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第35話 戸惑う十字路 ①

放課のチャイムが鳴り響く。

昨日、町がシャドマイラに襲撃された影響で、今日は休む生徒が多かった。

さらに、他のクラスでは複数の生徒の死亡が確認されていた。

悲報が伝わったばかりで、いつもなら下校時に生徒たちが集まり、ふざけ合いながら賑やかに話す教室も、今日はどこか沈んでいる。

まるで校内全体が喪に服しているかのように、活気がいつもの2割ほど落ちていた。

陽太は、一日中、異常な感覚と戦い続けたせいで、頭が真っ白だった。

まるで意識が体から乖離してしまったかのような、ぼんやりとした状態が続いている。


「日野くん」


不意に慎輔の声が聞こえ、陽太の意識が現実に引き戻された。


「風沢くん?」


「具合でも悪いのか?」

陽太は首を傾げながら、慎助の問いに疑問を抱く。


「別に……どうして?」


「どうも様子が変だぞ?授業中、先生の質問にやけに積極的に反応していたかと思えば、それ以外の時間はずっと上の空だった」


「……先生の質問に答えるのは、生徒の権利だろう?来年、うちの妹が受験生だから、今は大事な時期なんだ。兄として、ちゃんと勉強しないといけないし……」


陽太は、慎輔に違和感を気づかれたことを悟る。

苦笑いを浮かべ、半ば本気、半ば誤魔化すような口調で言い訳をする。


「そうか……今日は部活に顔を出すか?」

「うん、行くよ」


陽太はデスクモニターをシャットダウンし、肩に掛けていた鞄を背負い直すと、教室を後にした。


慎輔の後について歩いていた陽太は、ふと窓の外に目を向ける。

その視線は、ある一人の少女の姿に引き寄せられた。赤星実瀬だった。

今日一日、教室の雰囲気はどこか沈んでいた。

しかし、そんな中でも、彼女だけは変わらぬ笑顔を見せていた。

謹慎感を湛えた温かな微笑みが、周囲の人々に希望を与えているように見える。

陽太は、彼女をじっと見つめ続けた。

彼女がまるで一刻も早くレッスンを受けたくて仕方がないかのような、軽やかな足取りで校門を後にする姿を、ただ静かに見送る。


慎輔が、そんな陽太の様子を見て、彼の隣に寄ってきた。

そして、陽太が誰を見つめているのか、すぐに気づいたようだった。

「日野くん……気持ちは分かるけどな」

慎輔は軽く肩を竦め、ふっと微笑む。

「ただ立ち止まって、彼女の背中を見ているだけじゃ、何も変わらないぞ。

君が彼女よりも輝く星になれたら、立場も変わるかもしれないね」

「……そうだよね」

昨晩、陽菜にも言われた言葉が、ふと脳裏に蘇る。


――ただ待ってるだけじゃ、本当につまらない男になっちゃうよ?


その一言が、胸に重く響いた。


ずっと――告白が失敗した過去の挫折に囚われ、踏み出せずにいる。

頭では分かっている。

躊躇い続けても、何も変わらない。

けれど、それでも……


――僕はアイドルより輝く存在になれるのか?"


そう考えた瞬間、どうしても自分に自信を持つことができなかった。


――流石に、トップアイドルの卵には敵わないよな……。


僕も、彼女のように輝くことができるんだろうか……?

「行こうか。先輩たちが待ってる」

慎輔の言葉に、陽太は我に返る。

「うん」

頷き、慎助と共に廊下の向こうへと歩き出した。



放課後の実瀬が向かったのは、学校から100メートルほど離れたマシンの駐泊場。

そこには、7人乗りの黒いマシンが待機していた。装甲強化されたワゴンマシンだ。

今の時代は、異能力者の人口は全人類の六分の一に占める。名人やアイドルが異能力者に襲われる事件が起こったことがあった。そのためにアイドルを乗らせるマシンは防弾防爆機能を備える。


操縦席の窓が開き、顔を出したのは20代前半の青年。

彼は、実瀬のマネージャー、要永 潤軌(ようなか じゅんき)だった。

実瀬は軽く手を振り、明るい声で呼びかける。


「お待たせしました、マネージャー!」

「予定通りの時間だ。問題ない」

マシンのドアが自動で開く。

実瀬は中へと乗り込み、空いている座席に腰を下ろした。

マシンはすぐに浮上し、一般速度の航路へと進み始める。

「そうだ、今日は事務所に戻る前に、動態CMと平面広告の撮影がある」

「えっ!? まだ正式に活動も始めていないのに、もう仕事が入ったんですか?」

「ああ。以前から付き合いのあるスポンサーから、ネットメディア広告プロモーションの依頼が来た」

「どんな広告ですか?」

「世界最大のドリンクメーカーとのコラボ企画だ。

夏に向けて、各スポーツ大会の特別プロモーションとして、清涼飲料水の広告を担当する」


その瞬間、実瀬の目が大きく見開かれた。


「それって、あの超有名なドリンクブランドじゃないですか!?エリアルーズが正式デビューすらしていないのに!?」


「ああ。それだけ先輩たちが築いてきた信用が強いということだ。


エリアルーズのデビューコンサートと同時に行われるプロジェクトの一環でもある」


「すごい……!」

「それだけじゃない。他にも、イメージソングのPV撮影、そして百万クリックレベルネットチャンネル 『ヨーシア での一発芸』企画への出演も決まっている」


「それは芸能人がよく訪問される人気なチャンネルじゃないですか?」


「そうだ、君たち5人が共に訪問される。どう対応するのか君たちはシミュレーション訓練が必要だ。その前に君たちの内に十分の討論が必要だ」


実瀬は、マネージャーから渡されたスケジュールを確認する。

そこには、レッスン以外にも、すでに毎日仕事がぎっしりと詰まっていた。

彼女は胸が熱くなり、目を輝かせながら言う。


「これから、すごく楽しみですね、マネージャー!」


潤軌はそんな実瀬の明るい笑顔を見つめ、静かに微笑む。


「ああ、仕事を頑張ろうな」


しばらくして、彼はふと思い出したように話題を変える。


「そういえば、赤星さんが運営する個人チャンネルのコンセプト案は、もう考えたか?」


「はい! 昨晩、帰ってからしっかり考えてみました。一応、書きましたが……

不足や不備があれば、ご指導お願いします」


実瀬は積極的な態度でそう言い、資料を差し出す。

潤軌は彼女の姿勢に満足そうに頷いた。


「そうか。撮影が終わるまでにチェックしておく」


その頃、マシンは一般速度航路から高速航路へと移行。

地上から500メートルの上空へと上昇し、

東京へ向かって飛び去っていった――

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