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第30話 一変した日常 ③

「お兄ちゃん、途中から歩こう」


「うん、一緒に登校するのは久しぶりだね」


「お兄ちゃんがエアーチャリン通したから以来かな」


「それは、けっこう前の話だな。中三からか」


二人は一緒に家を出た。


「フフンーん♪」


久しぶりに陽太と一緒に通学できるせいか、陽菜はるなは上機嫌で、鼻歌を口ずさみながら軽やかに歩いていた。

しばらくすると、住宅街の道の途中で陽太が足を止め、ふと首をそらせて空を見上げる。青空にまばゆく輝く太陽が、彼の視線の先にあった。


「今日の色は真っ白だね」


陽太の話題を受けて、陽菜もひさしを防ぐようにひさしをこらして太陽をまじまじと見やり、感想をもらした。


「本当ね。めっちゃまぶしい。これは紫外線が猛烈で、肌が痛いと驚く一日になりそうね。委員長はまた日焼けに文句を言いそうだし」


陽菜は太陽を肉眼で見続けることにはあまり興味がなかった。女子の間ではスキンケアの話題が日常的であり、長時間日光を浴びるのはタブー視されている。日焼けを避けるためにも、彼女がこうして太陽を見つめる時間はほんのわずかだった。


しかし陽太の注目は、太陽だけではなく、天を飛び回るマシンにも向けられていた。そのマシンは、ゴアエンジンにより生じるエネルギーが流れているように感じられた。さらに後方から、マシンよりはるかに小さなエネルギー体が、ものすごい速さで迫ってくるのを陽太は感じ取った。そして、それに伴い、どこかで聞いたことのある微かな音が耳に届く。まるでエアーチャリンコのエンジン音に似ている。


陽菜はまだ何も気づいていない。陽太は直感的に後ろを振り向いた。


100メートルほど先、猛スピードでこちらに向かってくるエアーボードに乗った人物がいた。

「危ないっ!」


ぶつかる寸前、陽太は反射的に陽菜の肩を押し、二人は間一髪でエアーボードの進行ルートから飛び退いた。


「うおっ…!?」


陽菜はびっくりして大きく目を覆いた。


「ごめんね、ぼーっとしちゃって……」


「なんとかぶつからずに済んだね」


二人の目の前をエアーボードが逐速飛び去る。


陽菜は飛び去っていくエアーボードの中学生に腹を立て、大声で叫んだ。


「このおタコ!何やってんのよ!ぶつかったら大怪我するでしょ!」


しかし、ボードを止める気がないその少年は、軽く手を挙げて応じる。


「すまんすまん~。ちゃんと避けたんだし、別にいいじゃん~」


「なにその態度!地面を高速で飛ぶのは規則違反でしょう!風紀委員長に通報するから!」


さらに遠ざかる少年は、全く気にも留めず飄々と答えた。


「やりたきゃやれば~?」


陽菜は不機嫌そうに瞼を下ろし、「べ~だ~」と舌を出して変顔をした。


「知ってる人?」


「ううん、最近うちの学校で噂になってる問題児だよ。いつもエアーボードで危険走行をする迷惑な奴らしい」


「そうなんだ」


少年は見事なテクニックで道の先の急カーブを曲がり、その姿を消した。


「でも、飛び方は上手かったね」


「自惚れ野郎なんて、ブロック塀にぶつかっちゃえばいいのに」


陽菜はまるで嫌な虫でも見たように顔をしかめる。


陽太は苦笑いした。


――この反応、どうやら本当は知ってる人みたいだね。


「行こうか」


やがて二人は分かれ道に差し掛かった。それぞれの学校は東西に分かれていて、陽太の学校はさらに遠くにあった。短い時間の登校に物足りなさを感じたのか、陽菜は少し寂しそうな表情を見せた。


「ここまでだね」


「うん、そうだね」


「同じ学校に通えたらよかったのに……」


「確かお父さん、高校進学に女子校を勧めてるんだっけ?」


「それはあくまでお勧めの提案よ」 進学の話になると陽菜は渋い顔をして、不満を口にした。「そもそもお父さんは本・当・に・過保護なんだから。どこの学校に行くかは私が決めることでしょう?私は他の学校じゃなくて、お兄ちゃんと同じ高校がいいんだもの」


頬を膨らませて抗議する妹を見て、陽太はにっこりと笑った。


「そうか、応援するよ」


「でも、先生には今の10倍頑張らないと陵星は難しいって言われた」


「そうなんだ」


「お兄ちゃんは天文観察レポートで科学オリンピックの賞を取ったから、推薦で評価されて入ったんでしょ?もっといい私立校に行けるのに、陵星にしたのは勿体ないって光玲が言ってた」


「陵星は家から近いし学費も安いから。それに、もし僕が私立の天城に行ったら、陽菜はもっと苦労するだろ?」


陽太の優しさと思いやりある言葉に、陽菜は再び笑みを浮かべた。


「私もエアーボードをやめなければ、トロフィーを取って推薦で入れたかもしれないのに……」


「それは仕方がないよ……」


陽菜は元々エアーボード競技に優れた才能があり、小学生大会で金メダルを獲ったこともあった。しかし12歳の頃、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


苦い笑みを浮かべた陽菜は、気を取り直すように明るく続けた。


「でも、これは私が悪かったんだから。だから今日から悠乃たちと本格的に勉強会を始めることにしたの。陵星に合格するために、本気で頑張らなきゃ!」


それは陽太に対して言っただけでなく、自分自身への励ましでもあった。

「陽菜なら絶対に陵星に来られるよ。待ってるから」


陽太が向けた穏やかな笑顔と温かな言葉に、陽菜の心の中には大きな自信が湧き上がった。


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