第103話 見学、検討、次の闇を向け ①
午後の稽古でも200球を投げ切った陽太は、二階の外廊にある休憩エリアへ向かった。ジュースを買い、椅子を引き出して腰を下ろす。
その間、個室では銀士が訓練用の擬人型ロボット複数体を相手に、木刀で真剣勝負を繰り広げていた。
十数体を相手にしながら、銀士は余裕の表情で斬り払い、受け流しからそのまま直進して胴を撃つ。
胴・腹・腕・首・膝・太もも・足元には弱所センサーが仕込まれており、打撃が通れば動きが一時停止、出力を上げればそのまま倒れて停止する。人間相手を想定した模擬戦で、被弾時の反応と減速が忠実に再現されているのだ。
擬人ロボットたちは二本木刀を構え、積極的にハイペースで攻め込んでくる。
集団戦への対応として、銀士は位置と構えを一瞥し、以後の流れを先読みすると、段違いのスピードで動き出した。
ゴツン、ゴツン――前衛二体の剣筋を立て続けに受け止め、脛を蹴り退ける。床を踏み切って一気に前へ。バシュッ、と水平一線。一直線に振り抜いた斬撃が、四体の腕と胴をまとめて弾き飛ばす。
止まらない。銀士はさらに次の群れへ。
咄嗟に守りに回ったロボットに対し、銀士は柄を握るの手指を狙う。刃の先が手指を叩き、左右に踏み換えながら間合いを支配。
刀を落とし姿勢を崩した二体へ、追撃の一撃で胴を刺す。二体が沈む。
クールダウンなど知らぬかのように、銀士はもう次の敵へ向かっていた。
先輩の稽古を眺めていた陽太は、憧れを滲ませて呟く。
「黒川先輩の剣、いつ見ても上出来だね」
「これくらいの相手、銀ちゃんには朝飯前よ」
隣のテーブルでは、待ち時間に飽きた幼女、心桜がつまらなそうに両頬へ手を当てている。
「心桜ちゃん、黒川先輩って、いつも体調が万全だよね」
「銀ちゃんはいつでも無敵だよ。道場では課題に合わせてわざと手加減してるんだよ。本気を出したら、設備がすぐ壊れちゃうから」
「力の制御が、この道場の趣旨でもあるよね。でも、あの数で動きのパターンを掌握するの、真似できないな」
「難しくないよ。相手の最大可動域、武器の特性、ポジション、それらを加算すれば見通せる。あとは実戦経験を積むだけ」
幼女の口から出る説明とは思えない。いつも銀士に付き従う彼女にも、相応の場数があるのだろう。
「戦いも、難しい学問だね」
心桜は小首をかしげて考え込む。
「理論より実戦の方が大事かも。理論やデータをどれだけ集めても、例外が枠を壊すから」
「でも心桜ちゃんもすごいね。先輩やコーチから聞いた。大洗で現れたシャドマイラ、手伝ったんでしょ?退治の経験、結構多いんだ?」
「ああ、あれは大型の番犬みたいな相手。異端の改人より単純よ。動物みたいに種ごとの習性があるし、UCBDのデータを学んでおけば難しくないの。しかも退治はお小遣いになる。楽しい仕事だよ」
柔らかな笑み。彼女にとっては簡単なことらしい。
「お小遣い稼ぎレベル、ってわけか」
「そういえば陽菜ちゃん、今日は来ないの?夏休みなのに」
「来年受験だから。今は友達と家で勉強合宿」
「へぇ、勉強か。……でも、まだ先でしょ?」
「いやいや、受験生には今が大事な時期だよ」
「心桜も来年は受験だよ」
「えっ、そっちも中三?」
陽太はつい小学生だと思っていた。実際はロリスペックの身体をした十五歳の少女だ。口を開けた陽太の顔を見て、心桜は呆れ顔で肩をすくめる。
「そう。勉強はそんなに難しくないよ。……なるほど、陽菜ちゃんは普通校に行くのね」
「心桜ちゃんは違うの?」
「今も、これからも通信学校。《《こっちの事情》》に専念できるから」
「じゃあ、黒川先輩も?」
「そう。どこでも授業が受けられるし」
「確かに、通信学校はその利点が大きいね」
退屈そうに目を伏せる心桜は呟く。
「そうか……陽菜ちゃんがいないと、銀ちゃん待つ時間がつまらないなぁ」
――僕がつまらないことか……
陽太は差し指を頬を掻きながら笑顔をやや硬めになった。




