第29話 一変した日常 ②
食卓には洋食がずらりと並んでいた。
目玉焼き、ベーコン、食パン。人参、ズッキーニ、ポテトなどの温野菜ミックス。
クリームポタージュ、3種のジャム、シーザーサラダ。 玉ねぎとサーモンのオリーブ漬け。
陽太の皿にはスコーン、陽菜の皿には苺とブルーベリーが飾られた厚みのある二段スフレパンケーキ。
「お母さん、おはよう。今日は洋食なんだね?」
食卓に座りながら、陽太はキッチンに立つ母に声をかける。
黛璃は背を向け、食器を洗いながら答えた。
「ええ、今日は陽菜のリクエストよ。」
「そうか。今日は水曜日だったよね。」
食卓につきながら、陽太はふと気づいた。父・辰昭の席には、食器もシートも用意されていない。
「お母さん、お父さんはもう出かけたの?」
「ええ、今日は福岡に出張よ。」
「そうなんだ。」
陽太は軽く頷き、手を合わせる。
「いただきます!」
待ちきれずに、一口ベーコンを口に運ぶ。
だが、妙に味が薄い。
不思議に思い、額に皺を寄せる。
「お母さん? ベーコンに塩、入れ忘れてない?」
黛璃は少し首を傾げた。
「変ね? いつもと味付けは変えてないはずだけど……?」
もう一枚食べてみるが、やはり塩気が足りない。
陽太は塩の瓶を手に取り、普段の3倍量を振りかける。
手元の仕事を止まった黛璃は振り向けて聞きかける。
「陽太、今日は部活あるの?」
黛璃が、何気なく尋ねる。少し考えてから、陽太は頷く。
「うん、今日は顔を出そうと思ってる。」
「……そう。」
「どうかしたの?」
黛璃は少し間を置いて、静かに言った。
「6時前には戻れる?」
「……どうして?」
「たまよが教えてくれたの。昨晩に陽太を見付けた所に不審な人物がいたらしいわ。その方が陽太をまた探しにくるそう」
陽太の表情がわずかに強張る。
(……たまよ姉さんが知らせてくれた方が変わったが……)
不審な人物など最初から他にいない、それは自分が異能者に変わったことが遠回り解説方だ。陽太は母親が心配している気持ちがよく分かっている。
(母さんを心配させないための言い回しにしてるけど……でも、何者かが俺を監視してる可能性がある、またもや、異能者なら他の人がどんな変哲な力を持っているのが知らないし、やっぱり一層の注意に気を付けてしないと)
陽太は内心で警戒しつつ、母を安心させるように微笑んだ。
「分かった。夕方6時前には帰るよ。」
「お母さん、おはよう!」
陽菜が明るい声で食卓にやってくる。高く結んだポニーテールが、元気よく揺れている。
彼女は席に着くなり、ふと眉をひそめた。
「あれ? お母さん、ハチミツがない?」
黛璃は申し訳なさそうに微笑む。
「ごめんなさいね。陽菜の好きなブレンド、切らしちゃったのよ。また家にあると思い込んでて、買い忘れちゃったわ。」
陽菜は少し残念そうな顔を浮かべる。
「えぇ〜……楽しみにしてたのに……」
「ごめんね。でも、リンゴジャムで試してみて。甘みは違うけど、美味しいと思うわよ。」
「うーん……仕方ないなぁ。」
そう言いながら、陽菜はジャムを塗ったパンケーキを一口食べる。
やはり期待していた味とは違うのか、微かに淋しそうな表情を浮かべた。
朝食を終えた陽太と陽菜は、玄関へと向かう。
陽太はふと、昨日の出来事を思い出す。彼の古いエアチャリンコは、シャドマイラの襲撃によって失われた。取り戻せる可能性は限りなくゼロに近い。仕方なく、今日は徒歩で通学するしかなかった。




