第26話 兄妹の絆 ①
その頃、陽太は自室のベッドに横たわっていた。
エアコンが作動し、室内の温度を快適に保っている。
しかし、陽太の胸の中には、冷たい風では拭えない違和感が渦巻いていた。
――僕は本当に生きているのか?
瓦礫の下敷きになり、鉄筋が身体を貫いたはずだった。
それなのに、こうして息をしている。
シャドマイラと戦い、手のひらから炎を放ち、怪獣を真っ二つに斬った。
そんなことが、本当にあり得るのか、彼は静かに掌を見つめた。
そこに残っているのは、あまりにも現実離れした体験だった。
陽太は部屋の隅で微かなエネルギーの揺らぎを感じた。
顔を上げると、蚊が一匹、ゆっくりと飛んでいる。
蚊が飛び寄る音が煩くて、陽太は無意識に手を伸ばして、蚊を追い払うつもりと思った。
すると、その瞬間、陽太の掌に、熱が宿る。
振り払うながら、蚊が耐えきれず、燃え尽きるように床に落ちた。
「……!」
陽太の胸がざわつく。
「これは……何なんだ?火を放れる?」
驚愕と共に、自らの掌を見て、彼の疑問はますます深まっていく。
座り直した陽太は、ふと部屋の外に何かの気配を感じた。
まるで、人の大きさをしたエネルギーが廊下をゆっくりと動いているような感覚。
その直後、ノックの音が響いた。
「お兄ちゃん、いるでしょう? 入っていい?」
陽菜の声が、扉越しに聞こえる。
陽太は顔を扉の方に向け、軽く頷いて答えた。
「うん、鍵はかけてないよ。入っていいよ。」
扉が開くと、そこには乾いた髪を下ろし、短パンと薄い黄色のパジャマを着た陽菜が立っていた。
「いつ戻ってきたの?」
「さっき。また瑶妤姉さんに助けられたよ。」
「そうなんだ。」
部屋に入った途端、陽菜の体が小さく震えた。
冷房の冷気に思わず両腕を抱きしめ、文句を漏らす。
「……お兄ちゃん、ちょっと冷房が効きすぎじゃない?」
「そう? すごく快適だけど。」
陽太は首を傾げ、ふとベッドの横にあるローテーブルのディスプレイへ目を向けた。
そこに表示された室温の設定を見て、思わず目を見開く。
「……え、なんでこんなに低くなっているんだ?」
表示された数字は、12度。
さらに、ディスプレイには『陽太君の体が異常発熱しているため、直ちに病院へ搬送するべきです』と警告が表示されていた。
(異常発熱……? 僕の体が?)
陽太は反射的に、陽菜に気づかれないよう手でディスプレイを覆った。
そして、素早く確認ウィンドウの「スキップ」ボタンを押し、警告を消す。
「何度に設定されてたの?」
「……12度。」
「えぇっ!? あり得ないでしょ!」
陽菜は驚愕の表情で突っ込んだ。
「お兄ちゃんはシベリアン・ハスキーじゃあるまいし! AIコンピューターが壊れたんじゃない?」
「ううん、システムは正常って表示されてる。でも……これは一体……?」
陽太は戸惑いながら、ディスプレイの設定を手動で24度に戻した。
しかし、その間もAIコンピューターのセンサーが示す彼の体温は60度を維持していた。
ぽんっ、と陽菜はベッドの端に腰を下ろした。
シャンプーの香りが微かに漂うほどの距離まで近づくと、心配そうな表情で尋ねた。
「……シャドマイラの襲撃に巻き込まれたんでしょう? 大丈夫なの?」
陽太は首を垂れ、短く答える。
「……なんとなく、大丈夫だけど。」
「三ヶ月に二回もシャドマイラの襲撃に遭うなんて、普通じゃないよね……?」
陽菜は深刻な顔で呟く。
一方、陽太は気楽な笑みを浮かべてみせた。
「まぁ……生きて帰ってこられたから、良かったと思う」
その言葉に、陽菜は微妙な表情を浮かべる。
「……そう言えばさ、ネットで聞いたことあるんだけど」
彼女は何かを思い出したように、少し身を乗り出す。
「シャドマイラに二度遭遇して生き延びた人って、何らかの奇跡が起こるらしいよ?」
陽太は陽菜の顔を見つめ、眉をひそめた。
「それ……どういう話?」
「チャンネルネットで広まってる噂だよ。」
陽菜は腕を組みながら説明する。
「シャドマイラに遭遇して、生き延びた人が言っているの。
『二度目の遭遇を乗り越えたら、普通の人とは違う力を持つ』って。」
陽太は、無意識に手のひらを見つめた。
そこに宿る、未だ理解できない力。
(……まさか、一度死んだから覚醒したってこと? そんな話、ただの偶然にすぎないだろ……)
考え込む陽太だったが、陽菜が楽しそうに続ける。
「迷信みたいな話だけど、三度目の遭遇を乗り越えたら、もう凡人じゃないんだって!」
「……それ、迷信じゃなくてジョークだろ。」
陽太は呆れたように肩をすくめ、乾いた笑みを浮かべた。
「僕は三度目なんて遭いたくないけど。」
そう言いながら、心の奥で妙な違和感を覚えていた。




