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第44話 雨の日に起こった事ごと ③

 帰り道、陽太は小走りで家路を急いでいた。だが、その先に待ち構えるように、修吾が立ちはだかっていた。


彼はコンビニで買ったような安物のビニール傘を差し、まるで金剛力士のように険しい目で陽太をにらみつけてくる。


「この先は通行禁止だ」


足を止めた陽太は、少しだけ身を引きながらも、修吾がまたもや凶悪な顔をして立ち塞がっている理由を察していた。


それでも、暴力的な空気を和らげるように、少し硬い笑みを浮かべて応じる。


「板津さん……バスケ部の練習はどうでしたか?」

「知らねえのか?今日はバレー部の練習日だ」


その後ろから、先日いじめに加わっていた男子生徒が二人、退路を塞ぐように立ちはだかる。

だが、陽太は表情を崩さず、平然と言葉を返した。


「そうですか。どこかでジャンプシュートの練習でもしてたら?」

目の前にいる修吾は、かつては陽太にとって恐怖の対象だったはずだ。


 しかし今は、心拍が高鳴り、アドレナリンが巡り、不思議な高揚感が体を支配していた。

その恐怖すらも、どこか愉しさに似た感覚へと変わっていた。


「言ったよな?二度と赤星さんに近づくなって」

「でも、板津さんも傘を持ってましたよね?なんで僕より先に彼女に貸さなかったんですか?」

「うるせぇんだよ、目障りなヤツがベラベラ喋ってんじゃねぇ!ぶっ殺すぞ!!」

かつては巨大なヒグマに見えた修吾の姿が、陽太には今や、可愛い熊のぬいぐるみのように見えていた。

「じゃあ、シャドマイラより強いパンチ、お願いしてもいいですか?」

「ふざけてんのか!!」


修吾は傘を差したまま、勢いよく右足で蹴りを繰り出した。


だが、陽太は構えすらせずにそれを正面から受け止めた。1ミリたりとも動かない。

逆に修吾の足に衝撃が走り、まるでコンクリートの壁を蹴ったかのような反作用で痛みが伝わってくる。


「ぐっ……足が……!」


あまりの痛みに傘を落とし、修吾は足を押さえてうずくまった。それでも、苦しみながら陽太を睨みつけてくる。


「てめぇ……何らかの仕掛けをしやがったか?」

「板津さん、お互いのために、そろそろ喧嘩はやめませんか?」

「……お前ら、黙って見てるだけのつもりか?」


陽太が背後にいる二人の男子生徒に目を向けると、彼らは修吾の様子に少し怯みつつも、拳を振り上げて飛びかかってきた。

だが、陽太はその気配を瞬時に察知。


二人の攻撃を軽々と躱し、するりと修吾の背後へと回り込む。

気づけば立ち位置がすっかり変わり、陽太は三人の視界から一瞬で見失っていた。彼はのんびりとした容態で二人の男子生徒、ナマケモノのように拳を上げたスローモーションを見ている。


男子生徒は違和感が覚えた。


「……あれ?」


攻撃を外した二人は空振りし、バランスを崩して修吾にぶつかる。

「うわっ!?」

「どわっ!」


ドンッと鈍い音を立てて、三人まとめて地面に転がった。


「いてぇ……」


「板津さん、大丈夫ですか?」


「お前ら、俺をぶっ飛ばす気か!?逆らう気!?」


「ち、違う!」


「すまん……でも、あいつ……急に消えたように見えたんだよ……」


修吾は怒りのあまり、転がった仲間たちを叱責する。


「馬鹿かお前ら、あんなトロいやつが、そんな動きできるかっての!!」

一人の男子生徒がキョロキョロと周囲を見回す。


「板津さん……奴の姿が見当たりない」


「ちっ……逃げやがったな!追え!!あいつにお灸をすえねぇと気が済まねぇ!」

3人は小雨の降る路地に出て、あたりを見回すが、どこにも陽太の姿は見つからなかった。


陽太は急ぎ足で家に帰り、玄関の扉を閉めて大きく息を吐いた。


「ふぅ……ここまで来れば安全か……。でも、あいつ……そんなに赤星さんが好きなら、告白すればいいのに」


陽太は修吾からの暴力に手を出さず、反撃の機会を逃した。

それでも、瑶妤から言われた言葉を思い出す。


さらに自分の手でシャドマイラを撃ち貫けるのを思い出した。


「僕は人間相手に《《その拳》》を使えば、殺人になるかもしれない」


だからこそ、拳を振るうのをやめたのだ。

自分の両手を見下ろしながら、陽太は呟く。


「それにしても……あの感覚は何だ?昨日、ナイフを受け止めたときも……。あんなにも早く動けたのは、まぐれじゃなかったのか……?」


陽太軽いステップでリビングに入って来た。


「ただいまー」

「おかえりなさい、陽太。今日は早かったのね?」


リビングで洗濯物をたたんでいた黛璃が顔を上げて答える。


「雨が降ったから、天体観測できなくて、早めに戻ってきたんだ」

「そう。ズボンがびしょ濡れでしょ?早く着替えてらっしゃい」

「うん、分かった」


部屋に戻った陽太は、制服を脱ぎながらハッと気づく。


「……嘘だろ。あんなに雨の中を走ったのに、服が全然濡れてない……?もしかして、無意識に放ってる熱が100度以上あったのか……?」


 陽太は自分の体が変わった、凄い力を身に覚え、そして力を使う高いリスクが被ると確実に再認識した。


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