第100話 チーム・ウィクトーリア ⑥
サポートセンターの実技テスト室。個人検査ではなく、本人の同意のもとで見学可のセッションだ。統たちは脇に立ち、いつでも投げられる構えの陽太を見守る。
「日野くん、どんなボールを投げるかな?」
万璃愛はワクワクと笑みを浮かべる。かつてのスターの息子が、どんな投球を見せるのか、想像が膨らむ。
「でも、プラズマ体を投げるの、目で追えるかな?」
レイミの疑惑に、統が落ち着いて答える。
「おそらく雷光が走る一瞬しか見えない」
「電流の速さなら、俺は見えるッスよ」
五歩前に出た純一が言う。
「では、この前の測定項目から」
「よろしくお願いします」
陽太が足元のマークに立つと、二十メートル先の床からパネルボードがせり上がる。ターゲットを睨み、陽太は心を静めた。
――前に受けた課題だ。今は“広く”見える。虎本コーチの練習の効果だ。ミスる気がしない。
肺に軽く空気を入れ、目を大きく見開いて集中する。
〈On your mark!〉
〈Ready!〉
ブザー音。右上の「4番」が点灯。
陽太は狙いを定め、両手を組んで投球フォームへ。左足を上げ、大きく踏み込み、右手にまとめたプラズマ球を振りかぶる――橙の光が直線の軌跡を描き、4番ボードを撃ち抜いた。
続いて「5」「12」「1」「8」「3」……順番に点灯するパネルを、陽太は難なく破壊していく。
リズム良く、滑らかに、力強く。
球が離れる刹那をかろうじて捉えた万璃愛が、感嘆の声を上げる。
「速い!」
投球の動き自体が追えないレイミは、目を見張った。
「全然見えません……」
統は冷汗をにじませ、分析する。
「瞬間的な加速は、もう音速を超えている。球そのものがビーム兵器だ」
「ビリー、見えた?」
「全部ストレートッス。こんな速い球を投げる異能者、初めてッスね」
ビリーが屈託なく褒める。
「この速度で、狙いが狂わない。目が離せない男だな」
康靖は腕を組み、低く評価を述べる。
側面から兄の投球を見つめる陽菜は、両手を胸元で組む。動きは見えない。ただ宙を刻む残光と、ボードが砕ける瞬間、一球ごとに真剣に投げる兄の横顔が、胸の鼓動を速めた。
「お兄ちゃん……」
「羽っちゃんは、どう思う?」
「この技は、被害を抑えるために身につけた“枷”だろう。本能の力をこれ以上出すことを許されない。彼も不憫だ」
他愛もない表情のまま、銀色の瞳に陽太の動きが映る。
「青瀬くん、その意味は?」
レイミが疑念を含んだ声で問う。
「人の娯楽に合わせて野生動物に拘束具をはめ、飼い慣らすのと同じことだ」
「でも、それは力を有効に制御するためでもあるでしょう?」
「《《生まれながら数千メートルの空を舞える鷹に、十メートル以上は飛ぶな》》と教え込むようなものだ。たぶん彼は、自分の《《本当の出力》》がどれほどか、まだ知らない。哀れでもあり、危うくもある」
この場で陽太の本能的な実力を見抜いているのは羽だけだ――統はそう悟り、感嘆を漏らす。
「今の連続投球、そして昨日の戦いぶり……彼の限界は、想像が追いつかないな」
――ドン!
音速を越える破砕音が、再び鋭く場内に轟いた。
陽太は次の球種を考える。
――次はカーブ。距離的にいけるはずだ。
指の握りを変え、投じたナックルカーブが美しい弧を描いて「10番」を正確に撃ち抜く。
純一は爽やかな笑みを向け、いつか大物になると確信したような眼差しを注いだ。
終了のブザーが鳴く――
二十球中、九割が命中。威力制御も安定し、着弾と同時に球は爆ぜて消失、背後の壁への余計な損傷はない。
短時間に連投したのに、陽太の額に汗はない。まだ投げ足りないといった息遣いだ。
「日野くん、自分の投球は?」
「いつもよりボードが大きいので、狙いやすかったです」
「そうか。なら、難易度を上げようか?」
「やってみます」
次に現れたのは、正方形パネルを九分割したものと、全体二十五番までの微小パネル。
「ターゲットが増えましたね」
試射の結果、中央九マスの命中率は75%。外角や外枠など普段狙わない領域は三割弱に落ちた。数字に苦笑しつつ、陽太は素直に漏らす。
「思ったより低いですね」
「たった一か月の指導で、ここまでコントロールが伸びたら十分。君は常用技の雛形を掴んだ」
「常用技?」
「状況が発生したら、即座に繰り出せる自分の利き腕。小競り合いはすぐ収め、大物と戦いなら初撃の間に相手の情報を集め、次の手を適切に選ぶ。チームの皆に課している最初の課題だが、君はすでに到達している。あとは磨くだけ」
「分かりました。戦闘でも、頭を使うんですね」
「さらに上げよう。動くターゲットだ。チャレンジしてみないか?」
「はい!やります!」
モード切替。床の各所が開き、パネル搭載ドローンが宙へ。水平・垂直・円運動・ランダムに軌道が交錯する。
「難しいけど……でも面白い、最初はどれが点くだろ?」
挑戦心に火がついた陽太は、すでに構え、プラズマ球を生成する。
〈On your mark!〉
〈Ready!〉
結果、命中率は辛うじて三割。着弾は微妙にブレが多い。
「感想は?」
陽太は首筋に手を当て、楽しげに、少し照れた笑み。
「やっぱり難しい。でも動きは見えます。未経験の課題なので……次はもっと上手くなると思います」
「うん、上々だ。テストは以上。次回が楽しみだ」
「はい、頑張ります」
測定が終わると、仲間が駆け寄る。
「日野くん、すげぇ技、身につけたッスね」
「うんうん、一球入魂で次々と格好いいわ!」
統は冷静に総括する。
「超人系を想定したが、それ以上だ。これだけの威力を連投しても体調が崩れない。スタミナが段違いだ」
康靖も短く評価する。
「その技は、確かにシャドマイラ退治に効くかもな」
「いえ……最初は良かったけど、途中からはまだまだで」
「でも、お兄ちゃん、よく頑張ったよ」
万璃愛は親指を立てるジェスチャー差し出しに励む。
「ドンマイよ!訓練モードなら、何でも試せるから」
「同じプラズマでも、外部装置なしに遠距離命中を出せるのは強みッス」
「ビリーの電気は届けますか?」
「最適は3メートル以内。それ以上は【ボルト・ブレイク】を当てるのに補助装備が要るッス」
ビリーが肩をすくめると、純一が補足する。
「だからリストとニーサポートの釘打ち銃を使っているでしょう?」
「そうッス。装備がないと、いくら強い電気でも必ず当たるとは限らないッス」
「余計な小細工だ。お前の脚力で追う方が効率的だろ」
いつも寡黙な羽が、痛い核心を突く。
「分かるけど、俺は柔軟で多彩自在な戦いがしたいッス」
「さて、パーティの続きに戻ろうか。全員そろっているし、次に誰か挑戦してみる?」
一同は顔を見合わせる。陽太の投球に触発されたのか、統もビリーも闘志を灯し、レイミは静かに微笑んで気を引き締める。
その後は、統、ビリー、レイミ、康靖、羽の順に披露。観る側に回った陽太は、仲間たちの得意技を初めて目の当たりにし、新米ルーキーとして胸を躍らせながら、鮮烈な印象を刻みつけた。




