第24話 今後の対応にご用心 ①
夜22時過ぎ、高度400メートルの空に、点々と連なるライトが線路のように輝いていた。それは、一般のマシンが飛行できる高速航路である。
4つのルートを複数のマシンが行き交う中、その一台に7人乗りのパールホワイトのマシンが紛れていた。流線型の細長い機体、左右に伸びる鋭いパーツ――まるで翼のついた革靴のようなフォルムをしている。
一般的な機体であるものの、そのルーフにはサイレンライトが備え付けられていた。赤い光を灯しながらも、サイレンの音は響かない。
そのマシンを操縦するのは瑶妤。彼女は赤城山の研究所を発ち、八王子方面へと向かっていたる。
意識を取り戻した陽太が最初に目にしたのは、マシンのルーフだった。
次に気づいたのは、自分がすでに柔らかいホワイトTシャツとスウェットパンツに着替えさせられていたこと。
(いつの間に……?)
戸惑いながら身を起こす。
シートはリクライニングされており、サイドドア越しに流れる景色が見えた。
外の雲は猛スピードで後方へ流れ、夜空には無数の星が瞬いている。
(ここは……誰のマシンだ?)
状況を把握しようと、陽太は四つ這いの姿勢になり、前方の操縦席を覗き込む。
そこで見知った顔を確認し、少し安堵しながら呼びかけた。
「瑶妤姉さん?」
「起きた?」
「……どうして僕はお姉さんのマシンに乗ってるの?」
「私たちはシャドマイラに襲われた現場に立ち寄って、瓦礫の中で気を失っていた君を見つけたの。体の調子はどう?」
瑶妤の言葉を聞きながら、陽太は自分の体を確認する。
どこにも痛みはない。むしろ、ぐっすり眠った後のように意識はスッキリしていた。
しかし――
(確かに僕は死んだはずなのに……)
瓦礫に押し潰されかけた恐怖。
また瀕死の状態で目にした不思議な光景。
そして、自分の身に宿った謎の力――
シャドマイラを討ち倒した記憶が、次々と脳裏に蘇る。
「大丈夫……だと思うけど……」
右手で頭を掻きながら、ぼんやりと呟く。
「でも、よく分からないんだ。僕は死んだはずなのに、また生きてるなんて……」
「君は確かに一度死んだ。」
瑶妤はそう断言した。
「けれど、何らかの要因で蘇生したと考えられるでしょう。」
彼女の冷静な声が、陽太の胸をざわつかせる。
「君がもともと着ていたジャージには血痕と裂けた痕が残っていた。あの出血量を見ても、普通の人間が生き残れるはずがない。」
陽太はTシャツの裾をめくり、瓦礫に貫かれたはずの傷跡を確認する。
……痕すら残っていない。
「僕の体に……一体何が起こったんだ?」
瑶妤はバックミラー越しに陽太を一瞥し、知的な眼差しを向けた。
「その謎は、いずれ解明できるわ。それより、あの新型のゴラーテルトンを倒したのは、君か?」
瑶妤の問いに、陽太は戸惑いながらも答える。
「はい……でも、よく分からないんです。」
不安げな表情を浮かべながら、彼は続けた。
「生き返った後、体の筋力が急に強くなって……手から炎を放って、シャドマイラを真っ二つに……」
「……興味深いわね。今は、もう使えないの?」
陽太は両手に意識を集中する。
すると、手のひらがわずかに光る――だが、それだけだった。
「炎は……出ないみたいです。どうして僕がこんな力を……? 僕は普通の人間のはずなのに……」
瑶妤は静かに頷いた。
「どうやら、今の君はまだその力を自在に操れないようだね」
「僕は……どうなるんですか?」
「今はまだ分からない。でも、これだけは言える。今晩、君の身に起こった全て事を絶対に他人に話してはダメよ。」
いつも知性な笑みを溢す瑶妤は氷のように険しい顔を見て陽太は尋ねかける。
「……どうして?今の時代に異能力を持つ人間が沢山がいるじゃないですか?」
「君は『突変異能者』に分類されるでしょう。」
瑶妤の声が低くなる。
「異能者を実験体として扱う違法組織が存在してある」
彼女の言葉に、陽太は息を呑む。
「またもや、能力を悪用する犯罪組織に引き込まれ、戦闘員として利用される可能性もある。もし君は力を持つことがばら撒かれたら、不審な人物を引き寄せるでしょう。」
「……家族や友達まで危険を巻き込むってことですか?」
「ええ。だから、決して軽々しく口外しないでね」
「確かに……お母さんも異能力者の話が大嫌いだよね。僕が何らかの異能力を持っていると知ったら、きっとどうかしてるって思うはずだ……」
陽太はかすかな不安を滲ませながら呟いた。
彼の母、日野黛璃は、かつて異能力者による凶悪犯罪事件に巻き込まれ、最愛の両親を失った。それは、姉黛璃が高校2年生、瑶妤が中学1年生の頃の出来事だった。
その日、二人の人生は一変した。
自宅で待っていたはずの両親が、二度と帰らぬ人となった現実。捜査関係者から伝えられたのは、異能力を持つ犯罪者によって両親が無惨に殺害されたという事実だった。
姉妹の心に、深い傷が刻まれた。
しかし、二人はまったく異なる形で、その悲しみと向き合った。
黛璃は、喪失の痛みがやがて異能力者への憎悪と恐怖へと変わっていった。
両親を奪った存在への拒絶し、人知を超えた力を持つ者たちを認めたくないという感情を保ち、彼女は異能力に関わるあらゆる情報を遮断し、その関わる研究にも決して手を伸ばそうとしなかった。
一方、瑶妤は違った。彼女は、事件の真相を知るために、異能力者に対する強い探究心を抱くようになった。
なぜ、そんな力を持った者が存在するのか?なぜ、両親は殺されなければならなかったのか?学生時代の彼女は、未知のものへの好奇心と探究心を抑えられず、異能力者に関するあらゆる情報を集めるようになった。
姉妹の間に生じた決定的な価値観の違い、黛璃は超能力の存在を否定し、瑶妤はその存在を追い求めた。
そして、今、黛璃は普通の家庭を築いて家庭主婦になって、瑶妤はUCBD科援隊で働いていた。
陽太は自分の身に宿った謎の力を見て考える。
(……僕が異能力を持っていると知ったら、お母さんはどんな顔をするんだろう?)
想像するだけで、息が詰まるようだった。
「辰昭さんはもちろん、陽菜ちゃんにも話してはいけないね。」
「陽菜もだめか?」
「情報が漏れる可能性がある。人間の悪意は予測できない。君が利用されないためにも、しばらくは情報を隠すことね。なので、その力は、なるべく人前で使わないで。黛璃姉や辰昭さんには、私から説明する。それと、今後もし体に異変が起こったら、なるべく早く私に知らせて。謎を解き明かす手助けができるから。」
「……分かった。」
陽太は固唾を飲み込み、静かに頷いた。
彼にとって、これは想像以上に難しい問題だった。
いつも通りの普通の生活を送ることができるなら、確かに、瑶妤の言う通りにするのが最も安全な選択なのかもしれない。
「……分かりました。」
陽太は固唾を飲み、静かに頷いた。
(何もなかったように、普通の生活を送る……それが一番安全なんだ。)
*
日野家に到着し、ゲスト用の駐車場に泊った。
「ただいま。」
「おかえりなさい!」
玄関に立っていた黛璃が、陽太を強く抱きしめる。
「無事でよかった……」
泣きているの体が震えているのを伝えてくる。
「お母さん、僕は……」
黛璃の体が小さく震えていた。
彼女の腕の中で感じるその震えが、どれほど心配していたのかを物語っている。
「……怪我はしていない?」
黛璃の懐から顔を上げた陽太は、静かに首を横に振った。
「母さん、僕は大丈夫だよ。」
安堵したように息を吐く黛璃の手が、優しく陽太の髪を撫でる。
その時、玄関の奥から響く重い足音して、陽太たちの前に立ちはだかったのは、陽太の父、辰昭だった。
広い肩幅、鍛え上げられた体格で、身長165センチにも満たない陽太にとって、まるで巨人のように見える存在だった。
威圧感に包まれる中、辰昭は鋭い視線で陽太を見下ろし、低く問いかける。
「その顔を見せろ。」
陽太が顔を上げると、辰昭の眉がわずかに寄った。
「あんた、また無茶をしたな?」
低く、静かに響く声、そこには確かな怒りが滲んでいる。
「何度も言ったはずだ。他人を助ける前に、まず自分の身の安全を確保しろと!」
鋭い言葉が、陽太の胸を突く。
辰昭の言うことは、正しい。今回、自分がどれほど無謀なことをしたのか。
もし、何らかの奇跡が起こらなければ、確実に命を落としていた。
反論する余地などなかった陽太は静かに俯き、素直に謝罪した。
「お父さん、お母さん……心配をかけて、ごめんなさい。」
「辰昭さん、あまり陽太を責めすぎないでください。」
瑶妤が一歩前に進み、穏やかながらも芯のある声で言った。
「お二人の気持ちは理解できます。でも、彼は被災者です。心理的なショックを受けているかもしれません。」
彼女の言葉に、黛璃もゆっくりと頷く。
「これ以上、無理に責めても、余計なストレスを与えるだけよ。心身に悪影響を及ぼしかねない。」
辰昭はしばらく沈黙した後、重いため息をついた。
「……申し訳ないな、瑶妤さん。」
目線を落としながら、少し硬い声で続ける。
「陽太のことになると、どうしても感情的になってしまう。毎回、君には世話を焼かせてしまって……すまない。」
「いえ、これも私の仕事の一環ですから。」
瑶妤は微笑みながら答えると、ふと真剣な表情になり、辰昭と黛璃を見つめた。
「そういえば、陽太くんのことで、二人きりで話したいことがあります。」
その言葉に、夫婦は顔を見合わせる。
何か重大な話がある――そのことを悟った二人は、静かに頷いた。
辰昭が陽太に視線を戻し、促すように言う。
「陽太、お前は先に部屋へ行きなさい。」
「時間も遅いし、今日はゆっくり休んでね。」
黛璃も優しく微笑みながら言葉を付け加えた。
「陽菜はお風呂に入ってるから、上がったら呼んであげるわ。」
「……分かった。」
陽太は瑶妤の方を振り返り、少し頭を下げる。
「瑶妤姉さん、わざわざ家まで送ってくれて、ありがとうございました。」
「きっと疲れたでしょう? ゆっくり休んで。」
「うん。おやすみなさい。」
軽く頷いた後、陽太はゆっくりと階段を登っていく。
背中を見送りながら、瑶妤は静かに息をついた。
(陽太が身に覚える謎の力……そして、彼はこれから起こるかもしれん。)
能力者が身に覚えるばっかり、力がまたコントロールできない、社会には有益のか、有害の存在に定義される前に、今には、陽太は重要に保護観察され時だ、陽太の本人に大きく刺激を与えない、身内の人が相談や信頼できるような環境を作るが必要のだ。今夜、姉と義兄にどこまで言うべきか、彼女には話を問題を一般化に誘導し、情報制限するように工夫する。そんな考えが、彼女の脳裏をよぎっていた。




