第22話 炎にて再生、覚醒の力
髭を撫でながら大原博士は、理性を保ちつつも新兵器の成果を確かめ、満足そうに言った。
「ふむ、プラズマバスター砲の実戦テストは成功じゃ。」
瑶妤は、しかし気を抜くことなく、慎重に言葉を続けた。
「確かに予想通りの威力です。しかし、新型のゴラーテルトンγに対して、この一撃で完全に倒せていればいいのですが……」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、耳を裂くような獣の咆哮が轟き渡った。
ギャオ――――!!
廃墟の瓦礫で積み上げられていた小山が突然爆発的に崩れ、ゴラーテルトンγが再び立ち上がる。その巨体が不死鳥のごとく蘇る光景に、エリックは驚愕の声を上げた。
「嘘でしょ……こんな威力の攻撃を受けたのに、まだ生きているなんて……」
大原博士が冷静に応じる。
「まさか、照射の瞬間にわずかに動いて弱点を逃れたか。だが、ダメージは確実に与えている。その体勢は衰弱して見える。」
瑶妤は眉をひそめながら問いかけた。
「エネルギーウェブで拘束していたのに、そんなことが可能なんですか?」
エリックは答えず、目をスクリーンに向けたまま言った。
「所長、二射目の準備を整えましょうか?」
「しかし、同じ位置への第二射は、周辺の避難シェルターに甚大な損害を与えかねない。撃つ方法が考え直すべきじゃ」
瑶妤の反論に大原博士が口を開こうとした瞬間、警報が響き渡る。
擬人コンピューターが危険を告げると同時に、プロメテウス号は急上昇を開始した。瑶妤が叫ぶ。
「博士! ベルトをしっかり掴んでください!」
「ぬおおお!?」
ゴラーテルトンγがプロメテウス号を見上げ、大きく口を開けて次々とエネルギー弾を吐き出している。
しかし、瑶妤の操縦するプロメテウス号は反重力と空気制御システムを駆使し、信じられないほどの機敏さでエネルギー弾の嵐を回避する。
周囲では、味方の戦闘マシンが応援に到着し、ゴラーテルトンγへの集中砲火を開始した。しかし、ゴラーテルトンγは重傷を負いながらも、背中に生えたフジツボから死線ビームを発射し、反撃してくる。その猛反撃によって、いくつもの味方機が撃墜され、地面に炎を上げながら墜落した。
心臓をよくG力を耐えてきた大原博士が頭に冷や汗を掻く。
「これは戦場の厳しさじゃのう」
戦闘が激化する中、レーダーに新たな熱源が映し出される。エリックが報告する。
「博士! ゴラーテルトンγの足元に非常に高いエネルギー反応を検知しました!」
「なんじゃと? まさか、この個体がさらに隠し能力を持っているのか?」
瑶妤はレーダーを一瞥し、冷静に分析を促す。
「どんなデータが出ています?」
「地下5メートル付近に、人間ほどの大きさの熱源があります。温度は3000度を超え、さらに上昇中です。擬人コンピューターの判定では……これは生き物です。」
瑶妤は眉を寄せた。
「妙ですね。プラズマバスター砲の照射後、ゴラーテルトンγ以外の生物が生存する可能性は極めて低いはずです。」
「それが突然現れた。単純な現象ではないのう……」
ゴラーテルトンγの足元、瓦礫の隙間から眩しい光が漏れ出す。それは小規模な爆発とともに周囲の瓦礫を吹き飛ばし、その中から一人の青年が立ち上がる。陽太だった。
陽太の体からは、かつてないほどの熱を伴う光が放たれている。その輝きは、周囲50メートルの闇を完全に追い払うほどだった。
ゴラーテルトンγの六つの目がその光に引き寄せられるように陽太を捉える。
陽太は、自らの身体に流れる熱い力を感じながら呟いた。
「僕の身体……どうなってるんだ……?」
その光は次第に弱まり、やがて陽太の体を包む闇が戻ってきた。冷静さを取り戻した陽太は、自らの立場を認識する。
血と泥にまみれたジャージ、そして刺さっていた鉄筋の傷跡までもが癒えている。
陽太はその不思議な感覚に動揺しつつも、どこか歓喜に似た感情を覚える。
「僕……死んだはずなのに……いや、この感じ……すごくいい気分……!」
陽太の前に立つゴラーテルトンγは、怒り狂ったように咆哮を上げる。その六つの血赤の目が陽太を睨みつける。
陽太もまたその巨体を見上げながら、心臓が力強く鼓動するのを感じた。恐怖ではなく、湧き上がる勇気と確信に満ちた気持ちが彼を支配していた。
「これ……もしかして……僕が戦うってことなのか?」
陽太は拳を握りしめ、ゴラーテルトンγに向き直った。
機嫌を損ねたゴラーテルトンγは、陽太の存在を目障りと感じたのか、親に叱られて憤る子供のように不満を爆発させた。その怒りを玩具にぶつけるかのように、巨大な前足を高々と振り上げ、陽太が立っている穴へと叩きつけた。
ドンッ!!
衝撃に耐えきれなかった周囲の地盤がさらに崩れ、窪みは一層広がった。その攻撃を真正面から受け止めた陽太は、両手でゴラーテルトンγの前足をしっかりと掴み、押し返す。手に伝わる巨体の圧力に負けじと、彼は体中の力を振り絞った。
ゴラーテルトンγは驚いたように動きを止める。しかし、すぐに発狂したように前足を連打し、陽太を押し潰そうと試みた。
だが、陽太は微動だにせず、その連続攻撃をすべて耐え抜いた。
「このでっかい物、いい加減にしろ! この下には避難シェルターがあるんだよ!」
叫びと共に、陽太は左手で前足を支えながら、右拳を渾身の力で叩き込んだ。その一撃でゴラーテルトンγの巨大な脚が大きく弾かれる。
キャオ!!
巨獣の口から驚きと痛みが混ざった叫びが漏れる。その後も、陽太の一撃に反撃されたことが信じられないかのように再び攻撃を仕掛けた。
今度は陽太が右手一本でその前足を受け止める。心臓が太陽のように燃え上がり、全身に力が満ちていく。右腕から放たれる眩しい光は、手首から掌に現れた赤い痣を中心に凄まじいエネルギーを生み出していた。
「これで終わりだ!」
陽太は全ての力を集中させ、右手から高温のプラズマ光束を撃ち出した。その光束はゴラーテルトンγの前足を貫き、鋭い剣のようにその脚を融かしていく。
「お前なんて、消えちまえ!!」
陽太はプラズマ光束をさらに強め、ゴラーテルトンγの前脚を真っ二つに切り裂くと、光束をそのまま胸元のコブへと突き刺した。生体コアを貫通した光束は、ゴラーテルトンγの背中まで焼き切る。
ゴッオオオオオオ!!!!!
致命的な一撃を受けたゴラーテルトンγは断末魔の叫びを上げ、その巨躯が暗闇に崩れ落ちると、爆散して完全に消滅した。
上空でプロメテウス号に座るエリックは、レーダーと現場映像を確認しながら冷静に報告する。
「新たな熱源が6000度を超えました。先ほどの光る現象が原因でしょうか……ゴラーテルトンγの反応は完全に消失。他のゴラーテルトンも敗走しています。」
それを聞いた大原博士は髭を撫でながら、突然に起こった奇妙な現象に目星を付けておき、冷静に分析した声で言う。
「ふむ……これで新たに興味深い研究対象が増えたのう。リー君、現場に向かうぞ」
「了解しました。」
プロメテウス号は高度を下げ、爆発のあった現場へと向かった。




