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第42話 雨の日に起こった事ごと ①

翌日。

陽太が家を出る頃、空には積雲がちらほらと浮かび、太陽の光は少し淡く黄色みを帯びていた。

登校中、隣を歩く陽菜が空を見上げて言う。

「お兄ちゃん、傘持っていったほうがいいよ。雨、降ると思う」

「でも、天気予報じゃ降水確率3%だったよ?」

「1%でも降る可能性はあるでしょ?」

「なるほど、《《陽菜ちゃんの“雨センサー”は天気予報より信頼できるね》》」


 それは、陽菜が小さな頃から持っていた不思議な感覚だった。彼女の髪がひどくうねり、青い毛先が浮くときは、どんなに晴れていても必ず雨が降る。


「ありがとう、念のために持っていくよ」

「ふふっ。昨日のどら焼きのお礼ね」


 そうして陽太は玄関に置いてあった折り畳み傘をカバンに入れ、二人で出かけた。



 その日、陽太は学校で平穏無事に一日を過ごした。

 そして、陽菜の予感は見事に的中する。

 午後の体育の授業中、突如としてゲリラ豪雨が降り始めた。

 雨は放課後になっても止まず、小降りにはなったものの、やむ気配はない。

 昇降口の階段を降り、靴を履き替えた陽太は、余裕のある表情でカバンから傘を取り出した。


 玄関を出ようとした時――

 オーニングの下で雨が止むのを待っている学生たちの中に、赤星実瀬あかぼしみらいの姿を見つける。


 彼女と話すのは、あの振られた日以来だった。

 まだ少し気まずさは残っていたが、彼女の横顔はどこか困っているように見える。

 その表情に、陽太は迷った。


――話しかけるべきか? それともやめるべきか?


 だが、先日、陽菜に言われた言葉を思い出す。

――『振られたけど、脈が完全にないわけじゃないと思うよ?』


 その言葉を信じ、陽太は傘をしっかり握り直して一歩踏み出した。


「赤星さん、どうかしたんですか?」


 実瀬は、傘を持っていないことに気まずさを感じたのか、肩をすくめて笑った。


「天気予報が確認してなくて、傘、持ってなかった……。このままだと、マネージャーとの約束に遅れちゃう。でも、駐車場まで走ったら、髪も服もびしょ濡れになっちゃうし……」


「よかったら、僕の傘、使いませんか?」


 陽太は迷いのない手つきで傘を差し出した。


「でも、それじゃ日野君はどうするの?」


「僕は時間に余裕がありますから。雨が止んでから帰ればいいですよ。赤星さんはスケジュールを守るのが大事なんでしょう?」


「……それなら、いっそ一緒に駐車場まで行こうか?」


「いえ、大丈夫です。赤星さんって、誰に対しても平等に接したい人でしょ?」


 その言葉に、実瀬は一瞬目を伏せ、何かを考えるように口をつぐんだあと、再び陽太に向き直る。


「……でも、傘、どうやって返せばいいの?」

「明日、僕の席に置いておいてくれたら、それでいいです」

「ありがとう、助かった。また明日ね」

「うん、また明日」


 そう言って、実瀬は傘を差し、小走りで校門の方へと駆けていった。

 その様子を、板津修吾が校舎の影から睨んでいた。

 嫉妬の火が、その目にゆらめく。

 陽太は空を見上げ、まだ雨雲が漂っているのを確認すると、雨が止むのを待たずに駆け出した。実瀬とは反対の方向へ――。

 その走る姿からは、まるで放たれた熱が雨を蒸発させるかのような勢いを感じさせた。


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