであれば、つまり、日野陽太くんを異能者に変えたのは、第三者の干渉ではなく、我々が放ったプラズマだった可能性が高いかもしれません」
「その映像、さらに精査してみましょう」
「はい。ただ、少々時間がかかります」
「分かりました。その間に私は、いくつか確認を取っておきますね」
そう言って席へ戻った瑤妤は、ディバイスで通話を開始する。
「こちらは科援隊、リー部長です。二日前の西八王子の件で、確認したいことがありまして……レンジャー隊389Bチームの隊長とお話しできますか?」
〈少々お待ちください〉
〈はい、大田です。俺に何かご用ですか?〉
「先日の任務で、貴チームがゴラーテルトンγと接触したのは間違いありませんか?」
「ああ、そうだ。衛星映像で確認してるだろ?」
「では、さらにお伺いします。現場で瓦礫に下敷きになった少年と接触があったとか?」
「ああ……日野って名乗ってたな。勇気のある少年だった。逃げ遅れた人のために、最後まで助けようとしてた」
通話を聞きながら、瑤妤の胸には、静かだった水面に石を投げ入れたような、さざ波が広がっていた――。
*
土曜日の朝食後、黛璃は台所で食器を洗っていた。
陽太と辰昭、そして陽菜は食卓を囲んで話をしていた。
「ええ〜?なんで陽菜は行けないの?私も行きたい!」
陽太が研究所で精密検査を受けると聞かされた陽菜は、驚いて口を開けた。
「陽菜は家でお留守番な。研究所は遊びに行く場所じゃないぞ」
辰昭が父親としての威厳を保ちながらも、ユーモアを混じえて答える。
「でも……子どもの頃に何度か見学させてもらったじゃない?」
「今回のは普通の見学じゃない。陽太の検査なんだし」
隣に座る陽菜は不安げに陽太を見つめ、言葉を重ねる。
「……でも、お兄ちゃん、昨日も急に学校を休んだでしょ?それと関係あるんじゃないの?」
前日、陽太は登校しなかった。
体調不良を装ったが、実際には板津修吾たちとの衝突を避けるためだった。
黛璃には熱があると説明し、診察は受けずに薬と睡眠でごまかしたが、実際は冷静に考える時間を得るための「仮病」だった。
彼の体を気遣っていた黛璃は、瑤妤の助言もあって、無理に詮索せず静かに見守っていた。
「まさか……お兄ちゃん、重い病気じゃないよね?」
「それが分からないから検査するんだよ」
不安を最小限にとどめるため、事情を知る辰昭は淡々とした表情で答える。
その直後、皿を拭いていた黛璃が、タイミングを合わせるように言葉を添えた。
「陽菜ちゃんの気持ちは分かるけど、大丈夫。陽太は元気そうだし、検査でちゃんと分かるわよ。それより、陽菜ちゃんは来週の全州模試があるでしょ?今はそっちに集中する時期よね?」
「……分かったよ。あーあ、こういう時だけ夫婦の意見がぴったり合うんだから……」
陽菜は小さくため息をついた。




