第28話 一変した日常 ①
東の空に広がるオーロラの光が、ゆっくりと揺れながら薄くになっていく。
暗闇が次第に薄青く染まり、夜の終わりを告げるように鳥たちのさえずりが木々の間から聞こえてくる。
目覚まし時計は4時10分を指していた。
しかし、陽太の部屋の電気はまだついたままだった。
陽太は机の前に座り、パソコンに向かっていた。
徹夜をしたわけではない。
昨夜、11時頃には布団に入ったはずだった。だが、なぜか眠れなかった。
それは、疲れすぎて眠れないのではなく、異様なほどの活力が体を満たしていたから。
目を閉じても、まるで睡魔が訪れない。
心臓が熱を帯びたまま、無尽蔵のスタミナを供給し続けている感覚。
まるで、自分の体が何かに覚醒しているような、結果、彼は夜の時間を持て余し、
西八王子市でのシャドマイラ被害のニュースを調べたり、異能者の情報を検索したり、野球のチャンネルゲームをしたり、そして今、彼の視線は連邦天文センター機関の観測ライブ映像に向けられていた。
この時代、人類の科学技術は宇宙にまで及んでいた。
小惑星を捕獲し、それを拠点に巨大観測機を建設した。
それによって、宇宙の遥か彼方まで観測できる超高精度の望遠鏡が誕生した。
その技術により、数千万光年彼方の星系にある星々すら、鮮明に捉えることができる。また、同時に大量な複数の観測体を撮れる。
観測可能な星が膨大なため、一般人でも自由観測し、データまで自由に閲覧できる時代となっていた。
陽太が最近、特に注目しているのは、約300万光年先のヘラオプス星系。
その中でも、「ヴァリテリオン」――太陽の3285倍もの大きさを誇る青色超巨星。
この名は、陽太自身が付けたものだった。
陽太は机に指をトントンと叩きながら、ヴァリテリオンの観測データを眺める。
すると、奇妙なことに気づいた。
星の光のパターンが1秒の間に激しく明滅している。
それだけではない。数時間前から、ヴァリテリオンを中心に周囲の星々までもが明暗を繰り返していた。
さらに、ある星は突如として完全に光を失い、別の星は新たに輝き始める。
それらの変化が、まるで連鎖反応のように星系全体に広がっている。
――自然の現象か、それとも人為的な何か……?
陽太は興味深げに小さく呟く。
「……この光の変化、激しすぎる。あんなに大きな星なのに、急に光を失って、また輝き出すなんて。いったい、ヘラオプスで何が起こっているんだ……?」
右手で頬杖をつきながら、ヴァリテリオンの点滅する光をじっと見つめる。
「大きな星ほど寿命が短いっていうのは、教科書にも載ってるけど……。今、僕が見てるこの光は300万年前のものだよね?ヴァリテリオン、ずっと生きて欲しいな……」
陽太の声には、どこか切なさが滲んでいた。
長い時間、観測を続けるうちに、彼はこの星たちに特別な感情を抱くようになっていた。
まるで、水槽の中の魚や亀を眺める飼い主のように――。
自らの死と蘇生を経験した彼は、ヴァリテリオンの揺れる光に、自分の存在を重ね合わせるように見つめ続けた。
朝6時。
制服に着替えた陽太が2階の廊下に出ると、ちょうど陽菜が部屋から出てきた。
髪はボサボサ、まるで寝ぼけた子猫のような顔。
パジャマ姿の彼女は、まだ意識が半分眠ったまま、目を細めながら手でこすり、か弱い声で呟いた。
「お兄ちゃん、おはよう~~……」
「おはよう。」
そう言うや否や、陽菜は夢遊病のような足取りでフラフラとトイレへ向かっていった。
陽太は苦笑しながら、階下へ降り、洗面所で歯を磨き始める。
数分後、陽菜も入ってきた。
陽太は自然と半分スペースを空けるように一歩移動する。
「うい!」
陽菜はその隙間に入り込むと、軽くお尻で陽太の太ももを小突いた。
「おう、何だよ?」
陽太は、くすっと笑う。この小さなスキンシップは、兄妹の間では毎朝の恒例行事だった。
完全に目覚めた陽菜が、ぱっちりとした目で陽太を見上げ、笑顔で尋ねる。
「よく眠れた?」
「ぐっすり……とは言えないけど、まあな。」
「もう着替えてるし、今日は早起きだね?」
陽菜はそう言いながら、陽太のコップに入った水を手に取ると、一口飲み、喉をうがいする。そのまま、二人は歯ブラシをくわえたまま会話を続ける。
「ヴァリテリオンの様子は?」
「相変わらず、ちらちら光ってるよ」
陽太が最近、星を観測していることをよく知っている陽菜。
彼の目のクマがそれほどひどくないことを確認し、安心したように笑う。
「そっか、今日も元気に光ってるんだ!よかったね」
陽太が顔を拭いていると、突然、陽菜がじーっと彼を見つめた。
そして、驚いたように言った。
「……お兄ちゃん、背伸びた?」
「……え?」
陽太は目を丸くする。
「うん、ちょっと伸びてるよ! 2センチくらい!」
陽太は、自分が異能者になったことを絶対に陽菜に知られないように気をつけていた。
だが、まさか身長が伸びたことで気づかれるとは思わなかった。
その考えが頭をよぎった瞬間――
「本当に!? 2センチも伸びたのか!?」
驚きのあまり、思わず声を上げてしまった。
陽菜は兄の過剰なリアクションにキョトンとした表情を浮かべる。
「どうしたの?そんなにびっくりすること?」
「……別に。中2から全く身長が伸びてなかったから、ちょっと驚いただけだ。」
陽菜はニコッと笑い、明るく言った。
「それはおめでたいことじゃない!また成長期がきたってことだから、この機に一気に170cm突破を目指そうよ!」
「……そうだね。僕の体……」
陽太は苦笑いしながら、心の中で呟いた。
――ギリギリ気づかれなかったみたいだな。でも、陽菜の観察眼……やっぱり鋭い。
話している最中、外から黛璃の優しい声が聞こえた。
「お二人さん、朝ごはんができたわよ〜!仲良しの掛け合いもいいけど、お話は後にしましょうね?」
「「はい〜!!」」




